成功に導く営業のシナリオの進め方
確実に成約に繋げるための営業ステップとは
確実に成約に繋げるための営業ステップとは
企業経営で最も重要なのは営業と言っても過言ではないでしょう。印刷会社では営業が受注してきた仕事を制作・印刷し、納品することで売上になるわけですから、会社の売上は営業の実績に懸かってきます。経営者や営業担当者は、いかに顧客を獲得し受注していくかで日々奮闘していることと思いますが、今日のトップセールスマンの多くは「営業のシナリオ」を作り、それに従って営業することで成約率を高めて成功に導いています。印刷営業も同じで、営業を成功させるにはシナリオを作ってステップを踏むことが大切です。今回は成功に導く営業のシナリオの進め方について言及します。
シナリオ1 人間関係の構築
親身になって顧客と信頼関係を築くことが大事
すべての営業は人間関係の構築から始めると言って過言ではありません。顧客と面会したら、まず名刺交換をして商談に入るわけですが、人間関係の構築と言っても個々の営業担当者によって捉え方、進め方はさまざまでしょう。顧客との関係性を考えた場合、印刷会社の営業は印刷のプロとして、顧客に良きアドバイスができるコンサルタント的な立場をとるのが理想と言えます。
理想的な営業を分かりやすく例えると、「医者と患者の関係」が当てはまります。良い医者というのは、インフォームド・コンセントを通じて患者の同意を得て信頼関係を築いています。同様に、印刷営業も一方的に話すのではなく、顧客の求めていることをしっかりと聞いて、疑問点や不明点を聞かれたら顧客の立場になって考え、丁寧に説明し納得してもらう営業を心掛けなければなりません。それが受注を成功させる道筋になります。
逆に、医者が極端にへりくだって患者の要求をそのまま聞くだけですと、「この医者、大丈夫かな?」と不安に感じるものです。印刷営業も顧客に言われたことをそのまま受け取って進めるのではなく、顧客にとって有益と思われる的確なアドバイスや提案をして、「この営業担当者はできる人だ。任せてみよう」という気持ちにさせることがポイントです。
とにかく営業では自信を持って臨むことが大切です。顧客は営業担当者の自信のある言動を見ていますから、たとえ営業成績が悪くても、顧客の前では自信を持って行動するようにしたいものです。
また、顧客と対面し話を聞く際は「顧客の状況、立場、動機、感情への理解」「顧客の立場に立って、感情を分かち合う」といった2つの方向から顧客と信頼関係を築いていくことが求められます。これはBtoBの営業においても言えることです。
近年は電話やメールで営業し、少し関係を築けたらZoomやSNSを使ったリモート営業に移行するケースも見られますが、実際に信頼関係を築く上で有効な手段は訪問営業だと言われています。アナログ時代から変わらず訪問営業を続けている多くの印刷会社は、正しい方法を続けてきたと言えるのではないでしょうか。
フェイス・トゥ・フェイスで顧客の表情から真意を読み取ったり、細かなニーズを汲み取ったりするには、リモートより直接面談したほうが把握しやすいですし、面談が増えれば増えるほど親しみも湧いて関係性を深めることができますから、訪問営業はインターネット社会になった現代でも有効な営業になっています。
このように、営業のシナリオ作りでは、最初に人間関係を構築し、顧客との信頼関係を深める活動をしていくことが重要になります。

買い手側は訪問営業を望んでいる!?
決裁者にはアナログ営業で商談を成功させる
ここで、訪問営業が見直されていることが見て取れる調査結果があります。CRM(顧客関係管理)プラットフォームを提供するHubSpot Japan株式会社は、「日本の営業に関する意識・実態調査2024」を実施していますが(調査対象:売り手の経営者、役員、法人営業組織の責任者・担当者の計1,545名、及び商品やサービスの買い手である経営者・役員・会社員など計515名が対象)、その中の「買い手が考える好ましい営業スタイル」についての問いで、2023年は「訪問営業の方が好ましい」が39.4%、「リモート営業の方が好ましい」が21.7%と、買い手は訪問営業の方を好んでいる結果が出たのです。(グラフ1参照)
これはコロナ禍の3年間同様の結果で推移しており、約倍近い買い手が、リモート営業よりも訪問営業の方が好ましいと回答しています。コロナ禍を契機にリモート営業の拡大が伸びていると予想していたのですが、覆された感があります。顧客との信頼関係を深める営業は直接訪問するのが有効で、デジタル社会になってもこのことは変わらないということを改めて認識させられます。
また、買い手に「営業の際に、自社を訪問してほしいと思う理由」を尋ねたところ、「営業担当者の顔を見ると安心感がある」が44.1%となり、この数値は近年増加しています。また「顔を見ずの商談には誠意を感じない」(39.2%)が3年続けて2位となり、訪問営業に好意を示している顧客がかなりいることを示しています。これは普段訪問営業を心掛けている営業担当者にとっては心強く嬉しいことで、印刷会社もリモート営業よりも訪問営業に主軸を置いている会社が多いため、朗報と言えるでしょう。(グラフ2参照)
ただし、同アンケートは経営者や役員、責任者など比較的年齢層の高い人たちが回答していることから、元々アナログ営業に慣れているというのもあります。これが20代や30代前半のデジタルファーストの若い世代に対してアンケートをとったならば、また違った結果が出るかもしれません。その点は考慮しておく必要があるでしょう。しかし、多くの場合、経営者や役員のような立場の上司が決裁権を持っているため、決裁者にクロージングし案件を納得させる必要がありますから、いずれにしても決裁者への営業が不可欠であることは認識しておく必要があります。
したがって、このアンケート結果からはインターネットによるデジタル社会においても、訪問営業はまだまだ捨てたものではないということが窺えます。
シナリオ2 ニーズの発掘と深掘り
顧客の課題や問題点を見出して企画作りをする
顧客との信頼関係が築けたなら、次のシナリオ作りは「顧客のニーズの発掘と深掘り」の段階に進みます。扱っている印刷物や販促物の商品が、本当に顧客のニーズに応えるものであれば、面談時に企画書や提案書を作成しそれに則って商談するようにしましょう。案件が魅力的に見えて必要性を感じさせるようなトークを展開し、発注を決意するまでメリットを掘り下げていきます。
しかし、顧客自体にそもそもこれといったニーズがない場合はどのように対処すればよいかという問題があります。その場合は、顧客が気づいていない点に着目し「ニーズの発掘」を行うことがポイントになります。信頼関係が築けていれば、顧客は営業担当者の話に耳を傾けてくれるはずです。
ただし、ニーズの発掘と言っても的が外れていては意味がありません。顧客から課題や困り事を引き出せない場合があっても、「売上をアップする提案」については関心があるはずですから、そのことに的を絞った企画書や提案書を作成し営業に臨むようにします。
その際のポイントは、顧客の状況を具体的に把握することです。企画書を制作する前の段階では、顧客の「事業内容」「業績」「ビジョン」「経営者の理念」「業界動向」「競合他社の動き」などを調べて、「顧客がどんな課題を抱えているのか?」「そのためにはどのような印刷物や販促物の提案ができるのか?」について答えてもらって、そこから課題を見出して、次回の営業で案件を提案できるようにしておくことが大切です。
事例として、地元の食品関連の会社や店舗(食品メーカー、小売店、お土産屋さん)などに営業する場合、「季節ごとにプロモーションを展開しているのか」「商品のターゲットとなる消費者にしっかりとアピールできているのか」などを調べます。そこからニーズの発掘に移り、売上増に繋がる施策や企画を考えるわけです。
例えば、数カ月先に開催されるフード業界の展示会がある場合、そこに出展することで販売促進に繋がる要素があることを企画書にして提案することが考えられます。フード業界の展示会では多くのバイヤーや業界関係者、あるいは消費者が集まりますから、宣伝には持ってこいの場所です。チラシやパンフレットなどの印刷物、さらにブースの什器類の製作を請け負うための営業を行って、出展を促すわけです。
また顧客の中に既に出展しているメーカーや店舗があれば、引き続き出展する予定があるのかどうか、紙媒体や什器類はどこに任せて制作しているのかを聞き出して、「弊社でも違った角度や企画でお手伝いできます」ということを訴求するのも良いでしょう。
このように、ニーズの発掘と深掘りをして、顧客に課題を自覚させ、顧客の抱える問題点を提示し解決策を示す営業トークを展開することがポイントになります。しかし、ニーズを発掘できても、深掘りできないケースが出てくることもあるでしょう。顧客に売上増のアイデアや企画を提案しても、分からない点や疑問点に関して質問を促しても、反応が薄い、あるいはほとんど質問してこないケースがあります。
その場合、顧客は何を質問してよいのか分からないのが本音かもしれません。そこで同じような問題点を持っている第三者(会社・店舗)の話を引き合いに出すのが効果的です。「売上が激減し大変な事態になっているお店があったのですが、展示会で商品をアピールしたら次第にお客様がつくようになり、今では売上も伸びて復活しています」と、同じ業界のお店について事例を挙げると、顧客も自分事のように考えてくれるでしょう。この時の復活した店舗の話は自社の経験でなくても、インターネットから探した店舗のほうが、むしろ事実を強調できて説得力がありますから、他社の成功事例で構いません。
要は、「顧客に企画したイベントがうまくいった姿をイメージしてもらう」ことが重要なのです。そのためには「こんな紙媒体や展示ブースにするのが得策です」ということを理解し納得してもらうよう、魅力的な企画書を作って営業することが必要になってきます。

シナリオ3 商品説明
過去の顧客の“声”や数値で裏付けをとる
第3段階のステップは「商品説明」です。顧客に印刷物を提案し説明する場合は、紙媒体の企画書を作ったり、あるいはタブレットの画面を見せたりして、言葉と視覚の両方で行い、決して口頭のみで商品説明を行ってはいけません。また、退出時に企画書を渡して、企画内容を印象付けることが重要になります。
顧客に印刷物を勧める際は、ニーズを満たす具体的な商品である印刷物や販促物への欲求(ウォンツ)を高めていかなければなりません。そのためには別の顧客からの良い感想を示したり、顧客の利益を分かりやすく数字などで表したりすることが大切です。例えば、商品を販売するためのチラシを作るのであれば、過去に制作し成果を上げたときの顧客の喜びの“声”を企画書に掲載します。また、チラシを配布し実際に来店した集客数などのデータを示します。要は顧客を納得させる要素を示すことが求められます。
これは商品の特徴やメリットを客観的に表すもので、商品説明では欠かせない要素になりますから、企画書を作成する際は事前に盛り込んで、説明時に効果的に活用することがポイントです。
シナリオ4 クロージング
反論には「共感・承認」し、再度深掘りをする
第4段階の営業のシナリオは「クロージング」です。営業の最終形ということで、最も重要視される場面ですが、ここでつまずかないためにも、慎重にしかも大胆に営業トークを行うことがポイントになります。営業をしていますと、顧客は提案された内容に反論したり、価格面で難色を示したりすることが普通にあります。
一番多い「検討します」という返事に対しては、好意的に「検討されるということですが、迷われている点はどんなところですか?」と尋ねます。顧客との間で良好な人間関係が築けていたら率直に教えてくれるはずです。検討したい理由を聞いたら、まずは「共感」するようにしましょう。そして、「物事にすぐに返答しないで慎重に対処されるのは賢明なことだと思います」と、肯定するのです。
反論される原因は、「ニーズの深掘り」が足りなかったからです。もう一度ニーズの深掘りをして、提案した企画内容を顧客が受諾したくなるよう、メリットと必要性を丁寧に説いていきましょう。
最大のネックは「予算がない」「価格が高い」といった理由です。「予算がない」という反論の中には、「提示された商品企画が価格に見合っていない」という意識が含まれている可能性がありますから、改めて商談・企画の提示に遡って価格の付け合わせをして、メリットを訴えます。印刷物であれば、部数や印刷手法などを再度見直して価格調整を行うようにします。「まずは少部数をオンデマンド印刷機で印刷してみませんか?」と低価格の提案をしてみるのも良いかもしれません。提案する企画が顧客のメリットになるものであれば、丁寧に誠意を持って伝えることで成約へと繋がる可能性が高まるはずです。
このように営業のシナリオを描いて、顧客ごとにしっかりと順を追って営業を進めていけば、今まで以上に成果を上げることができるでしょう。
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