印刷物に付加価値を与える!
改めて注目したい技術・ツールの紹介と活用
改めて注目したい技術・ツールの紹介と活用
印刷会社は、印刷物や販促品を制作し、顧客の商品やサービスをエンドユーザーに伝える役割を担っています。特に商印に関しては、効果を発揮し成果が上がる付加価値の高い印刷物を提供していくことが問われます。紙はいずれ捨てられてしまうものですが、それでも可能な限り捨てられない紙を目指すことは重要です。これまで印刷業界が培ってきた表面加工や特殊印刷を改めて見つめ直して、付加価値の高い印刷技術を顧客に提案することで、顧客の売上増に貢献していけるよう、今回は付加価値の高い印刷技術に焦点を当てて紹介します。
印刷用紙が高騰し、もはや大雑把な刷り部数で見積ったり、使わないまま在庫を抱えていたりするのは、ただ経費がかさみ収益を悪化させるだけです。印刷は触って、見て、読んでもらうことが目的ですから、付加価値の高い「捨てられない紙」をいかに提供していくかが重要になってきます。顧客に言われるまま、送られてきたデータの中身を吟味しないでそのまま印刷するだけでは、無才と言われても仕方ありません。付加価値の高い印刷物を提案することで、結果的に成果を出して顧客に喜んでもらえるようにしたいものです。
もちろん、付加価値を高める印刷加工は通常の4C印刷と比べてコスト高になるでしょうが、必要な部数のみ印刷して必要なエンドユーザーに配布し、在庫を抱えない印刷管理ができるのであれば、コスト高を補えて決して無駄な取り組みにはならないはずです。今回紹介する付加価値の高い印刷加工技術は、決して真新しい技法ではありませんが、改めて注目して利用価値を探っていけば、顧客に提案できる技法ばかりです。一考する価値はあるでしょう。
見る者を釘付けにする!?アイコンスクリーン・フォントスクリーン
アイコンスクリーンは、印刷物の網点をアイコンに置き換えて階調画像を表現するハーフトーンスクリーン技術によるデータ処理方法です。ドットで表現するCMYKの網点は、顧客の希望するアイコンやロゴマークに変更することができます。
サンプル画像1(㈱セントラルプロフィックス制作)は、CMYのそれぞれの網点をブランドのロゴマークに置き換えて、さらに複数のスクリーン線数を組み合わせながらデザインしています。拡大して見ると、ブランドロゴマークのアイコンで画像が作られていることが分かります。
また、印刷物の網点をフォントに置き換えて、階調画像を表現するフォントスクリーンもあります。これはフォントのサイズやウエイトを緻密にコントロールしながら画像の濃淡を表現するものです。サンプル画像2(㈱セントラルプロフィックス制作)は、猫の画像の網点がフォントで形成され、全体が小説の『吾輩は猫である』の文章になっています。拡大図は耳の先端の部分になりますが、文章になっているのがわかります。
これらハーフトーンスクリーンは、アイコンやフォントのサイズを自由に変えることができるのが特徴です。ただし、印刷物のサイズやデザインによって最適なサイズが異なるため、印刷物の希望サイズやどのくらいの距離から印刷物を見せたいのか、顧客の要望を聞いてから制作に取り掛かることになります。
株式会社セントラルプロフィックス(GC東京)では新しい広告表現を求めている顧客に対し、これらの特殊スクリーンを提案しており、採用事例も増え始めているとのことです。新鮮な広告表現として話題性があり、SNSでの拡散効果も期待できるため、付加価値の高い印刷技術と言えるでしょう。
さまざまな色を輝かせるコールドフォイル印刷
コールドフォイル印刷は、箔押し印刷のことですが、熱や圧力を使わずに、特殊な糊を使って箔を紙に定着させる印刷方法です。
箔の上に直接印刷できるため、金や銀だけでなく、さまざまなグラデーションを表現したり、細かい線や文字も鮮やかに再現したりと、高品質で美しい仕上がりになるのがメリットです。熱で紙を変形させることなく広い面積に均一に箔を転写できるのも特長の1つと言えるでしょう。
一方、コールドフォイル印刷のデメリットや難しい点としては、通常の印刷よりも耐水性で劣る点や箔材の価格、最適な糊の選定、高い技術力、印刷機の調整など、コスト面や技術面で克服しなければならないものがあります。そのため、コールドフォイル印刷を内製化している印刷会社は少ないのが現状です。
それでも、顧客のブランディングや製品の売上を伸ばす上で効果を発揮する印刷技法になりますから、商品に特別感を与えたり、高級志向のニーズに応えたりする場合に最適の技法と言えるでしょう。高額商品やデザイン性を訴えるパッケージ印刷、プレミアム感を出したいDMに使うなど、適材適所で提案することがポイントになります。
具体的には結婚式や祝賀会などに関する印刷物、宝飾店におけるアクセサリーの商品台紙の箔加工、車や時計など高級品のパンフレット及びDMの加飾印刷などが用途として考えられます。
また、版を必要とせずに、デジタルデータで直接箔加工を行うデジタル箔印刷があります。これは小ロットやデザインを頻繁に変更する印刷物に適しています。デジタルデータを作成し、デジタル印刷機で箔を転写したい部分に特殊なトナーを印刷します。次に熱と圧力をかけて特殊なトナーに箔を転写します。
さらに、ニスを使って疑似エンボス加工を施し、ツルツル感とザラザラ感を交えた触り心地を印刷面に与えることもできます。
オンデマンド印刷機を駆使したデジタル箔印刷がありますが、小ロット対応、短納期、コスト削減、デザイン変更の容易さなどのメリットがあり、昨今のデジタル箔印刷機は精度も高く、高品質に仕上げます。ただし、コールドフォイルのオフセット印刷機ほどではありませんが、デジタル箔印刷機も高価ですから初期投資は高額になるでしょう。
それでも名刺、パッケージ印刷、招待状、ノベルティ、ポスターなどで大いに活用でき、インパクトと訴求力のある印刷で需要を喚起できる可能性があります。
嗅覚を刺激し記憶・感情を呼び起こす香料印刷
通常の印刷物の絵柄の上に、香料を含有するマイクロカプセルをブレンドしたインキで印刷する技法を香料印刷と言います。端的に言えば、香料を含んだコーティング剤を塗布する方法です。
印刷物は視覚効果に訴えるメディアですが、香料印刷を用いることで嗅覚にも訴えることができます。人は香りをかぐと、過去の記憶や感情が呼び起こされることがしばしばあります。印刷物に最適な香りを施すと、消費者の記憶に残るだけでなく、購買意欲も引き起こす効果をもたらします。
香料印刷は、香料オイルをマイクロカプセルに詰めてインキに混ぜて印刷し、印刷された部分を軽く擦ると、マイクロカプセルが壊れて香りを放つ仕組みになっています。
ただし、香りをかぐためにはマイクロカプセルを壊す必要があります。そのため「この箇所を擦ると香りがします」という注意書きの一文を印刷物に入れる必要があります。
また、香木からとれる樹液などの芳香樹脂やオリエンタルスパイスの浸剤を染み込ませたフレグランスペーパーもあります。このペーパーを使って香りに相応しい用途の印刷物を作るのも良いでしょう。天然成分でできた香料のため癒し効果もあります。
香料印刷では、化粧品のパッケージ、高級商品のタグ、ショップカード、ギフトカード、ポストカード、シールなど、用途に合わせた香りを顧客に提案し香料印刷を促すのも一考です。ブランドイメージの向上や、香りを通じた商品への意識と購入意欲の向上に繋がるでしょう。
特に顧客のブランドイメージに基づいて開発した独自の香りであるオリジナルアロマを提案すれば、需要を喚起する可能性があります。「香りの戦略」というマーケティングコンセプトを打ち出して、顧客に相応しい香りを作り出し、香料印刷による印刷物やノベルティを制作し、ブランディングを展開してみてはどうでしょう。顧客の販促に貢献でき売上増に繋がる可能性が出てくるかもしれません。
香料を一から作ることは手間や技術、費用が掛かりますから、自社で香料インキを開発し営業品目に加えることは難しいでしょう。顧客と相談したうえで、実際に香料印刷のノウハウを持って実践している印刷会社に相談するか、外注に出すのが得策です。
視覚のみならず、嗅覚に訴えかけることで活用シーンが広がり、新たな需要が生まれるかもしれません。営業では、顧客の商品に関するDMや付随するタグ・カード類、あるいはパッケージなどに、最適な香りを提案し顧客に気に入ってもらうことがポイントです。チャレンジしてみてはどうでしょうか。
清潔で安全なニーズに応える抗菌印刷
印刷物の表面に抗ウイルス・抗菌ニスを印刷することで抗ウイルス効果、抗菌効果を与える印刷方法は、ウイルス感染対策に積極的であったり、衛生的な印刷物を必要とする企業や消費者には、付加価値を与える印刷になります。
コロナ禍が治まり、以前ほどウイルス感染対策が言われなくなりましたが、衛生環境に対する意識は根強いものがあります。抗菌剤入りの印刷ニスを表面にコーティングすることで、菌の増殖を抑え清潔で安全な印刷物を提供することができます。
株式会社新星コーポレィションが提供している水性分散ニス「Lock3」は、塗布された表面に光が当たることで内部の増感剤が反応して一重項酸素が発生し、付着した菌・ウイルスを不活性化させるものです。Lock3は、UVランプではない室内光や日光、乾燥した紙面においても反応するため、一般的な抗菌物質よりも安全かつ広範囲に使用することが可能です。
有害成分や変異原性成分を含まず、有害化学物質を放出しない上に、リサイクルを阻害する成分も含まないという特長を持っているため、さまざまな印刷物に使用できます。
導電性インクによる導電印刷
導電性インクとは、端的に言えば、電気を流すことができるインクです。電子回路やセンサーなど、電気を利用するさまざまな製品の製造に用いられます。
その仕組みは、導電性を持つ微粒子を液状に分散させたもので、この微粒子が互いに繋がることで電気を流します。導電性を持つ微粒子としては、銀、銅、カーボンなどがよく使われます。
これまでは電子回路や硬い基盤の上に作られていましたが、プラスチックや紙など、さまざまな素材の上に直接回路を印刷することが可能になり、曲げることができるディスプレイや、温度センサー、圧力センサー、無線で情報をやり取りできるRFIDタグなど、用途が広がっています。
最近、リサイクルが可能な導電性シートが開発されました。導電性シートはプラスチック基材に導電・帯電防止インキをコーティングしたものですが、このプラスチックに施された印刷は、基材からの分離が難しくリサイクルを阻害する要因になっていました。しかし、このほど東洋インキ株式会社と株式会社マルアイが共同で、業界で初めて「リサイクルが可能な導電性シート」を開発しました。印刷した導電インキを脱墨できるシートによってプラスチックの資源循環が図られるようになったわけです。
導電性シートの用途としては、スクリーン印刷の特徴である厚膜印刷を活かして極細線での回路パターンを作り、均一な発熱性のシートを作ることができることから、床暖房の発熱シート(PTCシート)を作ることができます。
また、導電印刷が塗布された部分には印刷被膜に導電性を持っているので、体内に蓄積した静電気を放出する製品や電子の端子と繋げて電球を発光させるなど、新機能を持ったノベルティを開発することもできます。
さらにフィルム状の電気ヒーターや小サイズの発熱シートであれば用途はかなりあります。これら新製品を開発する部門を立ち上げてみるのも面白いかもしれません。
この他にも、付加価値が高いと思われる印刷技法に、表面にスクラッチ可能な層を設けて隠された情報や特典を演出する「スクラッチ加工」、熱を加えると形が変わる紙でユニークなアイテムを作れる「形状記憶加工」、見る角度によって絵が変わり、アニメーションのように動いて見えたり立体的に見えたりする「レンチキュラー」などがあります。
印刷物やノベルティを企画・提案する際には、今回紹介した付加価値の高い印刷・加工を検討してみてはどうでしょうか。
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