2026年は印刷業界のAI活用元年だ!

AI搭載の機器・システムの開発状況と将来ビジョンを探る

AI搭載の機器・システムの開発状況と将来ビジョンを探る

2026年は、AI(生成AI含む)が、印刷業界のビジネスや作業を効率化するツールとして浸透していく年になることが予想されます。DTPでは文書作成やデザインの創出、制作の効率化を支援し、製版・印刷工程では自動化、校正支援、品質管理などの用途で機器にAIが搭載されるようになります。また、営業分野においても、業務効率化、顧客満足度の向上、マーケティング施策などで活用が進むでしょう。AIを活用することで業務を効率化し生産性を向上させるだけでなく、時短化や人手不足を補うメリットも期待できます。今回はAIの利用状況並びに印刷関連機器・システムに搭載されているAIを紹介し、今後のビジョンについて探っていきます。2026年は印刷業界にとってAI活用元年となるでしょう。

AI利用率が低い日本企業

 現在、日本の企業におけるAI利用率はどうなっているのでしょうか。特に生成AIに関する調査を見てみます。ちなみに生成AIとは、テキスト、画像、音声、動画などのオリジナルコンテンツを自動で作り出すAIのことを指します。
 総務省の『情報通信白書(令和7年版)』の「企業における業務での生成AI利用率(業務別・国別)」を見ますと、実際にAIを使用していて「期待を上回る効果」や「期待通りの効果」になっているという肯定的な回答が30%を超えているのは、「社内向けヘルプデスク機能」(社内向けのマニュアルや規約の参照、社内システムに関する問い合わせ対応等)と、「メールや議事録、資料作成等の補助」しかありませんでした。3位以下は、業務で使用していてもあまり効果が見られないという回答結果になっています。(グラフ参照)
 また、「導入予定はない」と回答した企業が、どの項目も3割を超えている点は気がかりです。日本企業においては、まだまだAIへの関心が低いことが窺えます。実際、業務での生成AI利用率は55.2%という調査結果もあり、これは米国の90.6%、ドイツの90.3%、中国の95.8%と比較して、かなり低い利用率です。そのため日本は“AI後進国”と言わざるを得ないでしょう(同白書「企業における業務での生成AI 利用率(国別)」)。原因としては「AIスキルを持つ人材がいない」「どのように活用してよいのか分からない」「目的意識が曖昧なまま使用している」、また「経営者自身がAIへの理解不足から導入に消極的」といったことなどが挙げられます。
 現在、政府はAI戦略を策定し、技術開発や人材育成に注力しており、企業もAIを開発するポテンシャルは高いとされていますから、今後はAIの開発・導入が進んでいくものと思われます。

印刷業界に起こる3つのトレンド

 印刷業界にとっては、紙媒体やデジタルコンテンツを制作する際にAIは大いに関連性があります。活用すれば効果が出るツールであることは間違いですから、活用しない手はありません。
 社内の文書作成やプレゼン資料だけでなく、顧客への企画書や提案書づくり、広報宣伝用の資料、メールマーケティング用の文書作成、Webのランディングページ制作、問い合わせに対する自動回答など、各種制作や幅広い業務に利用できます。これらを集客・販促に活用し、受注増や売上アップに繋げていきたいものです。
 では、今後印刷業界で起こり得るAIの主要なトレンドについて言及します。1つは、AIがより複雑な論理的思考や問題解決能力を持つようになり、単なる文書コンテンツの生成だけでなく、より高度な意思決定支援ができるようになる点です。例えば、印刷物の品質管理の最適化、生産計画の自動化、予知保全、資材管理といった分野で、人に代わってAIが的確に判断し実行するようになるでしょう。
 次に、ロボット工学などと組み合わされて、自然や物理的環境で判断するAI(Physical AI)が登場し、現実世界での応用が拡大していくことが予想されます。AIを搭載したロボットが自律的に判断することで、印刷資材の柔軟な搬送と管理が実現します。これにより、夜間作業や人手不足の解消が期待されます。また、リアルタイムでインクや紙の補充、用紙の自動セットなどを人に代わって行うようになるでしょう。
 3つ目は、特定のタスクや一連の作業を自律的に実行する、自律型AIエージェントの普及です。例えば、AIエージェントが、特定の市場動向や競合他社の情報を自動収集し、自ら目標を達成するために、Web検索エンジンやデータベースへアクセスし、有益な情報を収集・分析してレポートを作成するといった活用が考えられます。
 これら3つのトレンドは、印刷業界に限ったことではなく、あらゆる産業の企業のワークフローに組み込まれていくことになるでしょう。ただし、現状としては、まだ端緒についたばかりと言わざるを得ません。

企業における業務での生成AI利用率

DTP制作ではAIが不可欠になる

 次に、印刷工程でAIがどのような働きをするのかを見てみます。DTP 制作でのAIは、テキスト、画像、音声、動画など、複数の形式のデータをシームレスに理解し、組版して印刷データを生成するようになります。こうした技術や能力は日進月歩で向上しており、既にAIを活用してDTP制作を行っている印刷会社も存在していますし、今後一気に増えていく可能性が出てくるはずです。
 現在、DTP分野で最も多く利用されているのが、「AdobeCreative Cloud」に含まれる各種AI機能です。既にこのAI機能を使ってDTP制作を行っている印刷会社は少なくないはずです。
 個々について言及しますと、最新の「Photoshop」内には、画像生成、テキストエフェクト、ベクター生成など、さまざまなAI機能を提供する「Adobe Firefly」が搭載されています。Photoshopユーザーは、Fireflyの技術を活用することで、画像内の特定の領域を選択して行う生成塗りつぶし、切り抜きツールによるキャンバス境界線を越えた画像拡張、また、ワンクリックで不要なオブジェクトの削除などが可能になります。さらに、テキストプロンプトから生成した画像をInDesignドキュメント内のフレームに配置し、レイアウトに合わせて調整することもできます。Firefly 機能は、InDesign内で直接操作できるため、クリエイティブなワークフローを効率化でき、制作で大いに役立つお薦めのAI機能です。
 「Illustrator」では、AIがテキストプロンプト(指示文)から編集可能なベクターグラフィック(ベクター画像)を生成します。また、デザインの配色をAIが提案・変更することもできます。「InDesign」でも、テキストの自動流し込みやレイアウト調整にAIが使用されており、長文のテキストを効率的にフレームに流し込んだり、レイアウトの微調整をAIの補助によって行ったりすることが可能です。
 Adobe製品以外では、Affinityスイート(Publisher、Photo、Designer)もDTP制作で利用されています。特に注目すべきは、開発元のSerifがCanvaに買収されたことにより、CanvaのAI機能との連携が強化されている点です。Canvaのデザインプラットフォームが持つ豊富なAI機能を、Affinity 製品内で利用できるようになり、AIを活用した画像生成やデザイン補助などをDTPワークフローに取り入れることが可能になっています。
 さらに、特定の印刷工程を自動化・効率化するためのAIソリューションやシステムも、国内の印刷会社や関連企業から提供されています。株式会社Tooでは、AIを活用してカタログやチラシなどの制作を効率化するAI・RPAソリューション「TooAI SUITE」を提供しています。これは顧客独自のパッケージチェックシステムとして構築されるもので、特に校閲・検査作業の自動化・効率化に焦点を当てており、AIが校正支援、作業の時短化、エラーの削減を実現します。
 また、入稿前のデータチェック(プリフライト)においても、生成AIの活用が急速に普及していくことが予想されます。トンボ、塗り足し、カラーモード、フォントの埋め込み、画像の解像度といったチェック項目を、AIエージェントが瞬時に検査するようになるでしょう。
 ちなみにAIエージェントとは、入力されたデータを理解し、目標達成のために自律的に計画・設定・実行・調整を行うAIツールのことですが、今後開発が進み、DTP制作や印刷現場にも導入されるようになると言われています。AIエージェントが元原稿の誤字脱字、禁則処理、用語の表記統一といった校正作業も高精度に行うようになり、これによってDTPから製版工程における人為的な作業ミスや校正ミスが無くなり、トラブルを未然に防止できるようになるでしょう。
 また、デザインレイアウトでは、過去の制作物やデザインルールを学習したAIが、最適なレイアウト案を複数提案することも可能になります。デザイナーは、その提示されたレイアウトから1つを選んで、部分的に修正するだけの作業になるでしょう。そのため、デザイナーはクリエイティブな作業だけでなく、AIエージェントに的確な指示を与え、最適なレイアウト案を引き出すスキルを身に付けることが求められてきます。
 また、DTPオペレータやデザイナーは、AIエージェントの普及により、顧客のニーズを汲み取ってより有益なデザイン制作を行うことが求められてきます。顧客にアイデアや企画を提案する能力も重要となり、仕事の幅を広げていく必要が出てくるでしょう。特に、デザイナーの資質がより問われてくるようになると考えられます。売上増に貢献するコンテンツ制作ができているかどうかが、AIによって判断されるようになるかもしれません。デザイナーの能力が数値で視覚化されて、仕事がよりシビアな環境下に置かれるようになることが予想されます。

製版・印刷工程でもAIの活用が進む

 製版工程においても、着々とAIが導入されつつあります。富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社では、AI技術を採用したジョブプランニング・面付けソフトウェア「tilia Phoenix」を提供しています。同製品は、機材・資材コストをベースとしたプランニング作業や面付け作業を、AI技術を用いて自動化するソリューションです。
 同製品はジョブプランニングというユニークな機能を持ち、MISなどからの受注情報や、製版処理済みのデザインデータ、CADデータなどを読み込むと、利用可能な資材や印刷機の中から最適な組み合わせを選択し、同時に面付け・付け合わせパターンなどを自動生成しますし、印刷時間や製造コストの試算も併せて行います。複数種類の印刷機や用紙にまたがる大量の品目であっても、「インポジションAI」と呼ばれる独自のアルゴリズムによって、わずか数分の高速処理で最適なプランニング結果を提示します。
 一方、印刷工程ではAI搭載カメラが印刷物をリアルタイムで監視し、汚れ、かすれ、色ムラなどの不良を瞬時に検知し省くようになります。既に防犯や監視、物流、小売分野ではAI搭載カメラの普及が進んでいますが、印刷現場でも、これから本格的に導入されることが予想されます。
 現在、印刷業界向けのAI搭載カメラとしては、タクトピクセル株式会社のAI検査ソリューション「POODL(プードル)」があります。「POODL」は、印刷現場の品質検査をAIで自動化し、省力化・効率化を実現するもので、深層学習を主とする高度な画像認識を行い、画像データ収集、加工、学習、利用まで一貫して実現するAI画像検査プラットフォームです。印刷の製造工程で生成される画像を適切に活用するようプログラミングされており、人が行っていた検品作業や、目視で判断していた細かな欠陥検出をAIが行います。
 また、シリウスビジョン株式会社では「AI印刷検査」を発売しています。これは、検出した画像に対してAIが良品か不良品かを判断するもので、良品と判断したら検査機が自動的に検査を継続し、不良品と判断したら目視検査不要で貼り換えなどの作業を実施するというものです。技術的な特徴としては、検査データをすべて暗号化し、収集したデータに対してWebブラウザで分類作業を行ってAIモデルを作成します。その後、現場での検査結果に対してAIを適用し、シミュレーションがOKになるまで繰り返します。欠陥が見つかれば、次工程に進むまでにメールでアラート通知を行い、次工程のミスや不要な作業を削減し、不良品の流出を防ぐことができます。
 印刷機では、AIを搭載して自動化・効率化するとなると、やはりコンピュータと連結し高度にIT化されているデジタル印刷機との親和性が高いということで、AI搭載が進みつつあります。
 既に製品化されたものとしては、先ごろ富士フイルムビジネスイノベーション株式会社が新発売した「RevoriaPress™」シリーズのハイエンドプロ市場向け「RevoriaPress™PC2120」は、AI技術を搭載し、印刷業務の自動化・効率化を実現しています。同製品の用紙設定を自動化するAI技術では、「用紙プロファイラー」に用紙をセットするだけで、独自開発のAIが用紙特性を解析します。フィルムやアルミ蒸着紙などの特殊紙も読み取り、用紙の種類・坪量・色などの設定項目における最適な設定を提案し、用紙設定作業を効率化します。
 また、画質設定を最適化するAI技術を搭載したプリントサーバー「Revoria Flow™ PC31」は、入稿データの特徴を解析し、文字や細線の強調・調整など、データ特性に応じた最適な画質設定を提案します。さらに、画像補正のAI技術では、入稿データに含まれる写真や画像のシーンをAIが自動判断し、人物や風景などの色味に応じた最適な画像補正を行い、それぞれのシーンに合った色味で表現します。これらの多岐にわたる用紙設定や画質設定にAI技術を活用することで、作業者に専門的な技術や経験がなくても、時間や手間をかけることなく効率的に高品質な印刷が可能となります。今後、デジタル印刷機ではAIを搭載した製品が主流になっていくことが予想されます。
 さらに、AIエージェントが色差データに基づいてインキ濃度を自動で調整し、人が介在することなく最適な色再現を実現するようになるでしょう。印刷機については、センサーデータや過去の印刷ログ、環境パラメータをAIが分析し、印刷機の部品劣化や故障の兆候を事前に高い精度で予測してオペレータに伝えるようになります。これにより、計画的にメンテナンスが行えるようになり、突発的な機械停止による生産ロスを防ぎ、稼働率が向上するようになるでしょう。
 生産現場だけでなく、営業・マーケティング分野でのAI活用も広がっていきます。AIが顧客データや過去のレスポンスの実績を分析し、紙媒体のDMやメールのDMの反応率から判断して、より精度の高いターゲットの設定や、ターゲットに合った最適な文面を提案します。また、社内業務の効率化にも貢献します。ChatGPTやGeminiなどの生成AIを活用し、社内外のメール文案作成、最適な企画書や提案書の作成、資料の情報整理、デジタル化した伝票の整理などを可能にします。

AIのメリットとデメリット

 AIを活用することでメリットがあるのは事実です。先述した3つのトレンドを掘り下げますと、次のようなメリットが生まれます。「業務が効率化することで労働力不足が解消される」「作業現場でのミスや事故が減少し、安全性が向上する」「人件費のコストを削減できる」「顧客や市場のニーズを把握し、最適な提案が行えて顧客満足度を高められる」「高精度なデータ分析や予測ができる」「遠方の顧客や社員とコミュニケーションがよりスムーズに行える」といったメリットが生じます。これらは印刷会社が抱えている課題で、それをAIが解決してくれるわけです。経営を持続させていく上で、AIの活用は一考する価値が十分にあると言えるでしょう。
 ただし、メリットだけでなくデメリットも生じてきます。「AIを活用することで、内部の人間が意図せずに情報漏洩してしまう危険性が生じる」「導入しているAIシステムに問題が生じた場合、関連機器も停止するリスクが生じる」「AI搭載機器が事故を起こした時に、責任の所在が曖昧になる場合がある」「AIが判断したことが正しいのかが不明確で、AIの思考プロセスが人間には理解できない“ブラックボックス”になる」といったデメリットが考えられます。これらのデメリットを理解した上でAIを導入し、AIのメリットを最大限に活かせるようにしたいものです。

Revoria Press™ PC2120

いち早くAIを活用した企業が生き残る

 生成AIは、印刷業に新しい経営の在り方や新しい価値を示す可能性をもたらします。生産工程の効率化だけでなく、企画提案の質を高めるための発想を生み出すツールとしても利用価値があります。AIをいち早く導入し活用した印刷会社は、競争の優位性を得やすくなり、生き残っていく可能性が高まるでしょう。
 今後は、AIが顧客のニーズを解析し、最適な印刷提案やデザインを提示する場面が増え、印刷ビジネスが今まで以上に活性化するかもしれません。それほど大きな可能性を秘めているわけです。製版・印刷工程についても先述したとおり、AIを取り入れた機器が次々と開発され、作業をサポートするようになるでしょう。ただし、すべての制作・生産が人手を介さず自動化するわけではありません。人の感性や想像力をAIがとって代わることは、現時点では考えられません。
 数年後の印刷業を思い描くと、AIを使ってアイデアや企画を産み出し、市場分析を行った後、顧客に最適なコンテンツを作成し、提案書を顧客に送信します。ここまでで人が担う作業は、アイデアや企画を考えることだけです。顧客が提案書を了解し、案件を発注すればDTP制作に移行します。AIが予め最適な体裁を数案考え、顧客から支給されたテキストや画像、イラスト、あるいは新規に制作したデータを基に、ラフレイアウトをAIが数点作成します。それらのラフ案を顧客に送信し、中から1点が選ばれた後、デザイナーの指示でAIがデザインレイアウトを完成させ、PDFデータを出力します。デザイナーが微調整を行い、顧客の了解を得られれば、自動校正ソフトにかけて印刷用データを完成させ、デジタル印刷機へ送信します。おおよそ、以上のような工程を経て印刷されるようになるのではないでしょうか。
 生産工程では、常にAIが各機器やシステムをサポートし、最適な状態で稼働させるため、ミスやトラブルはほぼ無くなることが考えられます。また、紙の搬送や印刷物の積み込み作業は、AIを搭載したロボットが自律的に行うようになり、いわゆるAI主導によるスマートファクトリーが実現していくでしょう。
 現状では、AIは人の判断や作業を補助し、適切かつ迅速に処理し、ミスやトラブルを防止するツールとしての役割にとどまっており、進化の途上にあります。しかし、そのようなAIでも、いち早く使いこなしていけば、業務効率化や生産性を向上させて多大な成果を得られるわけですから、高付加価値印刷を目指す上でも、AIは欠かせないツールです。「先んずれば人を制す」ではありませんが、AIは早く取り入れれば取り入れただけ成果に結びつく可能性が高まります。今年からAIを活用して新しい印刷価値を創造するとともに、顧客の課題を解決できる経営を目指していきたいものです。

生成AI AI