レッツ・トライ! 映像撮影ビジネス

顧客ニーズに応え、新規市場開拓に繋がる新たな事業として

顧客ニーズに応え、新規市場開拓に繋がる新たな事業として

映像・動画を利用したマーケティング施策は、商品・サービスへの理解を深め、購入率のアップに繋がることが明らかになっています。印刷会社であっても、顧客が映像・動画制作に関心を示し、それらのコンテンツを発信することで顧客ニーズに応えられるマーケティングが可能であれば、映像・動画制作をサポートすることを考えたいものです。また、印刷会社にとっても映像・動画ビジネスに取り組むことは、新たな市場を開拓する機会となります。今回は「レッツ・トライ! 映像撮影ビジネス」と題し、映像撮影・制作に焦点を当てて考察してみました。

動画コンテンツビジネス市場は拡大の一途をたどる

 映像撮影と聞くと、特別な技術を持ったカメラマンによる専門職というイメージがあり、印刷会社では門外漢のビジネスとして捉えられているのではないでしょうか。そのため事業化することは最初から困難だとし、新規ビジネスとして考える印刷会社はほとんどいないのが実情です。しかし、少数ではありますが映像ビジネスにチャレンジし事業化している印刷会社があることも事実です。それらの印刷会社の多くは、顧客のニーズに応えるため、あるいは新規市場開拓のために取り組んでいます。
 市場では映像・動画へのニーズは年々高まっています。株式会社矢野経済研究所による国内の動画コンテンツビジネス総市場規模の調査では、2024年度の市場規模は9,880億円と予測しています(グラフ参照)。過去5年間の数値を見ると、着実に市場が伸展しているのが分かります。今後も動画コンテンツビジネスの市場は拡大し続けていくことは間違いないでしょう。
 映像コンテンツは、映像、音声、文字、アニメなどを組み合わせることで、紙媒体より多くの情報を短時間で伝達できるメリットがあります。豊かな表現力を実現でき、訴求力も高いものがあります。しかもインターネットやSNSを通じて情報を拡散しやすいですし、視聴者の反応や選択において映像コンテンツの内容を改良させることもできるというインタラクティブ性があるのも利点です。
 印刷業界に従事する印刷人であっても、一人の視聴者として映像・動画への関心は高いものがあるはずです。近年、地上波TVの視聴率が低迷していますが、一方でYouTubeやNetflix、Amazon Prime Video、Hulu、ABEMA などの動画配信サービスが隆盛を極めており、インターネットの動画市場規模は年々拡大しています。もはや若年世代だけでなく、50代以上の年齢層においてもインターネットを介した動画視聴は増えつつあります。

印刷会社の営業が映像制作の窓口になる

 このように動画ビジネスが伸びているのに呼応するかのように、会社紹介、商品PR、教育研修、作業マニュアル、リクルート、イベント紹介、記念式典など、企業・団体の映像撮影・制作ビジネスも伸展しています。
 映像撮影・制作ビジネスは、これまで動画制作会社のビジネス領域であったのですが、一般企業や個人までもが撮影・制作に携わるようになり、ますますそのハードルは低くなっています。それは、素人がスマートフォンや一眼レフカメラを駆使して撮影・編集・配信しているYouTubeの配信状況から見ても如実に分かります。
 ビジネスにおける映像・動画コンテンツは、視覚と聴覚への訴求によって、印刷物より多くの情報を効果的に伝えることができます。コンテンツ自体も共有されやすく拡散性が高い特長を持っています。さらにインターネットを介した映像・動画コンテンツは、視聴者の視聴時間や離脱率などのデータを分析することができるため、フィードバックしてコンテンツの改善に役立てることもできる利点があります。このように映像・動画コンテンツは情報をより効果的に伝える機能を有しているため、その点では印刷物以上に利用価値の高いメディアと言えるでしょう。
 映像撮影の仕事は、カメラマン自身がどんな映像を撮りたいのか、作りたいのか、どんな分野で活躍したいのか、によって分類されます。企業を相手にビジネスをするとなると、企画から撮影、編集までワンストップで行える映像制作会社が請け負うのが一般的ですが、企業の案件を引き出すには営業という窓口が不可欠です。その点で印刷会社の営業は、顧客と直接面談するアナログ営業が多いため、どんな映像コンテンツを制作し広報宣伝や販促に使いたいのかを、直接具体的に聞き出せる機会を作りやすいと言えます。
 そのため、映像案件が出てくれば、あとは映像制作会社に外注するだけで済むため、具体化することが難しいビジネスではないはずです。要は、ビジネスを丸投げすればよいだけですから、その気になれば顧客から受注することは可能でしょう。それなのに、なぜこれまで映像ビジネスに携わってこなかったのか。その理由は「映像制作はそもそも異業種の仕事で印刷業とは関係ない。しかも知識やノウハウを持っていないため受注することはできない」といった考えが根底にあったからに他なりません。クライアントのニーズや課題を印刷物で解決していきたいという気持ちは理解できます。印刷以外のメディアには手を付けない、つまり「餅は餅屋」という考えは至極真っ当だと言えるでしょう。

課題は映像カメラマンをいかに確保するか

 しかし、印刷だけに固執していては事業が先細りしていくのは、市場規模の推移を見れば分かります。紙の印刷物の需要は年々減少しているわけですから、中小印刷会社は生き残りをかけてさまざまな手を打って経営を維持していかなければなりません。映像コンテンツを作る機会があるのであれば、フリーランスに外注したり、動画制作会社と業務提携したりして、新たな事業に取り組んでみる価値はあるのではないでしょうか。
 問題は、映像案件が持ち上がって自社で受注することになった場合に、撮影するカメラマンをどこで調達するかということです。そのために予め社員として採用するのか、プロのカメラマンに外注に出すのか、という人材面の課題が出てきます。これをクリアできれば、撮影機材の設備投資についてはさほど大きな費用は発生しませんから、問題ないかと思います。要は、人材の確保という点が最大のポイントになるわけです。
 先に述べたように、案件があれば、実際の撮影・制作は映像制作会社やフリーランスのカメラマンにすべてを丸投げすれば良いとも言えるのですが、印刷会社が営業して受注した場合は、できれば企画から携わり、最後の納品までプロデュースしたいものです。そのほうが利益率も高くなるだけでなく、クライアント企業との接点を強化し、関係性を深めていくことができますから、フリーランスの映像カメラマンを取り込んで、映像ビジネスをプロデュースする方向で考えたいものです。
 そこで考えられる方法として、フリーランスのカメラマンを社員として雇用することが挙げられます。もちろん、募集して採用できたとしても、すぐに映像の仕事を受注できるかどうかは分かりません。場合によっては、当面は写真撮影やその他印刷関連の仕事を兼任してもらう必要が生じる可能性もあるでしょう。そのことを考慮した採用が望まれます。ここで、GCJの事例を紹介します。

映像カメラマンはDTP兼任で制作体制を構築

 GC東京の第一コンピュータ印刷株式会社(代表取締役白倉 猛 、本社:新潟県三条市塚野目3-20-24)が映像・動画制作を立ち上げたのは10年以上前のことでした。当初は自社業務の紹介や取り扱っている商品紹介の動画をホームページ上で発信し、映像・動画制作ができることをアピールしていました。
 当然営業でも、映像撮影・制作を行っていることをアピールしていましたが、実際に顧客の企業紹介や商品・サービスの紹介動画の制作を受注できるようになったのは、2015年頃からだったといいます。現在は、さまざまな業種の顧客の動画制作を手掛けており、1つの事業として展開しています。
 映像撮影・制作を行う人材は、経験者であることが不可欠です。同社を率いる白倉社長に、映像撮影・制作の人材面について話を伺ったところ、「人材については、新潟県内のハローワークや求人情報サイト、さらには自社のホームページなどで映像カメラマンの募集をかけました。募集要項には、映像制作経験者であることと、DTP制作が行えることを条件にしました。というのも、最初から映像制作の仕事がコンスタントに受注できるとは思っていませんでしたから、採用した際はDTP制作と兼任してもらう必要があったからです。比較的スムーズに応募があり、3名の映像撮影・制作の経験者を採用することができました」とのことです。
 しかし、映像撮影・制作が行える人材を雇えたからと言って、すぐに撮影の仕事を受注できることはなかったと言います。しかも、まだ十分な制作体制を構築しておらず、対外的にもPRが十分ではなかったため、受注できるまでしばらくは時間を要したようです。
 「当初は2、3カ月に1案件ある程度でした。そこで、希望する顧客に無料で映像コンテンツを制作し提供することにしたのです」とのことで、まずは実績を積むために思い切った施策を打ったのです。無料であるならば制作を依頼したいと思うのが顧客心理です。コストは掛かるものの無料サービスが功を奏して、映像コンテンツも請け負える印刷会社として県内で知名度が高まっていきました。
 映像制作のスタッフは社員として採用しているため、比較的空いている時間を利用して映像を制作することができ、無料制作が実現したのです。「映像の仕事がない場合はDTPの仕事をしてもらうという状況でした。フォトグラファーとしてPhotoshopを使うことができますから、DTPの仕事も比較的兼任することが可能なのです」とのこと。外部のカメラマンを使うとコストが生じるため、無料で制作することは考えられない。社員として雇用したことで、外部へのコストが発生しないというメリットがあったわけです。
 同社では、このように撮影スタッフを採用し映像撮影・制作を内製化し、事業化しているわけですが、その道のりは決して平坦ではなかったことが窺えます。今でこそ映像撮影・制作の仕事をコンスタントに受注できるようになったとは言え、売上はまだまだ小さく、印刷物の売上には遠く及ばないとのことです。
 それでも、映像制作のノウハウを持ったスタッフが在籍していることで、案件があればいつでも対応できるのは強みです。白倉社長は「映像撮影スタッフを募集する際は、DTPの仕事もできる人材であることが望ましいでしょう。また、じっくりと足場を固めて中長期的に事業を育てていくことがポイントになります」と、事業化するうえでのアドバイスを語ります。
 新しい事業を始めるうえで重要なことは、いかに社員に理解を求め全社的に取り組んでいけるかがポイントです。そして、映像経験者の人材を募集する際に大切なことは、経営理念に共感し印刷事業に関心を持っている人材であることが鍵だということです。映像制作に参入することはなかなか難しいことではありますが、企業では映像コンテンツへの関心は年々高まっていますから、チャレンジしてみる価値はあると言えるでしょう。

専属のフリーランスを使って映像制作を進める

 中小印刷会社の場合、人材の募集をかけても集まらないケースが多く、映像撮影経験がある人材となるとなおさらです。社員として採用できないとなると、一つの考え方としてフリーランスの映像カメラマンを使う方法も考えたいものです。映像撮影・制作の案件があった場合に、営業担当者に同行して、顧客へヒアリングや撮影方法に対して的確な提案を行ってもらえるような契約をしてみるのも良いかもしれません。
 今日では、インターネット上で映像クリエイターを専門にした求人サイトがいくつか開設されていますから、それらを活用するのも手です。また、映像カメラマン自身がホームページを立ち上げて仕事を募集していますから、検索エンジンで見つけることもできます。
 このように映像制作を外部に委託するのであれば、人材面ではそれほど苦労することはないと思われますが、経営者としては今まで取り組んでこなかった新しい分野を事業にすることに抵抗感があるのは否めません。
 まずは営業時に、顧客に事業内容や商品・サービスの紹介・宣伝映像についてニーズがあるかどうかを聞き出し、関心の度合いを探ってみることを是非実行したいものです。そこで良い返事がもらえたなら、営業とお金のやりとりだけ引き受けて、撮影や編集制作については外部の映像カメラマンに丸投げするという方法を採るのです。せっかく映像制作の話があるのに、みすみす逃してしまうのはもったいないですから、なるべく請け負う方向で考えたいものです。
 映像・動画コンテンツは、今や広告宣伝や販促に欠かせないものと言っても過言ではありません。印刷会社であっても受注できるようにしていくことで、事業の多様化が図れたり、業態変革の契機になったりするだけでなく、逆に映像制作から新たな紙媒体の受注に繋がるかもしれません。
 結局、撮影制作の仕事がコンスタントに受注できるかどうかに懸かってくるわけですから、結局、営業力次第ということになります。印刷営業で出向いた際は、「弊社ではお客様のニーズや売上に貢献するために映像制作を引き受けることにしました」と自信をもって言えるよう、映像制作にも対応できる体制を整えたいものです。
 なお、映像制作の経験者を雇用するのであれば、写真撮影やDTPの画像処理といった別の業務も行える人材を募集することがポイントと言えます。業務の兼任を前提にした募集を行い、映像撮影ビジネスに取り組むのが望ましいでしょう。

撮影はデジタル一眼カメラで十分といわれる理由

 最後に、カメラについて言及します。撮影機材を揃える場合は、最初から本格的なビデオカメラを導入するよりも、取り回しのしやすさや商品撮影との兼用を考慮して、デジタル一眼カメラ(一眼レフまたは、ミラーレス一眼)を推奨します。以前は、多くのデジタルカメラは、連続撮影時間が30分に制限されていましたが、2019年の日本・EU経済連携協定の発効によって、一部の最新機種では30分以上の連続撮影が可能になりました。現在でも多くの機種で30分制限が残っていますから、デジタル一眼カメラを購入する際は仕様を確認する必要があります。因みに映像撮影で必要になる機材は、カメラ、三脚、照明、マイク、記録メディア、編集ソフト、交換用レンズ、ジンバル、バッテリーなどがあります。
 ビデオカメラは長時間の撮影や高倍率の映像を撮りたい場合、あるいは多くのカット映像を組み込みたい場合に、デジタル一眼カメラより有利と言われています。例えば、長時間の映画・ドラマ撮影や、被写体が動くスポーツ撮影などに適していると言えます。しかし、会社関連の映像はホームページやYouTubeで配信することがほとんどで、数分程度の短い映像が中心です。長くても30分程度で、それを超えるのはセミナーや講演といった映像制作になるはずです。長時間撮影を考える場合でも、デジタル一眼カメラで対応可能な機種が発売されていますから、それを購入しておけば問題ないと言えます。 

映像 動画コンテンツ Monthly Report