シニア人材の雇用と活用の留意点可能性

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業界関係者に贈る (53)

スキルやノウハウを持ったシニアを雇用し続ける

 ここでのシニアは、あえて定年退職を迎えた60歳以上の人たちを指すことにします。経済産業省の「2022年版ものづくり白書」によりますと、製造業は若年就業者(34歳以下)が減少傾向にある中で、65歳以上のシニア就業者の割合が、2002年と比較して4.7%から8.7%へ増加しているという発表がありました。これは製造業の高齢化が年々進んでいて、人手不足が顕著になっていることを示しています。そのために人材を維持していくためには、シニアにいかに働き続けてもらうかに懸かっているわけです。
 印刷業界もこの傾向があると言えるでしょう。印刷会社の従業員の平均年齢が40代後半から50代と高齢化が目立っており、シニアの人手に頼るしか経営を維持できない企業が少なくないのが実態です。
 シニアを戦力として活用するためには、どのような雇用制度を整えて、どんな施策を展開していけば良いのか、改めて雇用制度を考え直す段階にきていると言えます。例えば、シニアの中で、早朝から働くのが苦にならないのであれば、午前7時~午後3時の勤務時間にして、通勤ラッシュを避けた勤務体制にすることも考えられます。つまり、シニア向けの雇用体制づくりを設けて、いかにシニアのモチベーションを維持して、少しでも長く働いてもらえるような勤務体系を構築するかが重要です。
 スキルやノウハウも持っていて、働く意欲があるシニアであれば、定年退職後でも積極的に雇用を維持し、戦略的に活用していくことは、今後必須になると言って過言ではないでしょう。
 印刷会社でシニアを採用するケースは、自社で定年退職を迎えた人を再雇用する場合と、中途採用で採用する場合が考えられますが、いずれにしても、定年前または定年時に担当していた業務(またはその一部)を任せる「現業継続型」と、非正規雇用や派遣社員に適した単純作業を任せる「単純作業型」の2つに大きく分けられます。

雇用制度や勤務時間を見直し、長期間働いてもらう環境づくりを

印刷会社の中途採用では、取締役や部長など管理職に就いていたマネジメント力のある人材や、独自の販路を持っている営業のスペシャリスト、専門技術・知識を有して後進に伝える技術伝承者といった人材は非常に少ないのが実態です。また企業側もそれらの人材を求めるケースは稀で、現業継続型と単純作業型で採用していくのが一般的です。
 次にシニアを雇用する上での留意点について触れますと、まず採用でのポイントは、業務レベルとシニアとの間にミスマッチが起こらないよう、業務内容について本人としっかり話し合って決めていくことが最も重要になります。印刷会社では、印刷機などの生産現場が若い人材に敬遠されがちで採用しづらい状況が見られます。そのため、シニアを活用せざるを得ないケースが今後ますます増えてくるでしょう。
 その際に、シニアはベテランのオペレータとして即戦力にもなるため、これまでの経験を上手く活かした仕事内容を考え、どのような組織・体制でサポートしていけば良いのか、組織体制の見直しも図りたいものです。それが結局は働き方改革に繋がっていきますので、シニア人材の雇用を考慮した体制を描く必要が求められます。
 まず、紙の印刷業をコアビジネスにしている印刷会社であれば、シニアに現業継続型の雇用を確保して、慣れ親しんだ仕事を任せることがポイントになります。以前の仕事と同じであれば仕事に不安なく取り組めますし、力を発揮しやすいでしょう。
 あとは勤務時間や待遇面を調節することも大切です。定年退職後の再雇用や中途採用となれば、当然給与は定年前より数割は減額することになりますから、給与に見合った勤務時間を設定したり、あるいは時間給を導入するなど、自社の経営に適した勤務体系を築くことも必要かもしれません。企業側にとっても費用対コストの面を考慮して雇用していくことが大切になります。
 また、前の会社が倒産・廃業によって退職せざるを得なくなったシニアには、同業他社が中途採用の道を設けて、要請があれば再雇用していくことも考えたいものです。
 このようにシニアを人材として採用する際は、現業の仕事の延長線上で考えるのが最も適した採用方法と言えますが、その背景として企業が考えなければならないのが、若い業員をいかに採用し継続雇用していくかという課題があります。企業が安定して経営を維持していくには、世代間のギャップをなるべく無くして、スムーズに継承していくことが理想です。そのためには若い人材を採用し続けて、企業を新陳代謝していくことが重要です。
 極端な話に聞こえるかもしれませんが、従来の紙の印刷を担当するのは50 代以上のシニア世代に任せ、今後伸展が期待されるWebをはじめとするデジタルコンテンツ制作に関しては、それらに関心が高い若い人材を中心にビジネス展開を図ることで、紙とデジタルの2本柱を構築し、ゆくゆくは事業の柱をデジタルにシフトしていくことが、生き残れる印刷会社の姿になるのではないでしょうか。
 シニアの活用は、人手不足を補うだけでなく、ベテランとして組織を活性化させたり、若手の上司に代わって若い人材に技術や教育を行う役割を担うことができます。そのことを経営陣は、今後の企業経営の行く末を占う重要な課題と捉えて、人材マネジメントの中で戦略的にシニアの雇用を行っていくことが、印刷会社にとって必要ではないでしょうか。シニアに能力を十分に発揮してもらえるよう、環境と制度を整えていきましょう。

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