マーケティングオートメーションツールの導入手法

ビジネス講座 @Random
業界関係者に贈る (55)

MAツール導入前に戦略と目標を明確化する重要性

 マーケティングオートメーション(MA)は、企業の営業やマーケティング活動を自動的、効率的に進めていく仕組みや技術を指します。そのためには、マーケティングオートメーションツール(以後、MAツール)と呼ばれるシステムを導入し、使いこなさなければなりません。
 印刷業界は多種多様な顧客からの受注に対応する必要があるため、営業やマーケティング活動がどうしても属人化しやすい傾向があります。MAツールを導入することで、属人化を脱却し、業務を効率化・最適化し、労働生産性を向上させることが可能になります。
 ただし、MAツールを導入すればそれだけでマーケティング活動が自動化されるわけではありません。MAツールを活用する体制と発信するコンテンツを作らなければなりません。そして、使いこなすための準備と施策が必要になります。これを怠ると、MAを有効に使いこなすことはできません。では、準備とは何かといえば、導入して何をしたいのか、どんなことを実現したいのかという戦略(計画・運用の仕方)と、目標を明確に設定することが起点になります。
 例えば、「見込み客を増やして顧客を獲得する」という戦略を立てたのであれば、ホームページからの資料請求や問い合わせへの対応、顧客の興味度合いに応じた情報提供(メルマガ発行、ステップメール配信、セミナー案内など)を行います。また、MA ツールで、見込み客や顧客のホームページの閲覧場所や閲覧時間、ステップメールの開封率、資料のダウンロード数などが分かりますから、それらを可視化し、見込み客・顧客の状況を営業担当者に引き渡す仕組みを構築します。
 さらに、顧客情報をMAツールで一元管理し、営業担当者や総務部門も一体となって最新の顧客情報を共有できる環境を整備していきます。こういったMAツールを基盤とする営業体制を構築することが戦略となります。
 目標設定については、単に見込み客を増やすという漠然としたものではなく、「ホームページにアクセスしてきた来訪者の商談化率を10%にする」「既存顧客に有益な情報をメールし、アップセル(より高額な上位商品の提案)やクロスセル(メイン商品に関連する商品の提案)で利益を10%増やす」といった具体的な数値目標を立て、その数値を追って実現していくことが重要です。   
 そのため、目標を達成するには、Web サイトのアクセス数、リード獲得数、メールの開封率、ニュースレターの登録率など、具体的なKPIを設定し、定期的に確認していくことが求められます。MAツールはそのような数値を自動的に可視化・分析して、最適な方法で営業担当者の仕事をサポートするものだからです。

トップダウンによる決定と必要性の社内浸透

 そのため、MAツールを導入し実際に稼働させていくとなると、当然、ホームページを開設していなければならないということが分かります。ホームページは必須ではないという考えもありますが、MAツールの機能と効果を最大限に発揮させるためには、ホームページがあったほうがはるかに有効なのは明白です。
 ちなみに、ホームページがなくてもMAツールを活用できるケースとしては、既存の顧客リストや名刺情報をMAツールに取り込み、セグメント分けしてメルマガやステップメールを配信する。また、セミナーの参加者リストをMAツールに登録し、参加のお礼メールや関連情報、次回セミナーの案内などを自動配信することも可能です。一部のMAツールにはSNS との連携機能があり、SNS上で顧客とのコミュニケーションを強化したり、SNS広告と連携したりすることも可能です。
 また、印刷市場が縮小化しつつある中で、MAツールを活用して新たなビジネスモデルを構築する動きも見られます。例えば、印刷物にQRコードやAR 技術を組み込み、紙媒体からホームページへ誘導するなど、アナログとデジタルを連携させたソリューションを開発している印刷会社も出てきています。
 また、顧客のマーケティングの課題をヒアリングして、MAツールを使った見込み客育成や効果測定のノウハウを提供し、印刷物の受注だけでなく、マーケティング支援のコンサルティングサービスを行っているケースも見られます。
 この場合、自社がMAツールを導入して実績を上げていると共に、顧客にも同じMAツールを勧め、その支援や運営を代行している印刷会社も出てきています。こうした企業はMAツールによって印刷業主体の業態から脱却し、デジタルメディアソリューション企業として歩み始めており、もはや印刷会社の枠を超えた事業形態と言えるでしょう。
 いずれにしても、MAツールの導入は社長が決断し、組織全体に必要性を浸透させる必要があります。そのためにはトップダウンで導入を推進していくわけですが、実際に使う現場の理解と協力なしには定着しません。人材の育成とボトムアップの動きも不可欠です。最初に「なぜ、MAツールを導入するのか」という必要性を、社長が社員、特に営業部門に強く訴えることから始めることが、成功への一歩と言えるでしょう。

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