印刷会社の新たなものづくりを考える

「中小企業 新ものづくり・新サービス展」の出展事例と新ブランド戦略の紹介

「中小企業 新ものづくり・新サービス展」の出展事例と新ブランド戦略の紹介

印刷業界では、顧客からデータを受け取ってそのまま印刷する業務だけでなく、新たな市場を開拓していくために、独自の企画・アイデアを考えて製品を開発するものづくりが重要になりつつあります。ものづくりには、顧客の要望に沿って開発・提案し製作していく方法と、自社のオリジナル製品として開発・販売する方法、さらには自社で開発した製品を顧客の名義でOEM生産する方法などがありますが、いずれにしても、新しい発想と多様な視点に立って、新たな価値の創造を目指していくことが大切になってきます。今回は印刷会社がものづくりに取り組む際の考え方や取り組み方について言及しつつ、昨年暮れに開催された「中小企業 新ものづくり・新サービス展」での同業他社の出展品、さらには、紙を基にしたブランディング手法を展開しているデザイン会社を紹介します。

新しい視点からアイデアを考える

 印刷会社が目指すべきものづくりは、単に印刷物を作成するだけでなく、顧客の想いを形にして社会に貢献する観点から取り組むことが求められますが、自社の特徴や強みを見出して創造していくことが重要になってきます。そこには独自のアイデアをいかに創出していくかが問われてくるわけですが、「印刷業界以外の異業種の人たちの交流、あるいは書籍、セミナーを通じて新しい情報を得る」「気になるモノや事象があれば積極的に調べる探求心を持つ」「失敗を恐れずチャレンジする精神を持つ」「チームを形成し多角的な視点から取り組む」といった姿勢が重要になってくるでしょう。
 それらを踏まえて、印刷会社が目指すべきものづくりについて、紙製品を開発する上での視点を4点挙げてみました。

1.紙の質感と機能性の融合

 紙の持つ温かみ、自然な風合いといった感触を活かしながら、防水性、耐久性、機能性を付加することで、従来の紙製品にない新しい価値を生み出していく。

2.紙の素材の再解釈

 紙を単なる印刷媒体としてだけでなく、立体構造や形状を工夫することで、容器、家具など、多様な製品への応用を考える。

3.サステナビリティの視点

 再生紙の利用、森林保護への貢献、リサイクル性の高い製品設計など、環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に貢献できる製品開発を目指す。

4.デジタルとの融合

 ARやVR技術との組み合わせ、AIやIoTなどの最新技術の活用でユーザー体験を豊かにさせたり、インタラクティブな要素や機能を拡張したりして、紙製品に新たな価値を創造する。 上記の他に、機能を強化するために新しい素材と組み合わせるといった、従来の紙製品の機能を拡張する発想も良いでしょう。例えば、環境負荷が少ないとされている生分解性バイオプラスチックによる製品づくりなどが挙げられます。
 これからは高機能を求めて、紙と別の素材を組み合わせたものづくりが、1つのトレンドになっていくことが予想されます。

紙以外の素材や新市場への参入も考慮

 さらに、前述の紙の素材の再解釈に含まれますが、従来では紙以外の素材(プラスチックや木材)で作られていた小物製品の開発に視点を置いてみるのも良いでしょうし、折り紙の技術を取り入れた製品も面白いかもしれません。その試みが注目されれば自社のブランドづくりにも活かすことができますから、オリジナルの自社製品を目指すのは他社との差別化にもなります。
 その他の考え方として、多様なユーザーのニーズを理解し、それぞれのライフスタイルや収納のしやすさ、廃棄のしやすさ、使う上での利便性を考慮した製品開発づくりが大切です。
 サステナビリティを重視した開発では、食品廃棄物を原料とした環境にやさしい紙製品の開発も考えたいものです。SDGsの視点を重視した製品づくりを目指しましょう。要は、さまざまな角度からデザインを考えてみることです。
 また、市場にはアニメや漫画のキャラクターを活かした製品が多く出回っていますが、キャラクターは御存じの通り著作権で保護されており、商業目的で販売する場合は正当な許可やライセンスを取得する必要があります。それらをクリアして製品開発が許可された場合は、ターゲットとなるファン層や市場の需要を調査して、キャラクターを愛するファンの気持ちを考えて品質とデザインに拘った製品づくりが重要になります。
 クリエイターとの協業も有力です。チームを組んでクリエイターのアイデアに刺激をもらいながら、共同で商品開発をしていくことも経営戦略に取り入れたいものです。
 外国人観光客が喜びそうなお土産用のシール・ステッカーも、現存のものとは違った発想で新たなデザイン・図版を考え製品化してみるのも、インバウンド市場が拡大している中で有効と言えるでしょう。もちろん、紙製品だけでなく、日本的で外国人が興味を示し購入してもらえそうな画風、色使いのイラスト、グリーティングカード、トランプ、ボードゲームなどの紙製品、あるいは紙以外の素材のキーホルダーや置物などのアイテムにも挑戦してみるのも良いでしょう。インバウンド商品は今後ますます需要が伸びていく分野です。新たな市場開拓分野として考えたいものです。
 実際、外国人観光客がお土産に買っていくものでは、浮世絵や美人画など日本にしかない日本画のポストカードが人気を博しています。中でも葛飾北斎や喜多川歌麿の絵がかなりの人気だそうですから、単なるカード類ではなく、例えば、ノートや画集、扇子などの絵に取り入れて製作し、少しでも他社と差別化を図った製品で観光地やeコマースで販売するのはどうでしょうか。需要が見込める可能性があると思います。

 次に、これからのヒントや参考までに、昨年12月4日〜6日に東京ビッグサイトで開催した、ものづくり補助事業展示商談会「中小企業 新ものづくり・新サービス展」で、印刷関連会社の出展品をいくつか紹介します。

㈱愛起

 「デジタル印刷機活用による加工部門生産性向上と新販路開拓事業」の補助事業計画名で、デジタル印刷機を導入し製作しているのが㈱愛起(愛知県)である。顧客から要望があった低コスト・短納期で実現できる小ロット紙袋製作「あとプリ」のサービスを出展した。13種類の紙袋×21色印刷の豊富なラインナップから選べるようにしている。

㈲石井特殊製本所

 「ノート製本の完全自動化とIT活用の営業体制構築で多品種・小ロットの販促品市場へ事業拡大」の補助事業計画名でリング製本を出展したのが㈲石井特殊製本所(東京都)である。各種ノートやリングを使ったアイデアグッズ制作などを出品し、「リング製本専門」の加工所に特化したビジネスを打ち出した。

㈱グッドワーク

 「カッティングプロッター導入による小ロット個別カスタマイズラインの構築」の補助事業計画名で、段ボール製のサッカーボール「くみくみボール」や独自の段ボール製品を出展したのが、㈱グッドワーク(香川県)である。くみくみボールは特許製品で自社だけが製造販売している。小ロットのオリジナル製品の提供で需要開拓している。

㈲笹尾印刷所

 「漆喰和紙への高精細印刷技術による高機能・高意匠壁紙の先行開発」の補助事業計画名で、高機能の漆喰和紙に印刷した製品を出展したのが㈲笹尾印刷所(福井県)である。和紙+漆喰の自然素材から作られた環境にやさしい要素と漆喰の多機能(抗菌・抗ウイルス・抗アレルゲン・消臭効果・VOC吸着)は、付加価値の高い製品となっている。

㈱ジーピーセンター

 「産業用高速インクジェット印刷機導入による生産プロセスの改善、サイン・ディスプレイ業界への進出」の補助事業計画名で、多品種・小ロットの特殊印刷製品のものづくりを訴求したのが㈱ジーピーセンター(愛知県)である。厚さ8mmのアクリル素材を使用した等身大のキャラクター製品をはじめとしたアクリルスタンドなど、オリジナルの各種ノベルティ製作を訴求した。

谷口シール印刷㈱

 「自動車の安全性向上に向けたコーションラベル等の生産性向上体制の構築」の補助事業計画名で、高品質のコーションラベル(注意・警告シール)等の製造を展開しているのが谷口シール印刷㈱(大阪府)である。シール・ラベル専門の印刷会社として、2ヘッド可変印字ユニット付4色大型間欠輪転機や画像検査装置を導入し、可変印字、2層ラベル、全抜き等の特殊ラベルの製造を事業展開している。

㈲西村謄写堂

 「和紙・トレーシングペーパーの印刷加工に特化した円滑な生産体制の構築」の補助事業計画名で、和紙・薄紙・箔押しを使った商品・ペーパーアイテムを製造しているのが㈲西村謄写堂(高知県)である。紙とプラスチックを合成し紙表示のできる袋に小ロットからの印刷を実現。また、今まで難しかった薄紙印刷を可能にした。

ハニーシート㈱

 「ポストコロナに対応する包装事業の革新的な生産プロセス改善」の補助事業計画名で、片面段ボール(ダンシート)に特化し、製造販売しているのがハニーシート㈱(埼玉県)である。リサイクル率が高く社会貢献に役立つ環境にやさしいダンシートで、顧客の製品に合った材質・サイズの商品を提供している。

ビジュアル・サービス㈱

 「ホログラムレンズによるプレゼンテーションと型抜き加工機へのデジタル送信による生産性向上計画」の補助事業計画名で、各種立体物の製作を展開しているのがビジュアル・サービス㈱(香川県)である。オリジナルの自社製品、高いクオリティの商品を企画し、デザイン案を提案しながら製作展開している。

紙を使ったブランディングとものづくり

―「ブランドペーパー」で新たなブランディングを展開―

㈱ペーパーパレード

 紙と印刷の新しい価値を創造している㈱ペーパーパレード(東京都渋谷区、代表 : 和田由里子)では、企業の強いブランドをつくりたいという想いから、紙や印刷の可能性を追求した「ブランドペーパー」を展開しています。
 ブランドペーパーとは、企業のブランドの理念を表現する紙を選定し「ブランドペーパー」として定め、その紙が持つ色や風合いを軸に企業のブランドカラーの設定やツールを製作する、同社独自のブランディング手法です。
 同社でブランディングを手掛けているクリエイティブディレクターの守田篤史氏は、日本には約9,000種類の紙があることから、それらは色、柄、風合い、厚み、機能、製作工程が少しずつ異なるため、見たり触ったりした際にそれぞれ受け取る印象や感覚が違ってくる点を活かして、ブランドペーパーを作っています。紙には人と人を繋いでくれるコミュニケーションを生み出してくれて、デジタルには表現しきれないものがあるとのことです。
 製作工程では、最初にクライアントからブランドの理念、目的、こだわり、顧客ターゲット、予算などをヒアリングし、VI(ビジュアルアイデンティティ)の設計、コンセプト設計を行い、ブランドペーパーの候補となる紙を選定していきます。クライアントと共に実際の紙を見たり触ったりしてブランドペーパーを決めていくのがポイントになります。
 次に選定したブランドペーパーを基にブランドカラーを決めて商品づくりに移行します。例えば、商品パッケージであれば、そのデザイン設計に沿った最適な印刷手法や加工方法を決めるわけですが、アイデアや工夫する部分を考えて具現化していくとのことです。クライアントにはデザインや体裁などを常に可視化するので安心感を持たれるそうです。
 ただし、製作工程がすべてアナログというわけではありません。ブランドペーパーからブランドカラーを決める時に、紙の色をデジタルに移行し、紙とデジタルを同時並行で世界観をつくるようにしているとのこと。この時に紙の色の数値をそのままデジタルに反映させるのではなく、目で見えている色はデジタルでつくることはできないという考えで、紙の持つ印象や雰囲気を意識してデジタルに移行していくとのことです。要は目で見て相応しいRGB値、CMYK 値のブランドカラーを設定し、設定したブランドカラーを軸にデザインを設計し世界観を作りこんでいくというわけです。
 このように同社は、人の感覚を大切にしつつ、アナログとデジタルの両方を駆使し、紙を軸にした独自のブランディング手法を展開しています。この「ブランドペーパー」という手法は、紙の手触りや温かみといったリアルな感覚を伝える新たなブランディング手法と言えるでしょう。

同社が手掛けたブランディングブックや商品パッケージの箱
デジタルとの融合 サステナビリティ アイデア Monthly Report