進化する生成AIの動向に注視を!
そこが知りたい!gcj MANAGEMENT(148)
人間の感情を推定する感情認識AIが登場
先頃、NTTデータグループから生成AI関連の技術開発などに、400億円を投資する発表がありましたが、その内訳を見ますと、関連のソフトウェアやクラウドで提供するマネージドサービス、コンサルティングサービスの開発、セキュリティー強化などに使われるとのことです。このように大手IT企業が生成AIに注目し、戦略的にビジネスに活用しようとしているわけですが、いずれこの生成AIを活用する波は、中小企業にも訪れることでしょう。生成AIが取引先や得意先でどのように使われていくのか、その動向を注視する必要があります。
生成AIの進化は止まることなく次々と新しい機能を持った生成AIが出現し、企業活動のあらゆる面に影響を及ぼし始めていますが、具体的にどのような生成AIがリリースされているのでしょうか。例えば、人の声のトーンを読み取り、感情を表すような自然なやりとりが可能な生成AIが、最近発表されました。それは人間の感情を推定できる感情認識AIというもので、顔の表情、音声トーン、言葉遣い、場合によっては心拍数や体温の変化などから、その人が今どのような感情にあるのかを数値化して分析するものです。
この感情認識AIの実例としては、人間の感情と直接対峙する仕事、例えば医療機関、カスタマーサービス、エンターテインメントなどがあります。
また、iPhoneやiPadで会話を音声認識し、会話の内容をリアルタイムでテキスト化するものも現れています。会話のやりとりだけでなく、感情の度合いもリアルタイムで表示されるというものです。また、多言語対応によって外国人の感情認識も可能になっていて、会議や商談のほか、接客、観光といったインバウンド産業、災害時の避難所でのコミュニケーション支援などにも活用できるようになっています。
ChatGPTの進化も目覚ましいものがあります。プロンプトで簡単なプログラムを作成できることは周知されていますが、ChatGPT自体には生成されたコードを実行する環境がないため、環境を整えている現場でしかプログラムを実行することができませんでした。そこで、プロンプトからWeb上で実行できるJavaScriptのコードを生成して、動作まで認識できるサービスが登場したのです。それが「だれでもAIメーカー」というもので、パーツを組み合わせる感覚で簡単なAI利用のWebサービスを作ることができます。既に簡単なゲームから実用ツールになるものまで、さまざまなサービスが公開されています。
また、「GPTApp」は、プロンプトから簡単なWebアプリを作って、その場で動きやソースコードを確認できるサービスです。プロンプト次第で入力フィールドやボタン類も表示するため、より高度な処理が可能ですが、プロンプトが複雑すぎたり、曖昧だったりすると動かないこともあるとのことです。
画像生成分野の進化も目覚ましいものがあります。これまではプロンプトから360度のパノラマ画像を生成できるサービスを提供している画像生成AIが存在していましたが、新たにフリーハンドで描いたラフスケッチを加えることで、よりイメージしたものに近い360度パノラマを作ることができる機能が追加されました。
デザインは無理でもコンテンツ制作で活用を
さらに音楽の世界にも生成AIの進化が見られます。リアルな歌付き楽曲生成AIで、歌手の息継ぎやタメのような間まで生成している感があります。これは生成AIが作曲したものを仮想歌手に歌わせているもので、まるで実際の歌手が歌っているかのようなクオリティの高い歌になっています。今後、ChatGPTと歌付き楽曲生成AIによる楽曲が素人でも作れて、動画上で活用されるようになってきますと、音楽業界に何らかの影響をもたらすことが予想されます。
このように、生成AIは日々進化し次々と新しい製品が市場に投入されているわけですが、その多くはテキスト、画像、動画などさまざまなコンテンツを制作する上で、役に立つツールということが分かります。
これからは、いかに生成AIを使いこなしてビジネスに役立てていくかが問われてきます。これは印刷業界においても然りです。DTP制作の現場ではデジタルコンテンツを制作する上で、自動化とコストダウンが求められています。その際に生成AIに適切なプロンプトを入力し、求めるコンテンツを自動的に制作できれば、業務を効率化させ、生産性を向上させることができるようになるでしょう。
例えば、広告を制作する際に、プロデューサー(あるいはクライアント)が、デザイナーにいきなりデザインのコンセプトを伝えるのではなく、一旦生成AIに画像を作らせてからデザイナーとコミュニケーションを図るようにすれば、意思が伝わりやすくなるでしょう。また、生成AIが作成した画像を見ることで、新しいアイデアが生まれる可能性も出てくるでしょう。しかし、これはあくまでも画像という1つのコンテンツを作成する場合について言えることで、ページ全体のデザインを作成する際にはAIだけでは対応できません。
生成AIは、インターネット上にある膨大な学習データを基にテキストや画像などを生成するため、学習データがないものは生成できないわけです。
テキストと画像などを最適な位置(制作者の意図通り)にレイアウトするDTP作業に関しては、ゼロから生み出すことになりますから、いくら細かくプロンプトを入力しても、思い通りのデザインレイアウトに仕上げるのは、現状の生成AIにはできません。組版作業を生成AIにさせるには、あらかじめサンプルレイアウトを作って、それに合わせる形でテキストや画像を配置していく方法になりますから、現在のデザインテンプレートによる組版とあまり変わらないと言えるでしょう。このように現時点の生成AIは、DTPの現場ではまだ発展途上にあり、複雑なデザインレイアウトの制作にはまだ対応できていないのが実情です。
しかし、現在の生成AIでも、テキスト、画像などのコンテンツを制作する際は有効ですから、企画書の作成、ラフコンテンツ作成、サンプル画像の提案などで積極的に活用し、DTP作業の効率化・自動化を進めたいものです。
|