生成AIでDTPはどう変わる?

Monthly Report

~ DTPデザイナー・オペレーターが生成AIを活用して生き残っていく方法とは~

DTPデザイナー・オペレーターが生成AIを活用して生き残っていく方法とは

生成AIの出現で、アナログ、デジタルの全てのコンテンツ制作で大きな変革が訪れて、印刷業界のDTP制作に多大な影響をもたらしつつあります。企業では、社内資料、社内報、顧客へ提案する販促用の企画書、簡単なチラシなどを、生成AIを使って内製化しつつあります。この傾向が強まれば、印刷会社や制作会社へ媒体制作を発注する案件に影響が出て、印刷需要やデザイン制作が減少することが予想されます。既にイラストレーターの仕事の一部は生成AIによって内製化され、激減している情報もあります。そこで今回は、「生成AIでDTPはどう変わる?」と題して、企業の生成AI活用状況を紹介しつつ、DTPデザイナーやオペレーターは生成AIをどう捉え、活用していく必要があるのかを考えてみました。

企業は生成AIを活用して内製化しつつある

 生成AIと言えば、ChatGPTやGeminiが有名で広く使われていますが、これらは主に文章作成ツールとして活用されています。もちろん印刷物制作でコピーやテキスト作成にも使われていますが、企業では、主にメール、レポート、社内文書の作成で幅広く利用されており、定着しつつあります。これは印刷業界にも言えることで、文章作成用の生成AIとして導入している印刷会社が増えつつあります。
 一方、DTP制作では写真や画像、イラストを使用するため、DTPソフトを使った仕事が主体になりますから、それに適した生成AIが使われています。
 ここでは、DTPデザイナー・オペレーターがコンテンツ制作で使用する生成AIで、特に印刷物やWebサイトのデザイン制作で活用されている生成AIに絞って言及することにします。
 その前に、生成AIが市場で求められている背景として、企業の生成AIの活用状況を知っておく必要があるでしょう。それは企業が、生成AIを使ってDTPに関連する業務を行うケースが増えているため、それによってDTPデザイナーやオペレーターの仕事の減少に繋がって、印刷業界にデメリットをもたらしているからです。
 令和6年版の情報通信白書で、企業を対象に業務における生成AIの活用状況を調査したところ、日本は米国やドイツ、中国と比較して生成AIの活用はかなり遅れていることが分かりました。外国の事情はひとまず置き、日本の企業における生成AIの活用状況の結果を紹介します。
 メールや議事録、資料作成等の補助という業務における生成AIの活用状況で、「業務で使用中(効果は出ている)」と回答した企業は18.6%となりました。また「業務で使用中(効果は測定中または不明)」と回答した企業は28.2%となり、効果の有無に関係なく両者を足しますと、実際に生成AIを使用している企業の割合は46.8%となります。つまり、約半数が生成AIを導入しているということです。さらに「トライアル中」という“お試し期間”の22.7%を含めると69.5%となり、約7割の企業が生成AIを使っていることになります。(グラフ1参照)
 この調査が公表されたのが令和6年3月ですから、その後2年が経過した現在は、生成AIの導入はさらに進んでいるはずです。トライアル中でも実際に導入し活用している企業が増えていることでしょう。効果の有無を問わなければ、おそらく企業の6割から7割は既に生成AIを使用していることが予想されます。

案件の減少が予想されるDTP制作

 では、具体的にどんな業務で使用されているのか。DTPに直接関係はしてきませんが、「事業や商品の企画におけるアイデア出し・シミュレーション」は、DTPデザイナーに要求されるケースもあるため、調査結果を見てみますと、効果の有無に関係なく「業務で使用中」の数値を統合すると、38.6%が使用していることが分かります。少ないと感じるかもしれませんが、普及していることを念頭に置いておく必要があります。(グラフ2参照)
 最もDTP制作に関わってくるのが「広報コンテンツ(画像、映像、記事、キャッチコピー等)の作成」です。こちらも効果の有無に関係なく既に「業務で使用中」を合計すると、32. 2%という結果になりました。(グラフ3 参照)
 本来、広報コンテンツは外注に出すケースが多く、印刷会社などの制作会社が請け負う仕事というのが一般的です。しかし、それも生成AIを使って内製化している企業が3社に1社はいるというわけです。これはプロの仕事を企業で内製化しつつあることを物語っています。現在、内製化できる企業は大企業や中堅企業が中心でしょうが、やがて中小企業にも普及していくことは想像に難くありません。企業が生成AIを使用して広報コンテンツを内製化する波は、確実に強まっています。
 特にテンプレート化しやすい社内資料のような定型業務や、スピード重視の安価な印刷案件が、生成AIを使いこなす企業の仕事に取り込まれています。外注需要の減少に伴い、印刷案件が減少していくのは避けられないでしょう。
 印刷会社はDTP制作費の収益低下、企画・提案書に対する要求の増加、薄利多売の案件の減少化によって、DTPオペレーターやデザイナーの役割自体が縮小され、顧客がAIで作成したデータのチェックや修正業務に、時間を割かれるケースが増えていくことが予想されます。

データと印刷技術を融合させる

 一方で、印刷会社にとっても生成AIを活用することでプラスになる面もあります。デザイン制作や校正、画像処理・色管理の自動化を実現し、生産性を大幅に向上させることができます。DTPの業務ではないですが、文章作成用のAIを使えば、顧客に応じた印刷物の企画書・提案書を簡単に作れますから、営業担当者や総務部門の社員にとっては、利便性や利用価値の高いツールとして不可欠になっていくでしょう。
 しかし、問題は顧客が生成AIで作った印刷データの不備を、ただ修正するだけでは収益性が向上しないということです。より付加価値の高い制作に移行していかなければなりません。AIを活用した販促支援の提案、顧客のAI活用を支援するコンサルティング業務、著作権や権利関係を侵害していないか確認する品質チェッカーとしての役割など、増える業務は少なくないでしょう。それらを積極的に取り入れて需要を喚起していく必要があります。生成AIは、まだブランドの意図や企業の深い文脈を完璧に理解することはできません。プロの視点からデザインの理論(黄金比、色彩心理、レイアウト原則)を基に、最適なブランディング施策を展開していくビジネスも重要です。それをDTPデザイナーの役割にしていく必要があるでしょう。
 制作の段階では、AIを使いこなして数多くのアイデア・企画やラフ案を提示し、そこから最適で販促効果の高いコンテンツを制作していくことが、デザイナーに問われてくることは否めません。それを印刷会社として取り組める組織にしていかないと、市場から淘汰されるかもしれません。
 単に「紙面を作る」という作業で済ますのではなく、「顧客はなぜこの印刷物をつくるのか?」「顧客のターゲットの心を動かすコンテンツとはどういうものなのか?」といった視点を持ち、戦略的なクリエイターとして顧客のビジネスをサポートしていく人材になる必要があるわけです。DTPの技術に加え、マーケティング、企画、UX設計など、AIが代替しにくい「人間心理を突くクリエイティブ表現」を提案できるデザイナーになって、企業の需要を喚起できる状況を作らなければなりません。
 生成AIを活用して、顧客の作ったデータを的確に修正し、より高品質な印刷物やデジタルコンテンツに仕上げていくことがポイントになりますが、印刷会社としては、アナログとデジタルの両面から顧客のビジネスをサポートできる体制を構築し、単なる印刷請負業者から脱却し、データと印刷技術を融合させたビジネスで、顧客のパートナーになれるよう業態を転換していくことが求められます。
 要は、企画・デザインに軸を置いた印刷経営に一層強化する姿勢が必要になっていると言えます。生成AIは作業の効率化や高品質のコンテンツを制作するだけのツールに収まるのではなく、印刷業務に変革を与えるツールと捉えていく必要があるわけです。
 今日のデザイナーやオペレーターは、既に生成AIを活用して効率的なビジネスをしている人が少なくないでしょう。使いこなすほど、その利便性と生産性を享受しているものと思われます。
 現場では既にDTPの自動化が進みつつあります。一例を挙げれば、カタログ製作ではExcelデータを自動でレイアウトに流し込むスクリプトや、InDesignの自動組版機能を使えば、膨大な商品情報も一括で処理できます。人の手と目で行っていた校正作業も、AIが文言や数値の不一致を検出してアラートを出して知らせることも可能になっています。
 では、印刷会社のDTPの現場で使用する生成AIにはどんなものがあるでしょうか。導入するなら、既存のワークフローに組み込みやすく、著作権リスクにも配慮されたツールが望ましいと言えます。ここでは2点のみ紹介します。

DTPデザイナーにお勧めの生成AIツール

プロに使いこなしてほしい「Adobe Firefly」
 「Adobe Firefly」は、高品質な画像・動画・音声生成が可能で、日本語対応かつ商用利用も安心な、Adobe製品との高い連携性を持つ生成AIツールです。日本語を含む100以上の言語に対応しており、日本語のプロンプトでも自然に認識し、意図に沿った画像や動画を生成できるのが特長です。
 同製品はAdobe Stockやオープンライセンス、著作権切れのコンテンツを学習データとして使用しているため、生成したコンテンツは商用利用が可能な点がプロユースにも向いており、広告、Webサイト、ゲーム開発、建築デザインなど幅広い用途で安心して使用できるのがメリットです。
 「Photoshop」「Illustrator」などのAdobe 製品とシームレスに連携でき、生成した画像や動画をそのまま編集・加工可能です。これにより制作工程を短縮しつつ、高品質なコンテンツ作りが可能になります。簡単なプロンプト(指示テキスト)を入力するだけで、高品質の写真、イラスト、画像を生成しますから、是非とも活用したいものです。
 Photoshopの作業画面内で「生成塗りつぶし機能」を使えば、画像の一部を選択して、例えば「犬を追加して」と入力するだけで、背景の影や光を再現しながら、自然な形で犬を画像内に生成できます。また、追加するだけでなく、削除・変更も可能です。
 また、「生成拡張機能」では、切り抜きツールなどで画像のフレームを広げると、AIがその外側の背景や被写体の続きを違和感なく生成します。しかも、テキストの指示次第で、背景を自動生成するだけでなく、「夕暮れにして」「ビルを追加して」といった具体的な指示を入力して、コンテンツを生成・追加することも可能です。
 Illustratorでは、テキストからベクターデータを生成することも可能です。このように、使い慣れたツール内で直接生成AIの力を借りられるため、作業フローを中断することなく、制作の効率と表現の幅を大きく広げることができます。
 また、静止画にとどまらず、「テキストから動画生成」機能から簡単な指示で動画コンテンツを作ることも可能です。

豊富なテンプレートで普及している「Canva」
 「Adobe Firefly」がプロユースであれば、企業や個人ユーザー向けで近年市場を拡大しているのが「Canva」です。豊富な素材とテンプレートを用いた自由度の高いデザイン・編集に強みを持つ総合デザインツールで、有料のPro版では61万点を超えるデザインテンプレートが用意されています。しかも、無料版でも25万点以上のテンプレートを保有しているので、利用価値の高いツールと言えます(日本語版のテンプレートも豊富)。しかも毎月1,000点以上テンプレートが増えているため、今後、ますます市場が拡大していくものとみられています。
 また、1億点以上の写真・素材と組み合わせて自由にカスタマイズしてデザインできる点から、企業や個人ユーザーだけでなく、DTPデザイナーのプロユースとしても急速に利用者が増えています。要は、ラフデザインを簡単に出力できる点が、企画・提案書作りで重宝されるからです。しかも圧倒的な速さで簡易なチラシを作れるため、外注費の削減、時短を望む企業にとっては打ってつけの生成AIになっています。
 Canvaの得意分野は、デザインや画像編集全般です。自由なレイアウト調整ができ、細部にこだわったデザイン制作が可能です。SNS画像、ポスター、名刺、プレゼン、動画など、あらゆるクリエイティブなデザイン制作が可能ですし、通常の印刷物の制作にも活用できます。
 膨大なテンプレートと素材(写真・イラスト)から、自分の手で自由に配置・調整して仕上げるスタイルが基本ですから、印刷会社がCanvaを活用するなら、Webサイト上に豊富なデザインテンプレートを作って、デザインを顧客に選んでもらう仕組みを作るビジネスが相応しいかもしれません。プロが作ったデザインはやはり素人のものとは品質面で一線を画しますし、顧客はニーズに合ったデザインを選べます。顧客がデザインで迷った場合には、印刷会社がプロとしてのアドバイスでサポートすることもできます。Canvaは印刷会社としても大いに利用価値があると言えるでしょう。
 今後は、Illustratorで作成した高品質な素材(ロゴやキービジュアル)をCanvaへインポートし、クライアントが運用しやすい形に整えて納品する、といった「ハイブリッド型」のワークスタイルになる可能性があります。

新たなビジネス領域への進出を目指す

 インターネットやSNS、スマートフォンの普及によって、企業が発信する情報量は年々増えています。そんな状況下、情報を分かりやすく整理し、印象に残る形で伝えるグラフィックデザインの重要性はまだまだ高まっていくはずです。特にWebやSNS、オンライン広告などのデジタル分野では、視覚的な表現力を持つデザイナーの需要が今後も続くと考えられます。紙とデジタルの両方に対応できるスキルを身につけて、将来にわたって活躍できる人材になるためにも、生成AIを取り入れて使いこなしていく必要があります。
 今後、DTPデザイナーに求められることは、顧客の要望をしっかりと聞いて理解し、自分のデザイン意図を分かりやすく伝える力ではないでしょうか。顧客の意見をくみ取りながら調整を行って、より良いコンテンツを生み出すためのコミュニケーション能力が、ますます問われてくるということです。
 DTPデザイナーにとって、生成AIは単なる作業の効率化を促すツールに留まらず、職務内容が「作業者」から「共創者」へとシフトしていくことが求められるツールと捉えなければなりません。生成AIは、単なる自動化ツールではなく、ディレクションの高度化を実現する強力な武器なのです。単にデザインを制作するだけでなく、AIを使って広告の予算配分や販促プランを最適化するなど、より上流工程での提案への進出や、これまで門外漢だった3Dや動画制作への参入といった、新たなビジネス領域を開拓していくことが望まれるでしょう。

Canva Adobe Firefly 生成AI DTP