新規開拓営業の多角的手法と取り組み方
アナログとデジタルを組み合わせて自社に合った営業手法で臨む
アナログとデジタルを組み合わせて自社に合った営業手法で臨む
印刷需要が減少傾向にある中で、印刷会社が売上を確保していくには、既存顧客からの受注だけでは心もとなく、いずれ先細りすることが予想されます。そのため、将来を見据えて営業を強化し、新規開拓を行っていく必要があります。今日の新規開拓営業は、アナログからデジタルまで多角的手法が存在している上に、企業によって経営方針や営業戦略が異なるため、いかに自社に合った効果的な営業手法を見出していくかが重要になってきます。今回は新規開拓営業の多角的手法を紹介し、印刷会社にとっての効果的な営業手法について言及します。

新規開拓では「テレアポ」と「飛び込み営業」が主流!?
そもそも新規開拓営業は、売上拡大や企業の競争力強化、長期的な成長を目指すために不可欠なものです。印刷会社の中には、一部の得意先からの受注や下請けに特化していることで、特に新規開拓をしなくても安定した売上を維持しているところもあるでしょう。しかし、今日は先行きが不透明で将来予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代です。いつ得意先の経営が行き詰まって発注が途絶えたり、激減したりするか分かりません。いま安定した売上を上げている時期に新規開拓の準備をし、危機が訪れた際に対応できるようにしておきたいものです。
ところで、企業ではどのような新規開拓営業を行っているのでしょうか。企業のさまざまな業務の効率化をサポートしている株式会社ラクスでは、2024年6月に「新規開拓の現状や課題点」に関するインターネット調査を実施しました。その中で「新規顧客開拓はどのような方法で行っていますか?」(調査人数:1,013人、回答数:813人、複数回答可)という設問で、最も多かった回答が「テレアポ」(39. 2%)になりました。
2 位に「飛び込み営業」(36.4%)が入り、3 位に「郵送DM」(22. 0%)、以下「展示会」「Web 広告」「SNS」「メルマガ」と続いています。(グラフ参照)
インターネット社会と言われている今日ですが、アナログのテレアポと飛び込み営業が1位、2位になっているというのは意外です。新規開拓営業では、未だにアナログ手法が主流であるということのようです。
新規開拓で活用される9つの営業手法
新規開拓営業にはいくつか手法があります。「飛び込み営業」「電話営業(テレアポ)」「メール(DM)営業」「フォーム営業」「リファラル営業(既存顧客からの紹介)」「セミナー・展示会の参加や開催」などの他に、マーケティング活動に含まれる「広告運用」「Webサイト運営」「SNS 運用」などもあります。通常はこの中の一択だけを選択して営業するわけではなく、それぞれの手法を組み合わせて営業していくことになります。それぞれの手法について簡潔におさらいしてみます。
「飛び込み営業」は、アポイントをとらずに見込み客に直接訪問する手法ですが、今日では、アポなしでの訪問を好まない企業がほとんどのため、非効率的な営業と言わざるを得ないでしょう。飛び込むにしても、事前に顧客の業界・市場や経営状況をリサーチし、適切な訪問時間の選定、顧客とのヒアリングのための筋書き(台本)などを準備し少しでも面談できる確率を高めることが求められます。
「電話営業(テレアポ)」は、デジタル時代の今日でも未だ主流になっている手法です。見込み客に直接電話をかけて面談の機会を設定する営業手法です。事前に話す手順を決めたマニュアルを作って顧客の反応を見ることができますから、営業の可能性を探るのに適していると言えます。訪問型の営業に比べて、移動時間や交通費のコストを削減できますが、電話営業は相手の顔が見えない分、断りやすい側面があるので、アポを取得するまでに相当数の電話をしなければならないのがネックです。
「メール(DM)営業」は、潜在顧客のメールアドレスを入手し、PR用メールを送ってアプローチする営業手法です。印刷会社であれば、自社の印刷物・販促品紹介やキャンペーン情報、展示会出展情報などを明記したメールを送ります。リストにある見込み顧客や名刺交換した相手に送信するのが一般的です。
時間や場所に縛られないため、多くの顧客に一度にメール配信できるのがメリットです。履歴やコミュニケーションの記録も残るため、メール開封率や反応の分析も可能です。受信者にとっても、自分の都合のよいタイミングで内容を確認できるのもメリットです。効率的な新規開拓であり、リモートワークが普及する現代において有効な営業手法ということで、最も普及しているのではないでしょうか。
「フォーム営業」は、聞き慣れないかもしれませんが、企業のホームページでは「お問い合わせフォーム」や「チャットボット」を設けていますから、そこに顧客が要件を書き込む営業手法になります。フォーム営業は、24時間365日いつでもコメントできる点が特長です。コメントを受け取る企業も都合のよいタイミングに確認できるため、営業に対するストレスを感じさせないのがメリットです。
フォームには人材採用やカスタマーサポートなど、さまざまな目的のフォームがあるため、顧客は必要に応じてフォームを選択し送信できます。送信した内容は企業の担当部署で確認され、質問や要望に対する返信が来ます。フォーム営業用のテンプレート文を作成すれば、一部を編集するだけで使い回すことができるのもメリットです。
「リファラル営業(紹介営業)」とは、既に顧客になっている企業から見込み客を紹介してもらう手法です。紹介者の信頼によって、新規顧客との信頼関係を容易に築けるというメリットがあります。営業活動の効率化やコスト削減、営業対象エリアの拡大など、多くの利点があります。 「セミナー・展示会の参加や開催」は、セミナーやイベントに参加したり、あるいは自社で開催したりして見込み客と対面でコミュニケーションを図る営業手法の1つです。見込み客からアプローチされることもありますし、意欲的な顧客と出会うチャンスがあります。自社の印刷物や販促品を直接見て触ってもらうことで製品をアピールできますし、経営者との名刺交換やその場で商談を取り付けられる可能性もあります。
これより以下は、インターネット関連のデジタルを駆使した営業手法です。
「広告運用」は、広告を出稿することも営業の一環になります。業界紙や情報誌に広告を掲載するアナログ方式と、リスティング広告やSNS広告、DSP広告といったインターネット関連に広告を配信する方法があります。BtoBが多い印刷会社では顧客先に合わせた媒体やネット広告を選定し、効果的な訴求を目指すことになりますが、ネット広告の中には広告のパフォーマンスをリアルタイムで分析し、効果的な戦略を立てられるものもあり、広告のターゲティングを最適化することができます。
「Webサイト運営」は、自社のホームページなどを通じて潜在顧客に訴え、見込み客からアプローチしてもらう手法です。重要なのは、いかにアクセスしてもらうか、興味・関心を示してくれるコンテンツを作り発信していくことです。Webサイトは24時間365日、情報提供し続けますし、データ分析を通じて顧客の行動を理解しマーケティング戦略を最適化することも可能です。
「SNS運用」は、SNSのプラットフォームを活用してブランドやサービスの認知度を向上させ、見込み客とのコミュニケーションを図ることで、顧客につなげていく営業手法の1つです。SNS運用のポイントは、他社との差別化とターゲットに合わせた目を引く投稿です。データ分析と改善によりPDCAサイクルを回して、コンテンツの最適化を図ることが求められます。
代表的なアナログ営業の取り組み方について
では、印刷会社の場合はどのような営業手法で新規開拓を進めていけばよいのでしょうか。もちろん、前述のさまざまな手法を組み合わせて自社に合った方法で進めていくことになりますが、まずは先のアンケートでもトップとなり、また印刷業界でも最も多いと思われる「テレアポ」について解説していきます。
「テレアポ」はあくまでもアプローチであって、次の営業につなげていくために顧客の興味を引き付ける役割を果たします。要は商談するためのアポイントを取り付けることがポイントになります。電話では相手の表情や様子が分かりませんから、口調で判断するしかありません。ほとんどがけんもほろろに断られるでしょうが、それでも話を聞いてもらえる状態になった場合は、一方的に営業トークを展開することは避けましょう。かえって逆効果となって次回の営業につながる可能性がなくなってしまいます。
いきなり印刷の需要を尋ねて自社を売り込むのではなく、相手に寄り添った提案を心掛けることが重要です。「御社の印刷物や制作物で何かお困りごとやご相談されたいことはありませんか」といった話し方で、相手の様子を窺うことがポイントです。
可能であれば電話をかける前に顧客について調べ、次のようなステップを踏んで架電することが大切です。「ターゲットとなる見込み客の市場調査」「テレアポのリスト作成」「電話で話す商談の流れを決める台本(トークスクリプト)の作成」の3つを事前に準備しておくのがよいでしょう。また、見込みがないと思って一方的にこちらから電話を切ってしまうのは、相手に不快感や不信感を抱かせますから、こちらから見切って電話を切ることは絶対にしてはいけません。
次に「飛び込み営業」ですが、これも事前準備が不可欠です。身だしなみやマナーは言わずもがなですから、ここでは省きます。飛び込み営業では挨拶をして名刺交換ができれば成功したと判断し、まずは顧客の担当者と名刺交換ができることを目標に活動するのがよいでしょう。コツとしては、訪問先企業の事業内容を事前に調べて、担当者と会話できた場合に話を続けられるようにしておくことです。また、印刷に関することで悩みや関心事を引き出せたら成功したと言えるでしょう。次回の訪問につなげられるチャンスになります。要は、飛び込み営業もトークスクリプトを用意して臨むことが重要だということです。そして、次回のアポを取り付けることを目指しましょう。
また触れておきたいものに、「リファラル営業」があります。これも印刷業界では比較的活用されているのではないでしょうか。信頼関係が構築しやすく、見込み客を獲得するコストを削減できたり、アプローチできなかった見込み客と関係が築けたりと、いくつかメリットがある営業手法です。
しかし、必ずしも顧客になってくれるとは限りませんし、顧客からの紹介は不定期で頻度が少ない点を考慮しなければなりません。リファラル営業では受注や成約を決めつけず、あくまでも見込み客を増やす一環として捉えておくことが肝要です。
いずれにしても、リファラル営業を成功させるためには普段から顧客と信頼関係を築き、コミュニケーションを図っておくことが重要です。これはリファラル営業だけに限ったことではなく、すべての営業手法についても言えることですから、普段の営業活動で心掛けましょう。
インターネットを活用した営業手法の運用も
印刷業界では、これまで述べてきたテレアポや飛び込み営業、リファラル営業といったアナログ営業が多いと考えられますが、今日ではインターネットを活用した営業が増えているのが実情です。インターネットは何と言っても人手やコストを大幅に削減できる点がメリットですから利用価値があります。インターネットを活用した営業も取り組んでいきたいものです。
真っ先に考慮したいのがメールによる営業です。営業メールは見込み客のメールアドレスを入手することが先決ですから、飛び込み営業やセミナー、展示会などで名刺交換をすることができたなら、Excel、スプレッドシート、あるいはCRMツールなどを使って見込み客のデータベースを作ります。
顧客管理は新規開拓だけでなく、さまざまな業務においても基本ですから、必ず顧客管理システムを構築するようにしましょう。見込み客にメールを一括送信したい場合はCRMツールからできますし、またメールサーバーでも連絡先リストから一括送信することが可能です。 また、営業メールは標準化された書き方がありますから、
最初は前ページの例文を参考に作成するとよいでしょう。ポイントは内容の要点を絞り、相手に余計な手間を取らせないことです。営業メールの構成要素は、件名、前文、本文、末文、署名の5つです。最初はアポイントを取るためのメールにはしないで、会社紹介や商品資料の送付、ホームページの閲覧を促すメールに留めておきましょう。
新規開拓ではまずは、見込み客にアピールして認知してもらうことが重要です。そのためにはオウンドメディアの運用は欠かせません。自社の商品やサービス、技術などを情報発信していく仕組みを作っていきましょう。営業メールは人手やコストがほとんど掛かりませんから、ぜひとも実践したいものです。
また、オウンドメディアの代表格と言えばホームページになるわけですが、印刷会社の多くは自社を効果的にアピールし、新規開拓としてホームページを活用しているところがまだまだ少ないのが現状です。
今日では、企業担当者は印刷物の発注においてはインターネットで制作会社や印刷会社を検索し、自社のニーズに適した会社を選んで問い合わせや相談をするケースが一般的です。BtoB営業が中心の印刷会社では、新たなビジネスチャンスを掴むためにもホームページを活用した新規開拓は不可欠です。それには、他の印刷会社と差別化したホームページ作りが重要になってきます。
一方でホームページとは別に、自社で得意としている印刷物の制作や注力している商品・サービスに的を絞ったランディングページ(以後、LP)を制作し配信する方法があります。LPとは、いわばネット版のチラシになるのですが、商品・サービスの広報宣伝に特化しているのがポイントです。ページ体裁は縦長で1~2ページ程度に完結するのが基本で、アクセスしてきた見込み客に購買行動を促すように作るのが重要です。
今ではさまざまな業界の企業でLPが作られています。印刷業であってもLPは有効とされ、既に効果を発揮している印刷会社があります。ただし、制作し公開しただけでは見てもらえないことが多いため、併せて集客活動をセットで考えることが必要で、Web広告と一緒に運用するケースが多いようです。
LPでの集客は多くの場合「Web・SNS 広告」からアクセスされるケースがほとんどで、アクセスしてきた顧客は数秒間で読むべきものかどうかを判断しますから、訴求ポイントを絞ったコピーや、インパクトのあるデザインで制作することがポイントです。また、特定のキーワードやコンテンツを強調し、関連する検索結果で上位に表示されるよう工夫することも重要です。
以上、印刷営業で主流となっている「テレアポ」「飛び込み営業」「営業メール」「ランディングページ」「ホームページ」に絞って説明しましたが、この他にも前述した営業手法がありますから、自社に合った手法を見つけ出して新規開拓営業に積極的に取り組んでみましょう。

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