AI技術が印刷ビジネスの未来を変えていく

今回は、2025年9月4日に開催された富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社のオンラインセミナーで、株式会社イリスホールディングスの代表取締役社長 原田光治氏が「AIの技術で大きく変わる印刷の未来」をテーマに講演した内容を紹介する。原田氏は、AIを活用することで印刷業は収益を伸ばしていけるとし、そのためにはデータ活用やパーソナライゼーションによって付加価値を高めていく必要があると説く。同社は先ごろ「データアナリストアカデミー(DAA)」を開講し、業界で生成AIを活用できる人材育成と教育に注力しているのが特色だ。ここでは、同社のワークフローに触れつつ、AIを活用したDTP 制作に焦点を当てた話について紹介する。

レクチャーズ・ルーム 74

株式会社イリスホールディングス
代表取締役社長
原田 光治 氏(講師)

 原田氏は、自社の書籍印刷の制作工程について次のように話す。「書籍制作においては、音声の録音データをAI文字起こしツール『Notta』で文字を書き起こして、その話し言葉をAI文章校正ツール『wordrabbit』で校正します。また、表示されたテキストは標準語に直し、表記も統一します。グラフや作表などの図に関しては、著作権に抵触しないよう一旦すべて『Adobe Firefly』で加工し、テキストとともに組版していきます。『InDesign』での作業は人手で流し込むことになりますが、それ以外の作業は、AIによる自動化で制作しており、文字入力の作業をしていません」と、AIを最大限に活用した制作を展開している。
 原田氏は、これからのAIの動向についてはAIエージェントが普及していくとし、「AIエージェントが自社のあらゆる業務を自動化していくようになるでしょう。印刷業界のワークフローも、今後はいろいろな分野でAIエージェントが導入されるようになるでしょうから、上手く活用して自動化していくことをお勧めします。そして、AIを使ってコンテンツを作る技術を、他の業界のコンテンツ制作に役立てて収益に繋げていただきたいです」と語る。
 さらに、AI の時代はデザイン思考だと強調する。「人がデザインを10個作るとなると、10個制作する労力が必要ですが、AIだと1つのデザインから100個のデザインを短時間で作ることができます。これまで印刷業は1つの版で大量に印刷していましたが、今後は多くのデザインを作ってネット上やアンケートの回答から良いものを選択し、デザイン制作していく考え方になると思います」と、AIがデザイン制作に不可欠になってくるという。
 「複数のものを比較・調査するスプリットラン調査ができる印刷会社になることが重要だと考えています。弊社ではバナー広告を作成する際は、ペルソナAIを使ってターゲットとなるペルソナを設定し、そのペルソナに合ったデザインのバナー広告を瞬時にたくさん作っています。その時にCanvaの生成AIを使えば、組版されたデータも自動的に作れますから、複数の広告を作ってネット上にオンライン広告を配信します。その中から一番反響が良かったオンライン広告を取り上げて、集中的にデザインを寄せたものを作っています」と、オンライン広告の作り方を示す。
 これは、ホームページやバナー広告のデジタルコンテンツだけでなく、紙のカタログであってもデザイナーの好みで選ぶのではなく、スプリットラン調査によってデザインを作る方法を採っているため、非常に説得力のある印刷物が作れるようになっているとのことだ。
 また、同社では自社の経営戦略を策定する際にも、生成AIを活用しているとのことだ。方法は、自社のデータを生成AIに入力する時に、より深い分析結果が得られるように、実際に市場調査などで得たデータと具体的な戦略ワードを入力して、〇〇戦略について策定するよう指示しているというのだ。そうすることで、生成AIがそのデータを読み込んで分析し、〇〇戦略について的確に回答してくれるというのである。
 原田氏は、今後、会社にとって必要な人材とは、データを入手したり分析したりできるデータアナリストだと指摘する。そこで同社では、印刷業に特化した“AIの学校”を立ち上げた。「簡単なプロンプトの作成方法から動画制作、AR制作など、印刷業界の方々が紙とDXをAIで上手く使いこなせるカリキュラムを設けて、1年間学んでもらう『データアナリストアカデミー(DDA)』を開校します」とのことだ。パーソナライズ印刷やデータ起点による提案が増えていくとみており、その基盤づくりを支援していくという。

wordrabbit Notta AI