アーカイブビジネスで市場を開拓する!

アナログ原稿をスキャンしデータベース化するサービスを

アナログ原稿をスキャンしデータベース化するサービスを

政府や企業のデジタル化推進により、さまざまな情報資産のデジタルアーカイブに対するニーズが高まっています。デジタルアーカイブは単なる情報の保存だけでなく、企業にとっては新事業へ進出するための市場調査、資料・写真の保存・利活用、マーケティング活動など幅広い用途があります。また、教育分野や研究機関などでもさまざまな分野で利活用されています。今後はAI技術を活用することで、アーカイブデータの検索性や関連情報の抽出が進み、新たな価値創造に繋がっていくでしょうし、一大産業へと発展することが予想されます。印刷業界としてもアーカイブビジネスに取り組んでいくことで、新規市場の開拓を図っていきたいものです。今回は、印刷会社が始めるアーカイブビジネスについて考察してみます。

今後ますます伸展するアーカイブビジネス

 アーカイブビジネスとは、歴史的・文化的、さらに商業的に価値のある記録や情報を保存・管理し、別の資料・媒体を作成する際に利用可能にする業務全般を指します。アナログの文書・写真・フィルムだけでなく、デジタル化された電子文書、画像、音声、動画などの保存・管理も含まれるわけですが、一般的に、アーカイブビジネスと言えば、アナログの資料・情報をデジタル化し、保存・管理することを示しています。
 しかし、単に情報を保管するだけではなく、それらの情報を活用して新たな価値を生み出すことに、アーカイブビジネスの真の目的があります。一旦デジタルデータとして保管しても、そのデータを集約・再編集して、別の紙媒体やデジタルコンテンツを制作することに意義があります。ですから、印刷会社が持っているスキャニング技術、DTPによる編集技術、製版の画像処理・加工技術が、アーカイブビジネスに非常に適していると言えるでしょう。
 政府では現在「デジタルアーカイブ社会」の実現を目指して、各分野のアーカイブ機関と関係府省庁が連携し、「デジタルアーカイブジャパン」として、アーカイブの構築・共有と利活用促進に向けた取り組みを推進しています。
 日本におけるアーカイブビジネスの市場規模については、明確に示す統計データが存在しないため推測することは困難です。しかし、世界の多様な市場を調査・分析しているMordor Intelligence(本社 : インド・ハイデラバード市)が調査したところ、エンタープライズ情報アーカイブ市場規模は2024年に82億9,000万米ドルと示しており、5年後の2029年には143億6,000万米ドル規模になると予測しています。このような世界的な市場拡大を見ると、日本のアーカイブビジネス市場も今後急速に進展していくことが予想されます。
 国の関係機関などの文化・学術系のデジタル化については、政府が資料の収集・保存状況を把握していますが、一般の企業や自治体に関するデジタル化の状況については不明です。しかし、先の調査結果から、日本のさまざまな業界・企業で、デジタルアーカイブに向けた取り組みが必要とされており、それを支援するビジネスのニーズは確実に高まっていると推察できます。印刷業界としては、将来性のあるアーカイブビジネスに参入し、積極的に市場を開拓して需要喚起を図っていくことが求められます。

市場開拓・需要喚起できる分野に注力する

 では、印刷会社が取り組みやすいアーカイブビジネスにはどのようなものがあるでしょうか。もちろん、普段の印刷ビジネスを通じて既存顧客を支援するアーカイブビジネスを展開することは基本ですが、新規開拓という視点で見た場合に、市場性があり、かつ自社の強みが発揮できる分野や顧客支援に立った分野に照準を合わせたビジネスが望ましいと言えるでしょう。
 1つは、スキャナーを使ったアナログ文書のスキャン業務が挙げられます。これは以前から存在するビジネスで、印刷会社だけでなく多くの企業が社内文書のデジタル化の一環として取り組んでいます。そこで、印刷会社ならではのプロユースの設備を導入し、大量スキャンや高解像度スキャンなどに特化して一般企業と差別化できるスキャンサービスを展開していくことで、需要を喚起できる可能性が大いにあります。プロとしての優位性と技術力を持ってビジネス展開を図ることが重要なポイントになるでしょう。
 まず、一般企業や他の業界がビジネス参入しにくい分野のスキャン市場を開拓することが重要です。例えば、書籍や大判サイズの絵画・美術品をスキャンするビジネスが考えられます。具体的には、A1サイズ以上の高画質スキャナーを導入し、古地図や和紙公図などの貴重資料や絵画作品などを高精細で効率的にスキャンし、顧客に代わって保管するビジネスです。そして、顧客が必要になった時に、データを出力し公開できるようサポートします。既にこの分野に進出している同業者もいますが、市場はまだ十分に開拓されておらず、新たな需要が生まれてくる可能性がある分野ですから、営業次第で新規顧客を獲得していくことは可能です。
 次に、同じスキャン業務でも、大判の図面や設計図をスキャンし、CADデータと連携して検索可能なPDFデータとして管理することで、デジタル業務の効率化や顧客とその取引先との情報共有を支援するサービスも考えられます。このポイントは、単にスキャンしてデータを保管するのではなく、データベースを構築し、顧客のマーケティング活動に役立つ情報の抽出、販促のための資料づくり、販売を目的とした新しいコンテンツ制作などにも携わるサービスであることです。
 つまり、印刷会社が展開すべきは、顧客の売上増に直接貢献するビジネスです。顧客が保有しているデータの価値を高め、新たな活用方法を提案することで、アーカイブビジネスのアウトソーシング企業として重要な役割を担うことになります。そのためには、印刷事業と並行して顧客をトータルで支援できるような体制・ワークフローを築き、デジタルコンテンツ事業の比重を高めて業態変革を図っていきたいものです。
 また、図面やテキストなどの紙媒体だけでなく、フィルム、ビデオテープの映像、音声のデジタルアーカイブビジネスも考えられます。高画質化やノイズ除去などの処理を施すことで、貴重な映像・音声データを後世に残し、未来へ継承していく重要なビジネスと言えるでしょう。これらの分野も専門的な技術と信頼性が求められるため、印刷会社が取り組むのに適した分野と言えるでしょう。

企業の大量文書のスキャンも視野に入れる

 しかし、最も市場規模が大きい分野と言えば、一般企業の文書や資料、画像をデジタル化するビジネスになります。企業は規模が大きくなるほど、また社歴が長くなるほど、大量の文書やアナログ資料を保有しており、その保管スペースの確保が大きな課題となっています。
 デジタル化は、こうした課題を解決し、業務効率や生産性の向上だけでなく、保管スペースや印刷コスト、管理コストの削減、文書の劣化・紛失リスクの回避、さらにはBCP(事業継続計画)対策にも繋がるなど、多くのメリットがあります。こうした点に着目し営業展開していけば、必ずやアーカイブビジネスに取り組んでいけるでしょう。
 そのためにも、まずは自社内でデジタルアーカイブを実践し、データベースを構築することが不可欠です。印刷会社自体が社内の紙文書をスキャニングしてデジタルアーカイブ化する作業から始めることが求められます。
 企業によっては、スキャンする文書のデータ生成に加え、文字認識(OCR)やAI技術、属性抽出を活用し、キーワード検索機能を持つ高機能のデジタルアーカイブシステムの構築を望んでいます。これは、インターネット社会においてメタデータの有効活用や業務効率化の向上が求められているためです。印刷会社としては、こうしたニーズに応えていかなければなりません。
 具体的には、デジタルデータをクラウド上に格納し、場所を問わず必要なデータを取り出せる環境を整えることで、提案書・企画書の作成や情報の社内伝達、あるいは顧客からの問い合わせなどにスピーディな対応ができるシステムを構築するのです。その管理運営を代行する業務を担えるようになれば、事業として確立していくことが可能になるでしょう。こうした取り組みは印刷会社の業態変革にも繋がるため、チャレンジする価値は大いにあると言えます。

アーカイブのアウトソーシング会社を目指す

 デジタルアーカイブをスタートする際に求められる要素としては、どんなシステムを導入するのがその顧客に適しているのかをアドバイスすることが重要です。印刷会社自体は通常、アーカイブシステムを構築するノウハウを持っていませんから、システムの開発・販売を事業にしているメーカーと顧客の間に入って、スムーズにシステム構築できるようコーディネート役に徹するのが望ましいでしょう。
 印刷会社としては、スキャンしたデータのアーカイブ資料を整理し、検索性を高めるための目録作成スキルを習得しておくことが求められます。また、アーカイブされたデータを活用して、販促物、展示物、出版物、映像コンテンツ、Webコンテンツなど、多様なコンテンツを制作するスキルを身につけることも重要です。これによって、顧客に代わってアーカイブ業務を代行し、ビジネスとして成立させることができるからです。つまり、印刷会社はデジタルアーカイブのアウトソーシング会社として、顧客をサポートしていく役割を担うことになります。
 しかし、システムの管理・運用を一手に引き受けて、顧客の業務効率化や生産性向上に寄与するビジネスは、顧客からの高い信頼が求められるため、長年付き合いのある顧客以外ですぐに受注できるものではありません。また、かなり専門的で難易度の高い仕事になりますから、まずは、アナログ資料をスキャンしデジタル化するサービスから始めるのが得策と言えます。

オンデマンド印刷機でもスキャン業務は可能

 では、スキャナーを導入するとなれば、どんな機種を選択すればよいでしょうか。もちろん、スキャンの目的や対象となる業種、そして幅広い用途先を見据えた選定が求められますし、画質や生産力についても考えなければなりません。言えることは、印刷会社が事業として使用するわけですから、高画質で大量にスキャンできる耐久性・生産力のある製品を選ぶことが望まれます。
 また、オンデマンド印刷機にもスキャン機能が搭載されているため、オンデマンド印刷機を使ってスキャニング業務を行うことも検討できます。その際も、写真やグラフィックの細部まで再現できる600dpi程度の高解像度でのスキャンが可能であること、また、スキャンデータをPDFはもちろん、TIFFなど多様なファイル形式で保存できること、カラー対応、A3サイズ程度の書類や印刷物、さらにはある程度厚みのある書籍やアルバムにも対応できるオンデマンド印刷機であることが必要です。
 最近のオンデマンド印刷機は高画質化しており、大量スキャンにも対応できる生産性を備えた機種が多く、製品自体には特に問題はありません。ただし、1台だけの所有ですと、印刷時にスキャンはできないため、タイムスケジュールを決めて印刷業務とスキャン業務を振り分ける必要があります。スキャンの仕事量が増えてきた場合にはスケジュール管理が煩雑になるため、本格的にオンデマンド印刷機を使ってスキャン業務を行うのであれば、もう1台導入することも検討する必要があるでしょう。
 そこで、顧客に営業する際には、大量にスキャンする仕事があるのかどうかニーズを聞き出すことが大切ですし、また、事前に市場調査を行うのもよいでしょう。地域の企業全体にアナログ文書のデジタル化業務がどのくらいあるのか、それはコンスタントに発生するのかどうかをアンケート調査などである程度把握しておくことが求められます。そして、新たにスキャナーやオンデマンド印刷機を導入することを決断したのであれば、購入する際に補助金や助成金が利用できる可能性があるため、そのことも事前に調べて、補助金を活用することも考慮したいものです。

目的や用途に合ったスキャナーの導入を

 次に、プロユースと言えるスキャナーを紹介します。文書を大量かつ効率的にスキャンできる機種から、高解像度の大型3Dスキャナーまで、目的や用途に合わせた製品を導入することがポイントです。

企業の大量文書向けスキャナー

リコー製大容量フラッグシップモデルのA3スキャナーで、読取速度は150枚/分。カラーは150枚/分、二値白黒は300枚/分を実現(fi-8950 200/300dpi)。A4サイズの原稿をトレイに一度に最大750枚までセットできる。対応OSはWindows。

マルチ対応の高精度A2フラットベッドスキャナー

 タッチスクリーンコントローラーを搭載し、A2サイズまでの図面、印刷物、織物、書籍などの原稿を高速かつ高精度で読み取るコンテックス製A2フラットベッドスキャナー。Wi-Fi、LANによるネットワーク接続が可能で、USBメモリーへの直接保存にも対応している。また、自動でページを分けるブックスキャニング機能も搭載。

書籍向けA1サイズのオーバーヘッドスキャナー

 A1サイズに対応したクラボウ製のオーバーヘッドスキャナー「ブックスキャナOS C1」。カラー約3.8秒、モノクロ約2.4秒の高速スキャンを実現。原稿台に置くだけで原稿を裏返すことなくスキャンでき、貴重な原稿を傷める心配がないのが特長。最大ブック厚170mmまで対応。

立体物の質感をリアルに表現する3Dスキャナー

 対象物の質感をリアルに再現し、素材表面の凹凸情報を取得するセンサーを備えた、ニューリー製の高解像度3D スキャナー「SCAMERA-Face」。読取有効サイズ700mm×1,000mm。新開発の光学系を採用し、全面を歪みなく均一にスキャンする。原稿厚み200mm以下。出力解像度200~1,600dpi。

※これらのスキャナーは弊誌が推奨するものではありません。あくまでも参考製品です。

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