顧客単価を上げるクロスセル営業の進め方
そこが知りたい!gcj MANAGEMENT(150)
クロスセル営業は対面が多い印刷営業で活かせる
企業にとって売上を上げる、もしくは売上を維持することは重要なテーマであり、事業を続けていれば常について回る課題です。売上を上げるためには「顧客数」「顧客単価」「成約率(受注率)」の3つの要素を向上させていくことが重要だと言われています。今回は、その中で「顧客単価」に目を向け、その手法としてクロスセル営業について言及します。
クロスセル営業とは、商品の購入を検討している顧客に対して、関連する別の商品を併せて提案し購入を促す営業方法です。印刷会社で言えば、チラシの印刷を依頼された顧客に対して、封入封緘業務やポスティングなども提案し受注することなどが挙げられます。新規営業に力を入れている印刷会社であれば、日ごろからクロスセル営業を推進しているところも少なくないでしょうが、Webサイト(ホームページ)のみを営業手段にしている印刷会社では、顧客からデータを預かって指示通りに印刷(あるいはDTP制作のみ受注)して納品するという仕事の流れが定着しているため、新規案件を提案するクロスセル営業を展開することは通常行われていません。Web主体の営業はアナログ営業を脱却した手法ですから、クロスセル営業は考慮されないことが多いのです。
したがって、クロスセル営業が活かされるのは対面営業に限られるため、実際に足で稼ぐアナログ営業を主体にしている印刷会社に向いている営業法と言えるでしょう。特に既存顧客へのルート営業では、その都度新規の仕事はないかと御用聞き営業を展開していると思いますが、これが案外重要で、日ごろから顔を出していると、タイミングが合えば新たな印刷受注の話が持ち上がることが少なくありません。その際に的確な提案ができるクロスセル営業を行うことができれば、新規受注に繋がる可能性が高まります。
クロスセル営業は、顧客単価を上げる有効な手法であると同時に、既存顧客との関係性を強化するための手法でもありますから、そのことを念頭に置いてクロスセル営業に注力していきたいものです。オンライン営業が普及して対面営業が難しくなっているという印象がありますが、対面営業は顧客企業の状況や担当者の様子を直接観察できる利点があります。また、アプローチトークやヒアリングによって顧客の困り事やニーズを聞き出し、それに即した新たな提案を行うことができるのもメリットです。
印刷会社では、既存顧客からの「紹介営業」や既存顧客への「提案営業」、見込み客回りの「ルート営業」などアナログ営業がまだまだ主流ですから、クロスセル営業は印刷営業に非常に適した手法と言えるでしょう。
印刷会社におけるクロスセル営業では、自社で取り扱える(外注も含む)関連性のある媒体や商品・サービスを既存顧客に提案することが重要になってきます。ただし、顧客の売上増に貢献できるからと言って、例えばカタログ印刷を受注している顧客に対して、「商品を動画でも宣伝しませんか?」と、商品に関する動画制作を提案しようとしても、自社に動画制作やセールスプロモーションのノウハウや実績がなければ、顧客に対して説得力に欠け、多くの場合受注には繋がらないでしょう。
コミュニケーションを図り強固な信頼関係を築く
しかし、自社で動画制作できなくても、既に動画制作や動画を使ったプロモーションに実績のある協力会社と連携でき、かついつでも共同で仕事に取り掛かれるのであれば、動画制作を顧客に提案することは可能です。その際は、協力会社と共に具体的な企画書を作成し、顧客へ提案することが可能になります。そのためには事前に協力会社との関係を作っておくことが重要になってくるわけですが、この点についてはテーマから外れるため言及は控えます。
では、印刷会社が実際にクロスセル営業を進めるためにはどんな準備が必要になるのでしょうか。それには相応のステップを踏む必要があります。
まずは、顧客がどんなことを望んでいるのかニーズを掘り下げることから始めます。これまでの定期的なコミュニケーションや過去の取引履歴の分析によって、潜在的なニーズを把握します。次に関連性が高いと思われる媒体や商品・サービスをリストアップします。これはクロスセル提案の準備になります。リストアップした媒体・商品・サービスがいかに顧客にとって有益であるか、その特長や顧客に提供できる価値を明確にし、それを提案書や企画書として作成し、顧客にプレゼンテーションできるようにしなければなりません。この準備が最も重要になります。
クロスセル提案のタイミングは、既存商品の受注が完了した直後が適しています。「有益だと思われる新たな提案をさせていただきたいので、一度お話しさせていただけないでしょうか? 次回、提案書を持ってまいります」と話して、顧客に訪問の日程のアポイントを取ります。プレゼンテーションでは、顧客からの質問や疑問に答えられるように、事前に質問事項を想定し、回答を用意しておきます。
クロスセル営業で提案するには、普段から顧客との強固な信頼関係を築いていくことが何より大切になります。また、顧客の業界や現状の事業内容を理解し、それに基づいていかに最適な案件を用意するかが最も重要になります。ただし、強引な売り込みは危険です。顧客の立場に立って、今、新規提案をしても大丈夫なのか、時期やタイミングを見定めることが肝要です。特に制作予算を決める時期はいつなのかを聞き出してそれを把握し、次期の予算にその案件を組み込んでもらいやすくなるよう、提案する時期を見計らうことは大切です。
顧客自体は気が付いていなくても、第三者から見ると意外にも顧客に有益な新たな提案が行える可能性があるものです。顧客の先にあるエンドユーザーの視点に立って、「この商品広告の仕方は顧客にピッタリなのでは」というものを探してみてはいかがでしょうか。
クロスセル営業は、既存顧客との関係性を強化する上でも有効ですので、常に、顧客とはコミュニケーションを図っていつでも提案できるよう、1つ2つの企画書を用意しておくのがベストです。
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