成長が見込める「デジタルツイン」を探る!

DTP・印刷会社とは親和性があるため、中長期的視野に立って事業化を

DTP・印刷会社とは親和性があるため、中長期的視野に立って事業化を

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界にある都市、建物、工場、あるいは人の体などの「状態」や「動き」を、センサーやIoTデバイスを通じて収集し、コンピュータ上の仮想空間に同じものを再現する技術のことを指します。現実世界と仮想世界に、まるで「双子(ツイン)」のように同じものが存在することから、このように呼ばれています。デジタルツイン市場は、2030年代に向けて大幅に拡大すると予測されており、製造業のDXやAI活用が大きな牽引役になると見込まれています。現在、既に製造業、建設、都市開発、インフラ、医療、防災など幅広い分野で導入が進められており、東京都でも2030年を見据えたデジタルツインのロードマップを公開し、都市全体を対象とした社会実装を推進しています。そこで今回は、成長が見込めるデジタルツイン事業に、DTP・印刷会社が入り込めるのかどうか探ってみました。

 デジタルツインは、現実世界にあるモノや状態をコンピュータ上に正確に再現し、リアルタイムで管理し、未来を予測し、その分析結果を現実世界へフィードバックして、業務の効率化、コスト削減、リスク回避、収益アップを実現することを目的としています。そのため、現実空間をデジタル化する技術とデータを活用するノウハウを持つ企業が、市場を成長させていくと考えられています。具体的には、「現実世界を3Dデータ化」「IoTデータとの連携」「AIで分析しシミュレーションする」といった技術を使って価値を生み出していきます。
デジタルツインを事業化するには、工場、商業施設、
 オフィス、病院、学校、観光地、工場設備、機械、製品などの3Dモデルを一つずつ制作する3DCGコンテンツの制作スキルが必要になります。印刷会社で、特にDTP・製版を主体にしている会社では、既にデジタルデータによるワークフローを構築しているため、デジタルツインとは親和性があると言えます。そのため事業化する上で必要なことは、3DCGコンテンツを制作するスキルになるのですが、デジタルツイン分野に限らなくても、3DCGコンテンツ制作のスキルは、3DCG市場の成長を考えた場合に大いに有望ですから、触手を伸ばしていきたい分野と言えるでしょう。
 実は、DTP・印刷会社がデジタルツイン事業に向いていると思われるのは、既に色管理、写真撮影、レタッチ、DTP、CADデータ管理、画像処理、校正、データ変換、品質管理というノウハウを持っているからです。デジタルツインにおいては、写真、動画、CADデータ、BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)、GIS(地理情報システム)、ドローン測量などを組み合わせる作業が必要ですから強みになります。最近では360°撮影、ドローン撮影、フォトグラメトリ(※1)を事業にしている印刷会社も現れていますから、技術の一部を既に持っていると言えるでしょう。ですから、将来を見通した場合、デジタルツインは相性が良い分野であると言えるのです。
 デジタルツインの仮想空間は、3DCG技術によって形作られるのですが、ただの3DCGと異なる点は、「リアルタイムに現実と連動している」点です。通常の3DCGは一度制作すると、自動では変化しません。しかし、デジタルツインはセンサーやIoTを介して、現実の稼働状況や温度、人の動きなどをリアルタイムに反映します。デジタルツインは3DCGに加え、部品の劣化状態、過去の稼働履歴、AIの予測アルゴリズムなど「目に見えない動的データ」が内包されています。3DCGはデジタルツインにとって、「データを分かりやすく可視化するための画面」という関係にあります。
 例えば、現場の機器や建物に取り付けられたセンサーから、温度、振動、位置情報などのデータをリアルタイムで取得し、集めたデータをデジタル空間上の3DCGに反映し、現在の状態を可視化・分析します。AIや物理シミュレーションを用いて、「このまま稼働させるといつ故障するか」「道路の交差点を変えると渋滞はどうなるか」などを予測して、その予測結果をもとに現実の設備の調整や運用改善を行うわけです。

デジタルツインの主な活用例

 デジタルツインの主な活用分野を表にしてみました。(表)
 では、DTP・印刷会社がデジタルツイン事業に参入する場合、どうすればよいのでしょうか。最も重要になるのは、「現実世界をデジタルデータとして正確に再現し、活用する技術」です。つまり、3DCG制作技術の習得です。具体的には、3DCAD、3Dモデリング、フォトグラメトリ、LiDAR(※2)スキャンなどが挙げられます。
 しかし、未経験のまま明日から3DCGを制作しようとしても実現できるものではありません。昨今は、AIを使えば専門のスキルがなくても、数分で立体モデルを生成することが可能になりましたが、実用的なコンテンツを仕上げるには、3Dソフトを使って人間の手による修正が不可欠です。自社だけでスタートさせる場合は、コンテンツ制作の訓練期間はどうしても必要です。
 デジタルツイン市場がさらに本格化するのは少し先になるでしょうから、今から人材育成に着手しても十分間に合うでしょう。社内にDTPスタッフがいれば、3DCG制作を学ぶ講座を受講させたり、講師を招き定期的に技術セミナーを開催したりして、制作スキルを習得できるように社員を育成してみることを考えたいものです。あるいは、3DCG制作ができる人材を採用するという方法もあります。その際は社長がはっきりとデジタルツインや3DCG分野の事業に進出することを表明し、社内に浸透させていかなければなりません。
 一番現実的なのは、社員の中にデザイナーやDTPオペレーターがいれば、3Dソフトの操作に慣れるために、無料かつオープンソースで業界標準に近い機能を持つ「Blender」を導入して、まずは3Dソフトを使ってみるのがよいでしょう。「習うより慣れよ」ということわざがあるように、例えば、週に1日、終業後に30分程度、3Dソフトに触れる時間を作って、操作方法や3D知識を身に付けるのです。
 そして、最初から精巧な3Dモデル作成に挑戦するのではなく、自社でデザインしている紙のパッケージやシール、キャラクターなどがあれば、その3Dモックアップや商品の画像を3DCGにするという、手元の素材を使って試作品を作ってノウハウを身に付けていくのがおすすめです。また、3DCGコンテンツ制作以外で学ぶべき技術としては、AI画像認識、セグメンテーション(※3)、ノイズ除去、自動計測、オブジェクト認識などがありますから、それらを習得するために3DCGに関するセミナーの受講は欠かせません。
 社内で3DCGコンテンツ制作を内製化するのがおぼつ
かないのであれば、実制作をフリーランスなどの3Dクリエイターに外注したり、あるいは専門の制作会社とコラボレーションをしたりして、顧客へのディレクションを自社で行うという方法を採りましょう。制作の基盤をどこに置くかは経営戦略と関わってきますから、自社のリソースを鑑みて考える必要があります。

中小DTP・印刷会社が狙うべき市場

 DTP・印刷会社が狙うべき市場は、ゼネコンや大手のSIer(※4)が手掛けるような大規模な都市・工場全体のデジタルツイン構築を目指すよりも、特定業界向けの高付加価値サービスに特化する方が現実的です。
 今後の方向性としては、デジタルツインは生成AI、XR、デジタルデータ活用、デジタルサイネージといった技術と親和性がありますから、それらの技術を取り入れて、単なる「3DCG制作会社」ではなく、「デジタルツインを活用した情報発信・業務改善・販促支援会社」というポジションを目指していけば、中小印刷会社でも独自性の高い事業を展開できる可能性があるでしょう。もちろん簡単ではありませんが、5カ年計画のロードマップなど経営方針を策定し、進捗状況を確認しつつ着実に取り組んでいく組織を作っていけば、実現できるのではないでしょうか。
 取り組みたい有望な分野は、「製造業の工場レイアウトの3D化」「設備保全マニュアルのデジタルツイン化」「作業教育コンテンツの制作」「文化・観光分野における文化財や史跡のデジタルツイン」「美術品の3DアーカイブとVR公開コンテンツ」「建築・不動産での竣工図・設備情報・写真を統合した建物管理データベース」「展示会・イベントの展示会場やショールームのバーチャルツアー、オンライン展示会」「自治体向けとして避難施設、公共施設、公園などの維持管理・案内用デジタルツイン」「販促・営業支援における製品の3DデジタルカタログやAR対応コンテンツの制作」などです。これらは、印刷会社が従来から持つ情報整理力・デザイン力・顧客対応力を活かせる分野であり、新しいデジタルサービスへ発展させやすい領域と言えます。
 重要なのは、印刷会社が得意とする「現実空間の可視化」「3Dデータ化」「販促・情報発信」と組み合わせることです。自社で大規模なデジタルツイン基盤を開発するのではなく、既存の3Dスキャン技術やXR技術を組み合わせたサービス提供が現実的です。


※1 フォトグラメトリ=対象物をさまざまな角度から撮影した写真をコンピュータ上で解析し、3DCGモデルを生成する技術。
※2 LiDAR=レーザー光を照射して、跳ね返ってくるまでの時間から対象物までの距離や形状を測定し、周囲の空間を3次元の「点群データ」とし
て捉える技術。
※3 セグメンテーション=現実世界の空間と物体、画像、点群データを、意味や構造ごとに細かく切り分けて分類する技術。
※4 SIer=システムインテグレーターの略で、顧客の要望を聞いてシステムの企画・開発、運用を請け負う会社のこと。

デジタルツインで必要とされる技術のまとめ

  1. センサーを使って、温度、湿度、CO2、電力、振動、音、人流などのデータを取得するセンサー技術。
  2. さまざまなデータを集約するデータ統合技術。工場であれば生産管理、在庫、品質、MES、ERP、センサー、
    カメラなどを統合する技術。街全体をデジタルツイン化する場合はGIS技術。
  3. デジタルツインを表示するXR技術(AR・VR・MR)
  4. 異常検知、故障予測、品質予測、人流解析、需要予測などに利用するAI活用技術
  5. 大量データを扱うためのクラウド技術
  6. Webアプリ、API、データベース、UI設計などのシステム開発
  7. 「 見やすい画面づくり」のためにデータを可視化する技術
  8. ゼロトラスト、VPN、ID管理、ネットワーク分離などのサイバーセキュリティ技術

デジタルツイン関連コンテンツの具体例

ここで、デジタルツイン関連の3DCGコンテンツ、空間スキャンコンテンツ、可視化コンテンツの具体例を紹介します。

空間スキャン・バーチャルツアー

 住宅・製造工場の見学、美術館、イベントなどのバーチャルツアー制作を手掛けている株式会社Advalayでは、高精度な3D空間スキャンと、集客やPRに繋げるためのリッチな動画・Webコンテンツ制作を幅広く展開しています。


iPresence株式会社は、テレイグジスタンス(遠隔臨場感)や空間スキャン、デジタルツイン開発を手掛けています。ドローンや最新スキャナーを用いた空間キャプチャだけでなく、ロボットやアバターを介して遠隔からデジタルツイン空間に参加できる体験型のコンテンツ制作を得意としています。

3DCG・映像表現ベースの可視化(建築・都市・プロモーション)

株式会社キャドセンターは、3DCG制作の老舗で、国土交通省の「PLATEAU(プラトー)」をはじめとする3D都市モデルのコンテンツ化や、建築設計・都市開発のシミュレーションの実績が豊富です。AR/VRを活用した、視覚的クオリティの極めて高いデジタルコンテンツを制作しています。


映像業界で長年培った最高峰のCG制作ノウハウをデジタルツインに注入している株式会社クープでは、3Dスキャンによる「点群データ」と、写真から3Dモデルを起こす「フォトグラメトリ」を融合させて、文化遺産のデジタルアーカイブや製造業の製品再設計に使える、超高精細な3Dアセット(コンテンツ)を制作しています。

来店客のプライバシーを守り混雑状況を可視化

株式会社ヘッドウォータースと株式会社セキュアが開発した「comieru Live」は、エッジAIカメラを活用してリアルタイムの混雑状況をプライバシーに配慮しながら可視化するクラウドサービスです。店舗のWebサイトやクーポンアプリにAPIですぐに組み込めるようになっています。実際の映像解析はエッジAIで処理するため、インターネットを経由させず安全に混雑状況のみをパソコンやスマートフォンで確認することを可能にしています。


 デジタルツインは「顧客の業務や設備をデジタル化し、継続的に価値を提供するサービス業」ですから、中小のDTP・印刷会社が、長期的な視野に立って新たな事業の柱を育てるのに有望なサービスの1つと言えます。「現実世界をデジタル化する制作会社」として、将来性のあるデジタルツインを事業化してみてはどうでしょうか。

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