デジタルサイネージで新規需要を掴む!

~製版技術を活かしたコンテンツ制作で事業化を~

製版技術を活かしたコンテンツ制作で事業化を

デジタルサイネージ(以後、サイネージ)が登場して既に30年以上になりますが、ハードやシステムを導入するだけでなく、デジタルコンテンツ制作や運用のノウハウも必要となるため、印刷会社がビジネスとして取り組むにはハードルが高いとされてきました。実際、サイネージ事業を軌道に乗せている印刷会社は少数派です。しかし、サイネージ市場は今後も拡大していくことが見込まれており、顧客の販促を支援する上で有効なメディアと言えます。印刷会社が新規事業を考えた場合、製版・印刷技術で培ったノウハウを活かせる可能性があり、他業界よりも優位性があると言えるでしょう。そこで今回は、印刷会社がサイネージ市場に参入し、新規需要を掴むための経営戦略について考察してみました。培ったデザイン力と画像処理技術を活かして、印刷の次の柱として確立していきたいものです。

販促・省人化・利便性などで市場拡大

 サイネージを自社事業として展開するためには、運用ノウハウ、コストの把握、技術的スキルの確保、コンテンツ制作力などが必要とされるため、中小印刷会社が事業として取り組んでいくのはかなりハードルが高いとされてきました。
 顧客からサイネージ導入の相談があっても、「当社では扱っていない」と返答せざるを得なかったり、事業化している仲間の印刷会社を紹介したりして、サイネージを受注してこなかった経緯があったわけです。
 実際、サイネージ市場の推移はどうなっているのでしょうか。マーケティング&コンサルテーションを展開する株式会社富士キメラ総研の「デジタルサイネージ市場総調査 2025」によると、国内の2024年のサイネージ市場は前年比14.7%増の2,740億円となりました。同社では、今後も堅調に市場が拡大していくとみており、2030年には4,609億円の市場規模になると予想し、2024年の約1.7倍を見込んでいます。(グラフ参照) 
 個別では、2024年のシステム販売/構築市場が前年比18.0%増の1,409億円となり、コンテンツ配信/運営サービス市場は前年比8.7%増の451億円と大幅に伸びています。これはクラウド型のコンテンツ配信/管理サービス(CMS)などが増えたのが主な要因とのことです。
 近年、サイネージ市場が拡大している理由は、デジタルマーケティングの普及や、オンラインとオフラインを融合させたシームレスな体験を提供するOMOマーケティング(Online Merges with Offline)の伸展で、広告効果が有効だと認識し導入する企業が増えていることが考えられます。その背景には、サイネージに販促効果があるだけでなく、顧客体験の向上、表示情報のリアルタイム化、インタラクティブ化などで、施設・企業の従業員や店舗の来店客の利便性が向上している点が大きいようです。
 また、作業負担の軽減、業務効率化、無人化、省人化、オペレーション改善、輸送コスト削減が進んでいる点も導入に拍車をかけています。
 このように、サイネージは将来性のある販促メディアであることが窺えるため、印刷会社としても取り組んでいきたい事業で言えるでしょう。これまで思いのほか事業化できていなかった理由は、印刷し納品すれば仕事が完結する印刷業と違って、サイネージはシステムの導入・保守・コンテンツ制作・運用といったストック型ビジネスであるため、「畑違い」と認識し、人材・技術・資金といったリソースの蓄積に取り組んでこなかったことが考えられます。
 しかし、WebやSNSが拡大してデジタルマーケティングが不可欠になった今日、いつまでも門外漢として見ているわけにはいかなくなりました。インターネットと連動したデジタルメディアとして、これまで以上にニーズが高まっており、顧客自体の関心も高まってきています。自社だけで顧客にサイネージを提案するのが難しいというのであれば、アウトソーシングや他社とのコラボレーションによって事業化する方法も考えなければなりません。今一度、検討してみたいものです。

印刷と融合させた営業戦略がポイント

 印刷市場が縮小する中で、サイネージは「伝わる」メディアとして需要が拡大しています。実際、サイネージビジネスに成功している印刷会社を見ますと、既存の「看板・ポスターの制作能力」と「デジタル運用能力」を組み合わせ、コンテンツの制作から配信までをトータルで提案するデジタルマーケティング支援会社として位置づけて、サイネージも営業品目として扱っています。
 サイネージではDTPや画像制作技術が求められますから、画像制作・加工に長けているGCJの組合員には、コンテンツ制作に関しては取り組みやすいと言えるでしょう。新規事業を考えるのであれば、サイネージは非常に有力だと言えます。
 では、中小印刷会社がサイネージを事業化していくには、どのような戦略で臨めばよいのでしょうか。何と言っても、本業の印刷の強みを活かすことが望まれます。静止画のコンテンツをつくることはお手のものですが、サイネージでは動画コンテンツも不可欠になりつつあるため、動画制作能力も問われてきます。まずは動画コンテンツ制作を習得する必要があるでしょう。この動画制作を内製化するか、アウトソーシングするかを決めなければなりません。
 また、印刷会社は既存客のチラシやポスターの印刷データを入手しやすいことから、そのデータをリサイズ・再構成するだけでサイネージ用のコンテンツをつくる技術があります。つまり、元々静止画デザインの資産を持っているわけです。これは既存客への訴求で大きな武器になります。したがって、画像・印刷データを活用してサイネージに転換する戦略は大いに活かしたいものです。
 また、「店頭POP+ポスター+サイネージ」という、アナログとデジタルのクロスチャネル提案ができるのも強みです。販促のトータルプロデュースができる点を強調して顧客にアプローチしていきましょう。既にルート営業の基盤があるため、設置場所の確保やエリアマーケティングがスムーズに行える点も見逃せません。地域に密着して、地元企業や小売店と密接な関係を築いていく営業が可能な点も、他業種にはない優位性です。
 営業では、まずは面談できる顧客から当たっていくのが得策です。既存客を棚卸しして個々のニーズを探り、企画・提案できる要素があれば、積極的に展開していきましょう。また、紹介営業も欠かせません。
 サイネージ市場へ参入するにあたって留意すべきことは、サイネージのハード・システムを販売することに注力してはいけないことです。表示する情報コンテンツの制作に主眼を置いて、ハード・システム設置の価格競争に巻き込まれないようにするのがポイントです。価格競争に走ってしまうと、大手メーカーや広告代理店には太刀打ちできず疲弊してしまいます。あくまでも、「コンテンツ制作の更新料」や「運用・保守管理費」で稼ぐというストック型のビジネスモデルで事業に臨みましょう。

需要喚起したい業界・業種

 さて、新規にサイネージ市場に参入する上で留意したいのは、どの業界・業種をターゲットにするかです。今日では、飲食店のメニュー表がタッチパネル式になっている店舗が増えました。それらはパッケージ化されていて、既にメーカー各社が展開しているケースがほとんどです。そのため、新規参入するのは難しいかもしれません。
 タッチパネル式は、「情報提供+操作体験」を同時にできるのが強みです。飲食店以外でも、「選ぶ」「探す」「理解する」というプロセスがある業界・業種とはかなり相性が良いと言えますから、新たな市場を掘り下げていきたいものです。タッチパネル式サイネージの狙いどころとしては、次のような業種が考えられます。

◆小売業
 アパレルや家電、雑貨などの小売店が挙げられます。商品検索、在庫確認、コーディネートの提案で需要を喚起し、EC連携で店頭にない商品を注文できるようにするのも良いでしょう。店員の負担軽減と購買機会の拡張を訴求していくのがポイントです。

◆観光・宿泊業
 ホテル、旅館、観光案内所などが設置先として挙げられます。多言語チェックインのサポート、多言語の観光案内版の設置、館内案内、観光地へのルート検索などに活用できます。インバウンド対応や人手不足対策を訴求していくのがポイントです。

◆医療・ヘルスケア
 病院、クリニック、マッサージ店、整体・整骨院、薬局などが挙げられます。受付・問診のデジタル表示、待ち時間表示、医療関連の映像、CM、診察案内などへの活用が挙げられます。事務負担を軽減し、患者のストレス低減を訴求していくのがポイントです。

◆教育関連業
 学校、専門学校、塾、研修会場などが設置場所として挙げられます。タブレット式サイネージ、タッチパネル黒板が考えられます。インタラクティブ教材、動画解説、多言語表示などで教師の負担軽減と教材の付加価値を訴求するのがポイントです。

◆博物館・美術館
 展示物を補完するための深掘りした説明文や画像を表示します。多言語対応、見えない部分を静止画・動画で可視化、館内案内、リアルタイムで混雑状況を知らせることなどが考えられます。施設の職員の負担軽減と体験価値を向上させる点を訴求するのがポイントです。

◆不動産業
 住宅売買・賃貸・仲介業者などの事務所に設置します。物件検索、間取り表示、VR・3Dによる内見など、立体的な視覚に訴えて、興味・関心を引き付けるコンテンツが狙い目です。説明員の補助や顧客体験向上を訴求していくのがポイントです。

◆金融業
 銀行・保険・証券会社などが設置場所として挙げられます。金融商品比較のシミュレーション、手続きのナビゲーション、窓口の待ち時間の短縮化、説明の標準化・時短化を訴求していくのがポイントです。

◆公共施設
 役所・図書館・交通機関(駅)などが挙げられます。手続き案内、館内案内、フロアガイド、チケット案内、催し物案内、待ち時間などを静止画や動画で表示します。戸惑う利用者を減らし、業務効率化が図れる点を訴求していくのがポイントです。

◆イベント・展示会
 大規模会場というよりも、中小規模会場向けのサイネージが考えられます。出展社(店)の検索、会場マップ、出展社(店)の出展内容、デジタルパンフレットなどを表示します。紙の削減効果と来場者の利便性・回遊促進を訴求していくのがポイントです。

◆フィットネス・スポーツ施設
 トレーニング項目の表示、個々のトレーニングメニューの提案、動画による解説、混雑状況などを表示します。利用者体験をパーソナライズし、コーチの補助が可能な点を訴求していくのがポイントです。

◆自動車等のショールーム
 車種の比較、車のカスタマイズ提案、車の開発ストーリー情報の表示、待ち時間の表示、ショールームの外に向けた最新のキャンペーン映像放映などが考えられます。顧客体験の向上と、さまざまな角度から販促できる点を訴求していくのがポイントです。

印刷会社ならではの訴求ポイント

 ハードやシステムを単に販売するのではなく、コンテンツ制作を基盤に「困りごとを解決する」ことを、提案の主軸にしましょう。主に以下の3つが考えられます。

①データ再利用によるコスト削減
 前述しましたが、チラシやパンフレット、ポスターなどのDTPデータを、そのままサイネージ用にリサイズして流用するという提案です。顧客にとっては、制作コストを抑えつつ紙とデジタルのクロスメディアによる販促が実現できます。

②貼り替え・廃棄の手間からの解放
 ポスターを印刷して、送って、古いものを剥がして貼り替えるという手間とコストを、デジタルによって無くせる点を訴えます。運用コストと人件費の削減を強調しましょう。

③「動くポスター」によるアイキャッチ効果
 静止画のポスターではスルーされる場所でも、少し動きを加えるだけで視認率は劇的に上がるものです。また、印刷データに少しアニメーション要素を加えるだけで、看板の魅力や訴求力が向上します。その魅力や有効性を提案し、動画化によるメリットを伝えます。

 このように、サイネージ市場はまだまだ掘り下げていけるメディアです。販促マーケティングのメディアとしてだけでなく、さまざまな用途に使用できる多様性があります。培った印刷技術を活かして、製版・印刷会社ならではサイネージ事業を展開していきたいものです。

AIと連動する最新サイネージ

 最後に、特徴のあるサイネージを紹介します。トレンドはAIと連動したサイネージです。やはりこれからは、コンテンツ制作や運用でAIをいかに活用するかが問われてくるでしょう。
 株式会社リコーとリコージャパン株式会社が提供する「RICOH Digital Signage AI音声コンシェルジュ」は、サイネージに表示されたAIアバターに質問をすると、AIが事前に登録してある回答リストから質問に対する回答を抽出し、音声とテキストでユーザーに回答するというものです。回答の登録がない質問を受けた場合は、質問がデジタルインカム経由で専門スタッフに送られ回答する方式となっています。(別途契約が必要)
 小売業やサービス業などの接客現場では、人手不足に加え、接客品質のばらつき是正や多言語対応などの課題があるなかで、さまざまな質問への対応は、現場スタッフの大きな負担となっています。同サイネージは、ユーザーの質問への対応に、AIによる自動回答と人による個別対応を組み合わせることで、質問への対応負荷軽減と対応品質の向上を支援するというものです。
 また、インバウンド需要の増加による多言語対応が可能になっています。利用ログ(質問の時間帯、質問、回答、学習データから回答できたかどうか等)を分析することで、顧客ニーズの把握や、店舗運営の改善など、マーケティングに活用できる点もメリットです。
 IoTシステムを企画・開発するユカイ工学株式会社は、コミュニケーションロボット「BOCCO emo」(ボッコ エモ)や独自センサーを活用し、音声・動作・空間情報とサイネージを連動させるインタラクティブな映像表示システムを開発・提供しています。
 同社は、ピーディーシー株式会社のサイネージを活用したスマートメディアプラットフォーム「OneGATE」と連携した無人受付案内システムを提供しています。このシステムは、来場者がロボットに話しかけた内容を基に、生成AIが自動生成した回答をロボットが発話し、関連する動画等のコンテンツをサイネージ画面に表示するというものです。
 愛嬌のあるロボットが対話形式で、来場者自身の関心事に合った情報をインタラクティブに回答することで、情報検索の楽しさを提供しています。来場者の質問に関わる情報が登録されていない場合は、質問内容から抽出したキーワードを基にWeb検索した結果を画面に表示します。
第1号機は、中央日本土地建物グループのワークプレイスR&D拠点「NAKANIWA」に設置し運用しています。(画像参照)
 また、高輝度を売りにするサイネージも、高品質印刷を謳う製版・印刷会社にとっては差別化で取り組みやすいと言えるでしょう。
 直射日光下でも視認性を保つために、4,000cd/㎡以上の高輝度サイネージがあります。屋外での設置やショーウィンドウ・ガラス越しでの設置に適しています。液晶タイプでは4,000~4,500cd/㎡の製品が最高輝度とされ、それ以上の明るさを求めるのであれば、LEDビジョンを導入することになります。

AI デジタルサイネージ