3Dプリンターの市場動向とビジネスの可能性

3次元の立体造形物の製作で新ビジネスの創出にチャレンジを

3次元の立体造形物の製作で新ビジネスの創出にチャレンジを

3次元での立体造形物を作成する3Dプリンター。2013年頃からマスコミでも取り上げられるようになり、国内で3Dプリンティングのブームが到来しました。しかし、ブームは一時的で、数年後には下火となったのですが、その後も3Dプリンターは技術革新によって、市場は微増ながらも着実に拡大しています。
そこで印刷会社が2次元の紙媒体だけでなく3Dプリンターを使って立体造形物を製作する事業に取り組むことは、業態変革を含む新たな市場への進出を目指すことになるはずです。顧客の販促品製作や自社のオリジナル製品製作という視点からビジネスを展開することができるでしょう。今回は、3Dプリンター市場の動向とビジネスの可能性について言及してみました。

伸展する3Dプリンティング市場

 3Dプリンターとは、素材(フィラメントとも言う)を積層して3次元形状の立体物を数値表現から作成する機器のことを指します。ABS樹脂、PLA樹脂、PP樹脂の他、石膏、金属、食品などの素材を使って、フィギュアから日用品、アウトドア用品、ファッション用品など一般消費者用のグッズから、医療機器、建築材料、自動車部品、各種治具、さらには企業の販促品まで、バラエティに富んだ製品を作ることができます。
 印刷会社が製作している企業の販促品なども3Dプリンターを使えば製造できるため、既に一部の印刷会社で3Dプリンターを導入してものづくりを展開している会社も存在しています。
 ただし、3Dプリンターは造形方式によって使用できる素材のタイプが異なってくるため、ビジネスで導入するのであれば目的や市場を考慮し、自社がどの分野・業界をターゲットにしていくのかを決めて、最適な3Dプリンターを導入し事業展開していく必要があります。
 3Dプリンターによる立体造形物の市場は伸展していますが、日本における3Dプリンティング市場の推移についてのデータがないため、伸展ぶりを裏付けることはできませんが、世界の市場推移から推察することはできるでしょう。世界ではここ数年で大きく市場が拡大しています。市場調査会社MarketsandMarkets(マーケッツアンドマーケッツ)社の市場調査レポートによると、2023年から2028年までのCAGR(年平均成長率)は18.1%と予想しており、28年までに345億米ドル(約5兆1,000億円)規模に達するとのことです。
 欧米市場では2024年から本格的に成長が見込めるとし、ヘルスケア、自動車、航空宇宙などの業界で3Dプリンターの導入が進み3Dデータ製作が採用されるようになり、これらの業界で3Dプリンティングが成長していくものと見られています。
 日本市場でも上記の業界などで伸展が望めるかもしれませんが、それらの業界へ進出するには既にそれらの業界の企業と繋がりを持っていることが前提になるでしょう。新参者がいきなり参入しても、古くから3Dプリンティングを本業にして市場を形成してきた企業と張り合うのは困難と言わざるを得ません。そこで印刷会社がこれから3Dプリンティングをスタートするのであれば、企業の販促品の製作や自社のオリジナル製品の製作・販売に的を絞っていくほうが得策で、そこに焦点を当てて事業化していくことを考えたいものです。
 昨今の3Dプリンティング市場では、3Dプリンターの機能を強化する新素材が開発されています。例えば、熱を加えることで柔らかくなり冷やすと固くなる高機能な熱可塑性プラスチック、フードプリンター用の食用素材、金属やセラミックなどの素材が研究開発によって生まれています。これらの素材を使って製品化する方法も考えられるでしょう。

小物類の小ロット生産に最適

 また、3Dプリンターの精度が向上し、造形の高速化も進んでいます。これまでの3Dプリンターは、製品のプロトタイプや治具を製作することに重きを置いていましたが、近年はフィギュア製作をはじめさまざまな分野で出力したものがそのまま完成品として製品となるケースが増えています。ですから、オリジナル製品を作って販売することが可能となり、3Dデータさえ作成できればいつでも事業化することができるでしょう。
 3Dプリンターの造形方式には、熱で溶かした熱可塑性樹脂をノズルから出力して一層ずつ積層して立体物を造形する熱溶解積層方式(FDM方式)をはじめ、光硬化タイプの液体樹脂を紫外線やレーザーライトに当てて硬化させ立体物を造形する光造形方式、素材を噴出したものを紫外線で樹脂を固めて造形するインクジェット方式、粉末を固着させる粉末燃結方式などがあります。
 印刷会社が関連してくるものと言えば、顧客の販促品が真っ先に考えられますが、顧客のニーズに応えるだけでなく、アイデアを自ら企画し自社製品を作り販売することが容易になりましたから、各種グッズ、小物類の小ロット製品の製作に3Dプリンターは最適です。
 ただし、課題は3Dデータの作成です。3Dプリンターで造形物を製作する際には、何より3Dデータを作成しなければなりません。ビジネスとして取り組むのであれば、3Dデータをいかに作成するかが最も重要になってきます。そこで自社でデータ制作から3Dプリンティングまで一貫生産で行うのか、業務提携先あるいは外注先の専門業者に3Dデータ制作のみを依頼し、3Dプリンターは自社で出力し製品化するのか、あるいは3Dデータ作成から3Dプリンティングまですべて外注に出して、顧客開拓の営業と顧客管理のビジネスに集中するのか、取り組む際はどこまで社内で行うのかを検討し決定しなければなりません。
 印刷業界にとっては新しい技術であり、ソフトウェアの操作をマスターしなければならないという課題があります。これは一朝一夕で身につけられる技術ではないため、そこにいかにチャレンジしていくかが問われます。

問題は3Dデータ作成をどうするべきか

 3Dプリンターで立体造形物を自社で製作するとなると、ステップを踏んで学習していく必要があります。まず、3Dプリンターの基本的な知識、仕組みや造形方法、また、3Dモデルを作成するための3DCG技術や、3DCADの使い方の習得など、実践的なスキル習得が求められます。さらに、3Dスキャンいう方法もありますが、万能ではない上にセッティングやスキャン設定、モデリング技術など手順ごとにノウハウが求められるため、3DCADなどとは違った難しさがあります。
 社員教育を社内で実施するのはかなり難しいため、3Dプリンティングを習得できる講座や教育機関に社員を通わせる必要が出てくるでしょう。そのための費用も求められますし、任された社員の負担も増大です。本格的に事業化していくのであれば、計画を立てて担当する社員を募って任せるか、即戦力として3Dデータを作成できる人材を新たに採用するのか、自社のリソースを考慮して決める必要があるでしょう。
 3Dプリンターの種類は、一般消費者用の卓上型から高精細で生産力のある業務用まで多種多様で、造形方式や積層ピッチもさまざまですから、導入する際に何を選べば良いのか判断が難しいでしょう。選ぶポイントは、造形方式と価格面から考慮するのがポイントです。印刷会社が導入を考えるのであれば、最初はあまり高額ではないものの業務用として使用できる機種が望ましいかもしれません。因みに3Dプリンターはものづくり補助金を活用できますから、補助金の申請も踏まえて導入するのが良いでしょう。
 また、印刷会社としては2次元の制作でインクジェットプリンターを使用する機会が多いですから、インクジェット方式か熱溶解積層方式が適しているかもしれません。もちろん、光造形方式や粉末燃結方式であってもニーズや目的に合った造形物を作ることができますから問題はありません。

3Dプリンターの紹介

 では、造形方式や価格帯の違う3Dプリンターを5点紹介します。ただし、ここで紹介した製品はあくまでもランダムに選んだもので推奨するものではありません。市場では数多の3Dプリンターが販売されていますから、自社の目的に合ったものを選ぶことが大切です。

BMF microArch®シリーズ S230

 まず世界トップクラスの高精細3Dプリンターとして、マイクロ射出成形の解像度と公差(目標の数値からズレがあっても許容する数値の範囲のこと)に匹敵する機能を備えた、業務用アプリケーション向けの精密微細構造を持つBMF社の「microArch®シリーズ S230」があります。同機種は同社の超高精度AM技術により、樹脂部品の加工公差は±10um/±25umまで縮小しており、光学解像度が2um/10umという世界最高の精密水準の製品を作ることができます。最大造形サイズは50mm×50mm×50mm。価格帯は1,000万円~5,000万円と高額です。

ストラタシス Stratasys F170

 次は、シンプルな操作性で初心者でも安心して使えて、正確なプロトタイプが作れるストラタシス社の「StratasysF170」です。同製品は、パワフルなFDM技術とデザインからプリントをサポートするGrabCADソフトウェアを融合し、多機能で正確な造形が可能になっています。積層ピッチは0.127mm~0.330mmまでの4 段階で、造形精度は±0.200mmまたは±0.002mm/mm。価格帯は300万円~500万円。

キーエンス AGILISTA(アジリスタ)3200

 国産で高精度な造形を実現している機種として、株式会社キーエンスの「AGILISTA(アジリスタ)3200」があります。同製品は高精度と高靭性を両立させており、造形物を嵌合かんごう(機械部品がはまり合うこと)させてネジ締めして組み立てることが可能です。インクジェット方式の採用により積層ピッチ15umの高精細造形を実現しています。造形サイズ297mm×210mm×200mm。外形寸法はW944mm×D700mm×H1360mm。価格は問い合わせ。

Formlabs Form4

 低価格のデスクトップ型ではFormlabs社の「Form4」があります。同製品はレジンタンクに内蔵したUV硬化型樹脂を出力し、一層ずつ硬化させて造形する光造形方式です。フレキシブルレジンタンクや独立したLPUを中核としたメカニズムにより、造形物にかかる負荷を抑えて高精細な造形物を安定して作ることができます。最高速度100mm/時を誇る造形速度、30%拡大した最大造形サイズ、高機能材料の追加、造形サイズは200mm×125mm×210mm。積層ピッチは25~300um。本体サイズは398mm×357mm×554mm。価格は67万6,000円~。

IGUAZU ダヴィンチColor mini

 さらにフルカラー出力が可能な3Dプリンターとしては、手軽に使えるコンパクトサイズの「ダヴィンチColor mini」があります。PLAフィラメントはフルカラー用の特殊素材を使用し、特殊インクジェットと合わせて同社独自のプリンター構造、塗装技術で造形します。積層ピッチは0.1~0.4mm。出力サイズは130mm×130mm×130mmで造形サイズは限られるため、小型グッズの製造向けと言えるでしょう。本体サイズは507mm×447mm×541mm。重量は24kg。価格は24万8,000円。

3Dプリンターで作るオリジナルスタンド

 3Dプリンターで作られたオリジナルスタンドの事例を2件紹介します。

スマートフォンスタンド

 最初に紹介するのは、パリの街並みをモチーフにしたスマートフォンスタンド(商品名=スマホスタンド)です。これを応用すれば東京の街並みや日本の風景をモチーフにしたオリジナルスタンドを作ることができますし、サイズアップしたタブレット用スタンドのデザインを企画してみるのも良いでしょう。また、書籍や雑誌用のスタンドに発展させるのも可能です。アイデア次第でいくらでも製品は考えられます。

ツールスタンド

 次に紹介するのは、同じスタンドでもペンチやニッパーを収納できる工具用のツールスタンドです。組立式になっており、刃先が見えていて探しやすいのと、出し入れしやすい設計になっていて使い勝手が良い製品です。他にも包丁やナイフ用のキッチンスタンドも作ることができますから、形状を工夫してオリジナリティを出し、消費者に気に入ってもらえるデザインを考案することで、自社商品として販売してみてはいかがでしょう。

 この他にも3Dプリンターを使ってさまざまな商品を製造することができます。例えば「フィギュア」「ミニチュア模型」「アクセサリー類」「収納ケース」「文房具」「キッチン用品」「アート作品」「インテリア」「機械部品や金型などのパーツ類」「ノベルティグッズ」など。アイデア次第で多様な造形が可能です。重要なことは、アイデアを具体的に設計し正確な3Dデータを作成できるかどうかです。今後成長が期待される3Dプリンター市場ですから、事業として一考の価値があると言えるでしょう。

3Dデータ 3Dプリンター Monthly Report