「採用ブランディング」で選ばれる会社になる!
~ 印刷会社が若い人材を採用するための戦略と具体的施策~
印刷会社が若い人材を採用するための戦略と具体的施策
新卒や若い世代は、長引く不況、物価高などの社会情勢を受けて、大手企業へ就職する志向が強まっています。しかも、市場が縮小している印刷業界の中小印刷会社を就職先に考えてくれることはほぼありません。しかし、そんな状況下であっても、中小印刷会社は事業を維持し存続していくために、若い世代に「選んでもらえる会社」にならなければなりません。今日、欲しい人材に入社してもらうための採用戦略として、「採用ブランディング」が必要だと言われています。そこで今回は、印刷会社が「採用ブランディングで選ばれる会社になる!」ための考え方と具体的方策について言及します。
若い世代が持っている印刷会社に対する認識を変える
パナソニックの創始者である松下幸之助は、「事業は人なり」という名言を残しました。これは、事業は人を中心として発展していくものであり、その成否は適切な人を得るかどうかにかかっているといった意味合いがあります。つまり、会社を存続させていくためには、若い人材を採用し、新陳代謝を促して事業を継続していくことが不可欠だということです。印刷業界でも若い人材が不足していると言われており、いかに採用していくかが非常に重要なテーマになっています。
では、若い世代は印刷会社にどんな印象を持っているのか。想像するに、労働集約型産業のイメージを持っていて、過酷な勤務体制やインクの匂い、機械の騒音、立ち仕事、という労働現場のイメージがあるのではないでしょうか。それは、かつて言われた「3K」の職場を彷彿とさせるものです。
また、若者の多くはデジタルスキルを磨きたいと考えています。彼らは、印刷会社が紙媒体を制作・印刷していることから、アナログ中心の労働環境下にあり、DXが遅れていると思っている可能性が高いです。このマイナス要因を払拭しなければ、新卒だけでなく、若い世代からますます見放されてしまうでしょう。
実は、最近の印刷会社の中には「印刷」を軸にしつつも、 Web制作やイベント企画、マーケティング支援などへと業態を広げているところが増えています。しかし、そのようなデジタル化が進んでいる実情が、学生をはじめ若い世代にうまく伝わっていない感があります。
若い世代が古い「町工場の印刷屋さん」のイメージで止まっていることが、採用における最大のミスマッチになっていることを認識し、「3K」の印刷会社はもはや淘汰されて残っていないことをアピールしなければなりません。そして、このミスマッチを解消して若い世代に選ばれる印刷会社になっていくために、「採用ブランディング」が必要になってくるのです。

独自の採用ブランディングを打ち立てる
「採用ブランディング」を最初に提唱したのは、むすび株式会社の代表取締役である深澤了氏です。深澤氏は、企業の採用活動を経営戦略の一環として捉える必要があるとし、「採用ブランディング」というメソッドを確立しました。
採用ブランディングとは、「理念を土台に、採用全体を貫くコンセプトを設定し、すべての採用フローをそこに紐づけていく」ことであると、著書の中で述べています。
そもそもブランディングは、仕組みを作って効果を持続させてこそ成り立つものです。それを採用にも結び付けて、採用に関するさまざまな施策に一貫性を持たせて、全社的に取り組んでいくことを基盤にしなければなりません。つまり、場当たり的な施策で採用活動を行ってはいけないということです。そのため、採用ブランディングが成功し、欲しい人材を採用できるまでには半年から数年かかると言われています。
このことから、欲しい人材を確保するための採用活動では、ターゲットに近い応募者を決めて募集活動を行い、強みを活かした独自性のある選考フローを実施し、ミスマッチの少ない採用を目指していくことがポイントになります。
しかし、「当社のような小規模な印刷会社に若い人が来てくれるわけがない」「新卒を採用することはもう無理だ」と、若い人材の採用を諦めている印刷会社も少なくないでしょう。実際、小規模の印刷会社では新卒を募集しても一向に応募がないのが実情です。
特にここ数年はその傾向が強く、黒字経営を続けているのに若い人材を採用できない印刷会社も存在します。それはどこに問題があるかと言えば、中堅・大企業と同じような応募方法を採っている点にあります。小規模だからこそ、中堅・大企業とは違った「差別化した採用戦略」を展開していかなければ、いくら募集しても応募がない状態が続くことになります。
若い世代は心理的安全性から「協調・親和」を求める
では、就職活動をしている学生はどう考えているのでしょうか。株式会社リクルートマネジメントソリューションズが、 2026年卒の大学4年生・大学院2年生1,008名(n=861)に対して、「新卒採用大学生の就職活動に関する調査」を実施しました。その調査で「あなたは、どのような組織風土・文化のもとで働きたいと思いますか」という問いで、各4つの要素について重視している度合いに最も近いものを選ばせたところ、トップ3は「相互の思いやりとあたたかさ」「オープンなコミュニケーション」「強い連帯感とチームワーク」の「協調/親和」の社風が突出していることが分かります。(表参照、上位3つまで選択)
これは、今の若い世代が心理的安全性を強く求めている表れであり、ブラック企業やパワハラの上司を避けたいという防衛本能からきていると考えられます。12年前の調査結果でも「協調/親和」の社風を一番に考えていたわけですが、2026年卒では他の「創造/開拓」「競争/自立」「完遂/探求」の分野が減少して、その減少分が「協調/親和」の増加分になっている印象です。一方、「創造/開拓」分野の落ち込みが大きく、「理想に向かう情熱と意欲」では前回の半分以下にまで減少しているのが目につきます。
では、仕事に求めることは何でしょうか。同調査では、 1位が「安定」で、次に「貢献」と「成長」が同水準で並び、4位に「金銭」が入っています。「安定」に関しては、ここ数年上昇傾向にあり、過去10年間で最も高い選択率になっています。安定を求める理由には、先行きが暗い社会情勢や物価高が背景にあることは間違いないでしょう。
また、企業に応募する動機についての調査では、1位が「興味のある仕事・職種だったから」で、次に「希望する勤務地で働けそうだから」、3位が「業界に興味があったから」と続いています。今の若者は、その企業が社会に対してどのような価値を提供しているかというパーパス(存在意義)を重視する傾向にあります。
以前は、「会社が何をしているか」と「自分の日々の仕事」が切り離されていても許容されましたが、今は「自分の仕事が社会にプラスの影響を与えているか」という実感を重視しているわけです。「なぜ、この事業を行うのか」に納得できないと、モチベーションを維持しにくい傾向にあるようです。自分の関わる製品やサービスが、どう社会に貢献し良くしているかという点で納得感を求めているのです。
そのため、「この会社は社会をどう良くしたいのか?」という問いに答えられない企業は、優秀な若い世代から敬遠されてしまうわけです。「その理念の下で働く自分が、どう成長できるか」「自分の価値観と矛盾しないか」という「共感」を求めているのです。
会社の存在意義を言語化しミスマッチを防止する
一方、企業側も独自の経営理念を持つ必要があります。どのような人材であれば自社のパーパスに共感してくれるかを考え、採用したい人物像を作り上げる必要があります。また、どのような情報発信・スカウト方法が共感を得られて、自社にマッチした人材に対して効果的にアプローチできるかを言語化しなければなりません。小規模会社だからといって、採用できれば誰でも良いわけではないのです。むしろ、「経営理念やパーパスに共感し、共に働いてくれる人物」でないと、入社しても長続きしません。それは両者にとって不幸でしかないのです。
そこで、若い人材を採用する際、従来の「求人票を出して待つ」スタイルではなく、「採用ブランディング」が不可欠になってくるわけです。
若い世代は、SNSやネットで膨大な情報に触れています。「給料が良い」「休みが多い」といった条件面は確かに重要ですが、それだけでは中小の印刷会社に応募はしてきません。「この会社で働く自分をポジティブに想像させる」企業であることが重要です。企業は、採用ブランディングを通じて、「なぜこの会社が存在するのか(パーパス)」や「どんな人が働いているのか」を可視化させて、若い世代に数ある選択肢の中から選ばれる状態をつくる必要があるのです。
ブランディングを行うことで、ミスマッチによる早期離職の防止にもなります。せっかく採用しても、すぐに辞められてしまってはコストも時間も無駄になります。
一般的なブランディングが「商品を買ってもらうため」の活動であるのに対し、採用ブランディングは「入社してもらうため」「長く活躍してもらうため」に、自社の魅力を独自の価値として構築し、発信することを指します。「自社を『働きたい場所』として選んでもらうためのファンづくり」と言い換えてもよいでしょう。
「共に未来をつくる」の精神で全社一丸で採用活動を行う
知名度がない印刷会社は、大手ナビサイトだけで採用を行うと、多額の掲載料を払い続けて多大なコストがかかって、結果として無謀な“空中戦”になりがちです。
全社的に「共に会社の未来をつくる若い人材が欲しい」という共通認識を持ち、まずは採用を優先事項と捉えて、社長、採用担当者、営業、制作・生産現場が一丸となって、全社横断のチームで取り組んでいくことが採用を成功させる基盤になります。10名前後の印刷会社であれば、チームづくりというよりも全社員に関わってくる問題なのですから、社長自らが採用活動を先頭に立って行い、社員をけん引していくことが重要です。そして、採用活動に全社員が協力するという土壌をつくっていくことが求められます。
次に、具体的な採用ブランディングの施策に言及します。募集する際は、会社の良い面だけでなく、社風や課題もセットで発信することが肝要です。Webサイトはもちろんのこと、SNSを活用して自社のパーパスや魅力を発信して、価値観の合う人材が集まりやすいように仕掛けます。
採用ブランディングは「格好つけること」ではなく、「自社らしさを定義すること」であり、入社後に両者が「思っていたのと違う」を減らすための強力なフィルターとしても機能します。また、今日の若い世代は「その会社でどのようなスキルが身につくか」「社会にどう貢献できるか」という自己成長や社会的意義を重視していますから、訴求ポイントは「理念」や「成長環境」に焦点を当てたアピールを行う必要があります。そのため、企業の存在価値を提唱するトップメッセージや、仕事のやりがいが伝わる社員のインタビューなどのコンテンツを発信していくことが求められます。
今や紙の印刷という伝統的な枠組みを超え、印刷会社もデジタルやマーケティング支援を行う事業で市場開拓していく時代です。以下の「根本的な考え方を転換する(マインドセット)」「具体的な採用方法と施策」「中小企業だからこそできる『強み』の活用」の3つの考え方に沿って、採用ブランディングを展開してみましょう。
印刷会社の採用ブランディング
1. 根本的な考え方を転換する(マインドセット)
今日の若者は、情報のほとんどをスマートフォンなどのデジタルツールで取得しており、紙から情報を得る機会があまりありません。その影響もあって、印刷会社に若い人材が応募してこなくなり、会社としては採用するのがますます困難になっています。そこで、20代の若い世代を採用したいのであれば、紙の印刷に関心を持っている少数派を対象とするよりも、「企画を提案するクリエイティブな制作」「マーケティング施策に注力した事業」などに焦点を当て、アナログからデジタルにシフトした事業に重きを置いて、まずは、自社の定義を書き換えることから始めるのが得策です。
もちろん、紙の印刷業が売上の多くを占めている場合、印刷業を主軸にしていくことは大切なことですが、新たなデジタルメディア事業を推進し、業態変革を目指すことは将来を考慮すれば重要です。そして、その新しい事業形態に沿った人材採用を行うのも一つの手段であり、そのほうが採用しやすいと言えます。
これは、若い世代に迎合した事業に変えろというように受け止められるかもしれませんが、そうではなく、会社を存続させていくためには時代の流れに合わせて、紙の印刷からデジタルメディアへ比重を高め、業態を変化させていくという発想です。これは顧客のニーズに応えることにもなるはずです。つまり、これまでの印刷経営をマインドセットして製造業から脱却し、「情報価値創造業」へと進化させていくわけです。
また、従来の職人的な勘と経験も大切ですが、データ活用やDXを推進した経営体制で、合理的で効率的な環境を好む若者へアピールしていくことが求められます。さらには、「ワーク・ライフ・バランス」を徹底し、「印刷業界=長時間労働」というイメージを払拭するため、生産性向上を目的とした設備投資やIT技術の導入、柔軟な働き方の導入を、経営の最優先事項に据える必要があります。
2. 具体的な採用方法と施策
採用ブランディングは一朝一夕では実現できません。視点を変えて、「モノ」より「コト」を見せるようにしましょう。会社説明会では、印刷設備、印刷工程の説明よりも、「その印刷物が世の中をどう変えたか」「顧客にどう喜ばれたか」というストーリーを伝えます。また、年の近い若手社員がいきいきと働いている姿を動画で見せるのも、最大の安心材料になります。InstagramやTikTokなどのSNSで、生産現場や社員の日常をカジュアルに発信するのも有効です。
また、業務内容のアップデートも考えていきます。単なるDTPオペレーターではなく「SNS運用もできるデザイナー」や「動画制作もできる営業」など、若者が市場価値を高められる職種を用意します。つまり、そのような職種を設けて新しい事業を立ち上げることで、業態変革を目指している会社であり、旧態依然ではないチャレンジ精神のある印刷会社であることを認知してもらうのです。
さらに、「『印刷』を除いた社名変更」「会社ロゴのリニューアル」や「新規事業の立ち上げ」など、若手の感性を活かせる社内プロジェクトを立ち上げ、それを若い社員に任せて、自分たちが会社を変えているという実感を持たせることで、やりがいとモチベーションに繋がっていくはずです。
教育と評価の仕組みづくりも重要です。スキルアップを図る機会やキャリアパスの道筋を示すことも求められます。また、精神的な孤立を防ぐため、直属の上司には話しづらいことを相談できるメンター制度の導入も検討しましょう。
教育に関係することでは、資格取得とリスキリングの支援があります。ITパスポートやドローン資格、ウェブ解析士など、印刷以外のスキル取得を会社が全額支援することで、個人の成長を応援する姿勢を示すのもよいでしょう。
以上の施策を行い、定着させることができれば、社風となって採用活動にも反映されますから、新卒や若い人材の応募が増えていくようになるでしょう。
3. 中小企業だからこそできる「強み」の活用
大企業にはない「距離の近さ」を武器にします。若い世代は「個人の成長」「貢献実感」「風通しの良さ」を重視する傾向が強まっており、これは中小企業にこそ大きなチャンスがあります。大手企業では、入社後数年間は定型業務や補助的な役割の業務が続くことが多いですが、中小印刷会社では、早い段階から責任ある仕事を任せることが可能です。その分、早くから活躍できる可能性が高いわけです。組織がコンパクトなだけに、一人ひとりの業務範囲が広く、全体像を把握しながら仕事ができます。
印刷会社によっては、特定の専門分野だけでなく、その気になれば営業から企画、実務まで幅広い経験を積むことが可能です。そのため、市場価値の高い「自走できる人材」を目指す上で最短ルートがとれます。この点を採用活動で訴求していくことで、若い世代に選んでもらえる可能性が高まってきます。
若い世代は、給与と同じくらい、あるいはそれ以上に「自分がそこで働く意味」を求めるものです。会社としては、「この会社にいれば、古臭い印刷業界をアップデートできるかもしれない」「自分のスキルが顧客の直接的な助けになる」という手応えを描ける環境をつくることが、採用成功の鍵となります。
そもそも、理念や価値観に共感できない人材を採用したところで、「教育してもすぐ辞めてしまう」という事態が生じるだけです。少しでも長く働いてもらうためには、初めから理念に共感してくれる人材を求め、そのための採用ブランディングを全社一丸となって取り組んでいくことが、結局は実を結ぶことになります。
中小印刷会社は、大企業と同じ土俵で採用活動をしても、「待遇面」や「知名度」ではほぼ勝てないわけですから、「協調」と「親和」のある企業文化を築き、将来性のあるクリエイティブな事業にチャレンジしていることを強調した採用ブランディングの下で、「自分のやりたいことができて、自己成長できる会社である」点を訴えていけば、求める人材が集まってくるのではないでしょうか。
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