M&Aは企業同士が成長を目指すのが目的だ

 今回は、3月7日に富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社がオンラインで開催した「新たな価値創造に向けて! 企業力強化セミナー」から、東京都事業承継・引継ぎセンターのセンター長 藤田善三氏の講演内容を紹介する。テーマは「時代の変革に合わせた成長戦略 ~事業承継型M&Aの活用について~」である。現在、中小企業では後継者問題の解消や既存事業の強化、デジタル化対応や事業拡大などを理由にM&Aが増えている。藤田氏は「企業が合併した後でいかにM&Aの効果を高めていくかがポイントになる」とし、廃業を考える前に事業を継続する方向でM&Aを戦略的に検討してほしいと述べた。

レクチャーズ・ルーム 65

東京都事業承継・引継ぎ支援センター長
藤田 善三 氏(講師)

 「M&Aは中長期的には会社を買収する側と会社を譲渡する側が一体となって成長を目指すことが重要になります」という藤田氏。
 事業承継は想像以上に時間を要するし、また会社を買収する側からみても時間が掛かるとし、「M&Aはスタートしてから終えるまで1年くらいは掛かりますし、会社の統合作業が加わるとさらに1年くらい要します。そのため、会社の買収を検討してから成果が出始めるまで、2年から3年は掛かることを念頭に置いて戦略を立てていかなければなりません。そのため、会社を売りたいという経営者も会社を買いたいという経営者も、早めの準備が必要になってきます」と、M&Aは思った以上に時間を要すると説く。
 また、買収する際の会社の価格について、「同業者ならどのくらいの価値があるかは想像がつくと思いますが、異業種の会社を買収する場合は、経験値がないですから分かりづらいものです。通常は純資産に営業権(のれん代)の2、3年分を加えて計算するのが一般的です」と、会社の価格の算出方法を学んでおくことの重要性を指摘する。
 M&A先の会社をどうやって探せばよいのかという質問をよく受けるという藤田氏。探し方については「プラットフォーマーのWebサイトの無料会員になって、いろいろな企業を眺めているだけでも、こんな会社が売りに出ているのか、この地域ではこの価格か、といったイメージを持つことができますから、すぐにM&Aを考えていなくても、普段からM&A市場の動向を見ておくことも大事だと思います」とのことだ。
 では、なぜM&Aを通じて成長を目指す必要性があるのかというと、「いまは1社だけの努力ではどうにもならないほど先行きに不透明感がある時代です。そんな状況下、自社の再構築であるとか、イノベーションが求められているわけですから、その1つのきっかけが事業承継だと感じています。一般論として若い経営者のほうがチャレンジしやすい状況ですし、早期の事業承継は中小企業の成長を後押ししているというデータがあります」と話す。
 また、中小企業のグループ化の動きがあることに触れる。「印刷業界にもあると思いますが、これは多くの中小企業を譲り受けてグループ化することで、買収した会社と買収された会社が力を合わせてシナジー効果を発揮していくことが最大のメリットと言えるでしょう。それによって技術を高めたり販売チャネルを増やしていくことが可能になりますし、規模が大きくなることで価格交渉力も高まり経営の効率化を図れるメリットも生まれてきます」と説く。
 次にサプライチェーン事業承継について触れ、仕事を依頼していた取引先が突然廃業し、仕事をこなすのが困難になるのを防ぐ意味から、普段から取引先の事業状況を注視することの重要性を説いた。「外注に出していた仕事を内製化するために外注先を買収するのは、両者ともによく知っている関係であるため円滑にM&Aを進めやすいし、コスト削減にも通じシナジー効果も期待できるメリットがあります」とのことで、身近な会社との合併はスムーズに事が運びやすいという。
 最後に藤田氏は、成長戦略に繋がる事業承継の支援策について触れ、一番の窓口は事業承継・引継ぎセンターであるとし、「無料で皆さんのご相談を受けますし、場合によってはM&Aのマッチング支援をさせていただきます」と言及。また、国では事業承継・M&A補助金があり、大きく分けて専門家活用枠、事業承継促進枠、PMI推進枠の3つがあると説く。さらに日本政策金融公庫による融資制度も事業承継の施策としてあるとのことで、これらを活用することも促した。

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