中小印刷会社のキャリアパス制度の在り方
そこが知りたい!gcj MANAGEMENT(152)
社員一人ひとりのスキルマップを作成する
「キャリアパス」とは、「職歴(キャリア)」と「道筋(パス)」を組み合わせた言葉で、企業におけるキャリアアップへの道筋です。近年では「キャリアパス制度」と呼ばれる、自社のキャリアパスを明確化した人事制度を導入する企業も増えています。では、印刷業界ではどれだけの印刷会社がキャリアパス制度を設けているでしょうか。小規模な会社ほど社員同士が馴れ合いの関係になってしまい、制度を設けるのが難しいのが実情ではないでしょうか。
技術の進化が著しい現代の印刷業界では、従来の専門職としてのキャリアパスだけでなく、新しいスキルや役割を重視した多様なキャリアパスが求められます。インターネットやデジタル化が普及し、若い人材を印刷業界へ招き入れるためには、「紙を刷るだけの仕事」ではない、デジタル印刷やIT技術、マーケティングの知識を組み合わせて、顧客企業の「売れる仕組み」を創り出す仕事へと進化している業界であることを訴える必要があります。キャリアパス制度を設けることは、その裏付けとなる大切な施策であり、社内の人材育成と管理職を養成するためにも不可欠です。
キャリアパス制度を設けることは、社員のモチベーション向上に繋がりますし、企業の存続にも大きく関わってくると言っても過言ではありません。次の世代に印刷業を継承していくために必要不可欠な制度なのです。
通常、キャリアパス制度は「等級制度」、「研修制度」、「賃金制度」、「評価制度」の4つの要素から構成されます。ただし、このような制度を設けるのは、小規模企業にとってはリソース面から難しいと言わざるを得ません。小規模企業におけるキャリアパス制度の重要なポイントは、制度そのものよりも、「社員一人ひとりの成長と会社の成長を直接的に結びつけること」です。そのためには、透明性と柔軟性を重視し、社員が自分の仕事の意義や将来の展望を実感できるようにすることが大切です。曖昧な評価ではなく、具体的なスキルや成果を可視化することで、社員は自分がどう成長しているかを実感できます。また、組織図や肩書きだけでなく、それぞれの役割が会社全体の目標にどう貢献しているかを明確に伝えることも大切です。形式的な面談だけでなく、日々の業務の中で継続的にコミュニケーションを取り、フィードバックを行うことが、社員の成長を促します。
導入しやすい具体的なキャリアパス制度としては、「スキルマップ制度」があります。これは、社員が現在持っているスキルと将来的に会社で必要とされるスキルを一覧にしたものです。まず、各ポジションや役割に必要なスキルを、技術スキル(例:3DCG制作、企画・提案書作成)とヒューマンスキル(例:コミュニケーション能力、問題解決能力)に分けてリストアップします。半年に一度程度、社員と上司がこのスキルマップを見ながら、「今どのスキルを持っていて、これからどのスキルを伸ばしていくか」を話し合います。これにより、社員は自分の現在地と目標地点を把握することができるようになります。
上司は支援者としてキャリアについて話し合う
次に、役割を基本にしたキャリアパス制度では、肩書きや年功序列ではなく、それぞれの役割に焦点を当てたキャリアパスを設けます。例えば「プロジェクトマネージャー」「技術スペシャリスト」といった役割を定義し、それぞれの役割に求められる具体的な責任やスキル、さらにそれに伴う報酬の目安を明確に示します。社員は、自分の専門性を高めていくスペシャリストとしての道や、チームを率いる管理職としての道など、複数の選択肢から自分のキャリアを考えていくようにします。役割が変われば報酬も変わるため、公平性が保たれやすくなるでしょう。
さらに、経験豊富な社員が後輩社員の成長をサポートする「メンターシップ制度」もあります。これは、形式的な研修ではなく、日常業務の中で先輩が後輩にスキルやノウハウを教えます。定期的に1on1ミーティングを設定して、キャリア相談の場を設けることも効果的です。後輩は実践的なスキルを効率的に学ぶことができ、先輩社員は指導力を高めることができます。また、社員間のコミュニケーションが活発になり、組織の一体感も高まるようになるでしょう。
印刷会社のキャリアパス制度の事例として、次の3つが考えられます。
1つは、印刷技術のスペシャリストを目指す「エキスパートコース」。熟練度に応じて等級が上がり、技術指導者として後進の育成にも携われるようにします。
次に、営業、企画、マーケティングなどの専門職としてのスキルを高める「プロフェッショナルコース」があります。市場の変化に対応できる新しい知識やスキルを身につけるもので、外部の専門家を招いてセミナーを定期的に実施する方法があります。
3つ目は、チームリーダー、部門長など、組織を牽引する役割を担う「マネジメントコース」。リーダーシップや人材育成の研修を重点的に行います。
また、事務総合職のキャリアパス制度については、今後を見据えてITに強い人材を育成しなければなりません。スキルを体系的にまとめた「スキルマップ」を作成し、プログラミング、データベース操作、クラウドサービス(AWS、Azure)、データ分析ツール(Tableau、Power BI)などの知識習得を推奨します。
ビジネススキルとして、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキング、コミュニケーション能力、課題解決能力の習得も重要です。さらに、経理、人事、法務など各部門の業務知識を深めることも求められます。このスキルマップをベースに、社員のスキル習熟度を定期的に評価し、給与や昇進に反映させます。
キャリアパス制度で重要なのは、社員が自律的に自らのキャリアを考え、行動できるように、上司はあくまで支援者という立場でキャリアについて話し合っていくことです。
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