印刷業務の「ブルシット・ジョブ」を考える
そこが知りたい!gcj MANAGEMENT(155)
「本当に必要な業務であるのか」を見直すこと
ブルシット・ジョブという言葉は、米国・文化人類学者のデヴィッド・グレーバー氏が、2013年の論文で初めて使った言葉です。著書『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』の中で、ブルシット・ジョブについて詳細に解説したことで注目されるようになったのですが、注目と言っても、あくまでもビジネス上で話題にされるようになっただけで、世間ではほとんど知られていない言葉です。
ブルシット・ジョブは、「嘘の仕事」「でたらめな仕事」「不要な仕事」という意味がありますが、それよりも、業務に携わる本人も「この仕事は本当に必要なのだろうか」と感じているのに、慣習や社内ルールによって続いている仕事のことを指します。
そこで今回は、印刷会社におけるブルシット・ジョブについて言及します。仕事でブルシット・ジョブがないかを確認し、発見したならば、改善を図ってさらなる生産性の向上、業務の効率化を進めていただければと思います。印刷業務の場合、次の7つの業務にブルシット・ジョブが生じる恐れがあります。
1. 意味のない「転記・二重入力」
例えば、営業が受注内容をExcelに入力した後に、その内容を生産管理担当が別のシステムに再入力して、さらに製造指示書へ転記し、経理担当者が請求書作成のためにもう一度入力するといった一連の業務です。
これは同じ情報を何度も人間が移し替えているだけですから、不要な業務の繰り返しになります。この場合は、印刷業務管理システム(MIS)を導入し、営業が仕様書に必要な事項を入力すれば、請求書の作成まで自動的に行えるような仕組みを構築することです。そうすれば、ブルシット・ジョブから解放されるはずです。
2.「確認したことを確認する」業務
印刷会社では品質管理のための確認は重要ですが、営業が確認したものをDTP担当が確認し、校正担当が確認し、さらに上司が確認するといった流れがあります。このように、同じ項目をほぼ同じ方法で何人も確認しているケースがあります。もちろん、誤植・色・寸法・加工などに間違いがないかをチェックするのは必須ですが、問題は「なぜこの人が、このタイミングで、この項目を確認する必要があるのか」が説明できないケースです。このような不要な確認は無くすようにしましょう。
3.誰も見ない・使わない社内資料を作る仕事
これは意外とあります。例えば、「毎月の売上報告書」「詳細すぎる営業会議資料」「実績をまとめただけの資料」「過去から続いている管理表」「誰も読んでいない一覧表」などです。特に着目したいのが、「昔からやっているから」という理由だけで作成されている資料です。資料作成そのものが目的化すると、かなりブルシット・ジョブになりやすいので気を付けましょう。
顧客のために使う時間を増やすことを考える
4.紙の「回覧・承認」を維持する仕事
例えば、営業→上司→工場→管理者→経理と紙の伝票が回り、各担当者が印鑑を押す。電子化できるにも関わらず、「昔からこのやり方だから」という理由で続けている場合です。これは、紙そのものよりも、紙を運ぶ・探す・保管する・確認する時間がブルシット・ジョブになります。電子化に切り替えましょう。
5.受注後の「細かすぎる社内調整」
印刷会社では、納期確認、用紙確認、加工確認、部数確認、データ確認、配送確認など、多くの確認・調整が必要です。しかし、情報共有の仕組みが悪いと、「あの案件、どうなっていますか?」「誰が担当ですか?」「このデータは最新版ですか?」「この納期で大丈夫ですか?」といった確認のための確認が大量に発生します。これは印刷会社の生産性をかなり低下させる要因になります。生成AIなどを使って、判断の自動化、手間の削減、確認の同時並行化を行っていくことで簡素化できるはずです。
6.会議のための会議
印刷会社では、営業・生産・経営会議あるいは部門会議などが増える場合があります。それぞれの会議で意思決定が行われるなら意味がありますが、単なる「先週の報告」「今週の予定」「特に問題ありません」で終わる会議なら、かなり見直しの余地があります。特に、社長に報告するために、事前に打ち合わせと称した「根回し」やプレゼンの練習場としての会議は、不要と言わざるを得ないでしょう。
7.過剰な「見積もり作業」
印刷の見積もりは重要ですが、案件によっては、受注確率が極めて低い案件に、何時間もかけて精密な見積もりを作っている場合があります。特に、「とりあえず見積もりだけください」という案件を大量に処理している場合、営業・積算担当者の業務時間がかなり失われます。ここは、案件確度×見積もり工数で管理してブルシット・ジョブを発見し、不要な見積もり作業を無くしていくようにしましょう。
印刷会社では、「仕事そのもの」より「仕事の周辺」にブルシット・ジョブが多いのが特徴です。ブルシット・ジョブを探す場合、DTPや印刷作業そのものよりも、「情報を移す」「確認する」「報告する」「承認をもらう」「資料を作る」「探す」「待つ」という周辺業務を調べるのがよいでしょう。
ブルシット・ジョブを発見する目的は、社員の仕事を奪うことではありません。特に営業と生産現場に言えることですが、「社内のために使っている時間」を減らして「顧客のために使う時間」を増やすことが重要です。印刷会社の業務を「価値を生む仕事」「必要な仕事」「ブルシット・ジョブ」に3分類して、どこからAI・自動化に着手すべきかを明確にすることから始めてみてはどうでしょうか。
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