デジタル印刷最新事情新たな活用を探る!
画像生成AI、 パーソナライズ印刷、IP、メタバースで力を発揮する
画像生成AI、 パーソナライズ印刷、IP、メタバースで力を発揮する
オフセット印刷機は大量印刷に適しており、安定した品質性がデジタル印刷よりも優れていると言えます。しかし、今日では小ロット・多品種や、バリアブル印刷が商業印刷の主流になりつつある中で、デジタル印刷機は小ロット・多品種生産、版の不要、バリアブル印刷、短納期、在庫リスクの低減、省スペースといった点で、オフセット印刷機に比べて多くのメリットがあります。また、デジタル印刷機は現在も進化を続けており、AIやデジタルマーケティング、VRなどと親和性が高いのも魅力です。今回は、デジタル印刷機に連携させた新機軸の制作物を紹介しつつ、デジタル印刷機が持つ有益な機能や、新市場の開拓・新商品の開発にいかに寄与しているかを解説します。
画像生成AIを活用した広告制作
生成AI、特に画像生成AIは、テーマや色彩、感情などの要素を基にデザインのアイデアを自動生成できるため、広告や印刷物、映像制作など幅広い分野でその優位性を発揮しています。例えば、「カーディーラーのロゴマークを作って」と生成AIに指示を入力すると、10秒ほどでデザイン案を作ることができます。さらに条件を付け加えれば、より目的に合ったロゴマークを作成してくれますし、さらに修正を加えたいなら、より細かな指示を入力することでブラッシュアップが図られ、より理想に近いものに仕上げてくれます。
また、画像生成AIでは画像の補正やノイズの除去、色調整などを自動的に行うこともでき、品質の高い画像を短時間で作成することも可能です。
画像生成AIを活用した事例で、話題になった2作品を紹介します。最初は、第43回「新聞広告賞」の大賞に選出された近畿大学の新聞広告で、実在する近大生の顔写真200枚を画像生成AIに学習させ、架空の近大生を生成して制作したものです。
近畿大学では毎年正月に新聞広告を掲載しており、そのユニークさが話題となっています。2023年のテーマは「上品な大学、ランク外。」で、制作を担当したのは同大学情報学部の1年生です。この広告は2023年1月3日、全国紙やスポーツ新聞など11紙に掲載されました。広告を見た人に「近畿大学はやっぱり面白い」と思ってもらうことを目的としており、その役割を十分に果たした作品と言えるでしょう。
生成した人の顔は、実際の写真と比べてもさほど違和感を覚えません。このように、画像生成AIを駆使して広告やポスターを制作するケースは、企業だけでなく一般
の人々の間でも広がりつつあります。 もう1点は、2023年9月に伊藤園が放映した「お~いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMです。このCMの画像は、画像生成AIのセミナーでよく引き合いに出されますから、ご存じの方も多いでしょう。架空のタレントを画像生成AIで作成し、同社が“専属のタレント”としてCMに起用しています。
当時、AIタレントをテレビCMに採用したのは日本で初めてでした。「未来の自分をいまから始める」というセリフとともに、白髪の女性が若い女性に切り替わっていく演出で、30年後の未来の自分をAIで表現するという画期的なアイデアでした。放映されると、AIタレントの品質の高さや違和感のない映像がSNSなどで話題となり、広く拡散されました。
伊藤園では、膨大な画像データからAIタレントを自動生成しているため、特定の著名人に意図的に近づけていないとのことです。そのため、起用したタレントが不祥事を起こす可能性や、それに伴う企業イメージの悪化を防ぐことができるほか、タレントの出演料や制作コストの削減が可能となり、多くのメリットがあります。したがって今後、テレビCMをはじめ動画広告において、画像生成AIによる制作が広がっていく可能性があるでしょう。
このように、画像生成AIを使えば、好みに合わせてパーソナライズされた人物を生成し、マーケティング施策として活用することができます。
画像生成AIで作成した画像データは、オフセット印刷機でもDTPから工程を経て印刷することができますが、デジタル印刷機であれば、画像データをデジタル印刷機に搭載しているソフトウェアにアップロードして直接出力できるため、短時間で制作することができます。昨今のデジタル印刷機にはAIが搭載されているものもあり、写真(画像)1点1点を自動的に判別し、最適な画像補正を行うこともできるようになっています。

パーソナライズ印刷に最適なデジタル印刷機
デジタル印刷機の強みは多品種小ロットの生産やバリアブル印刷ですが、中でもパーソナライズ印刷は特筆すべきメリットがあります。
パーソナライズ印刷は、データマーケティングを活用することで、顧客のデータに基づいて名前や特定の興味に合わせてカスタマイズされた印刷物を作成できますから、顧客一人ひとりに合わせたDMやクーポン付きチラシなどを作成し郵送することが可能になります。
事例としては、数十種類の冷凍総菜メニューの中から、顧客の選んだ組み合わせの冷凍総菜を定期的に届けるサブスクリプションサービスがあります。このサービスでは、顧客に冷凍総菜を発送する際にチラシを同梱する方法で、そのチラシには過去の注文履歴や閲覧履歴を踏まえて、顧客ごとにお勧め商品を掲載されています。
パーソナライズ化した印刷物を作成して同梱するには、データ管理や印刷物の管理などに手間やコストが掛かるため、オフセット印刷機で実現するのはかなり難しいですが、デジタル印刷機であれば、コンピュータで自動的に行えるというメリットがあります。
チラシに顧客別のQRコードを印刷し、顧客の動向を追跡することで、パーソナライズされたチラシによるWebへのアクセス率が、一般的なチラシに比べて大幅に高まったという結果もあります。
AIが顧客データを分析し、個々の顧客データに基づいて、テキスト、画像、バーコードなどを1枚ごとに付加させるバリアブル印刷が可能になったことで、より高度なパーソナライズ印刷を短時間で実現できるようになりました。
DMやチラシ以外でも、AIを活用して顧客を分析し、デジタル印刷機によってパーソナライズされた印刷物を製作する事例は増えつつあります。それらの事例を挙げてみます。
まずカタログ制作では、顧客の購買履歴、興味・関心、家族構成、ライフスタイルなどのデータをAIが分析することで、顧客に最適なカタログを製作する方法が増えています。掲載する商品は、顧客の興味のあるカテゴリーの商品をトップページに配置し、関連商品を集中的に紹介するページ構成などが可能です。
フォトブックやアルバムでは、顧客がアップロードした写真の内容をAIが分析し、写っている風景や人物、イベントなどから最適なレイアウトを自動的に提案します。また、Exif 情報から旅行、記念日などのテーマを自動的に認識し、それに関連するテンプレートやスタンプを提案します。さらに、顧客がレイアウトデザインした独自のフォトブックを、高品質なデジタル印刷で一冊から製作することができます。
教育教材もパーソナライズ化が進むと考えられます。学生の学習履歴、理解度、得意・不得意分野をAIが分析し、学生一人ひとりのレベルに合わせて問題の難易度を自動的に調整したり、苦手分野を重点的に出題したりするなど、AIがサポートするようになるでしょう。また、こうした個別最適化された教材を、必要な時に必要な部数だけ印刷することも可能になります。
ただし、紙媒体による教材の提供は今後、デジタル化によって次第に減少し、将来的にはPCやタブレット端末での表示が主流になるのではないでしょうか。
イベントチケットもパーソナライズ化が進むでしょう。イベント参加者の過去の参加履歴、興味・関心などのデータをAIが分析し、関連イベントの案内、限定特典の提供、座席情報の最適化などを自動的に提案することが可能になります。これらの情報をもとに、顧客ごとに異なる情報をチケットに印刷することもできるようになるでしょう。
今後は、デジタル印刷機を使用して、市場データや顧客の購買傾向を分析し、特定のターゲット層に最適化されたDMやチラシ、カタログを印刷・送付する方法が主流になっていくことが予想されます。また、前述のように、印刷物からWebサイトやデジタルコンテンツへ顧客を誘導し、クロスメディアによるキャンペーンを展開することで、より効果的なプロモーションを行えるようになるでしょう。

IPでビジネスが広がるデジタル印刷機
ここで、IPビジネスの製品をデジタル印刷機で作成する方法について見ていきます。IPビジネス(IntellectualProperty Business)とは、知的財産(IP)を活用して収益を得るビジネスです。その代表格がライセンスビジネスになります。IP保有者が自社で持っているキャラクターやブランド、デザインなどのIPの使用権をIP使用者に許諾します。IP使用者は許諾されたIPを使用して商品を製造・販売したり、プロモーション活動を展開したりします。そして、IP使用者は売上の一部などをロイヤリティとしてIP保有者に支払うという仕組みです。
IPビジネスとデジタル印刷機を活用した販促品の事例は数多く存在します。デジタル印刷機の特性である「小ロット生産」「多品種少量生産」「可変データ印刷」といった強みが、IPビジネスにおける多様なニーズと非常に相性が良いからです。
具体的な事例としては、人気アニメやゲームのキャラクターなどのIPを使用し、許諾を得たうえでスマートフォンケース、マグカップ、Tシャツ、キーホルダーなどを作成するケースが挙げられます。例えば、イベント会場で来場者に好きなキャラクターを選んでもらって、名入れしてデジタル印刷で製作することができます。顧客には自分の名前が入った唯一無二の製品を手にすることで特別感が得られますから、購買意欲を高める効果があります。このようなパーソナライズされた商品を短時間で作成・販売できるメリットがデジタル印刷機にはあります。
また、オンラインストアでのカスタムオーダーに応えることもできます。Eコマースのサイト上で顧客が好きなキャラクターとキャッチコピーを組み合わせてデザインし、そのデータをデジタル印刷機でオンデマンド生産・発送することで、在庫リスクを抱えることなく顧客満足度を高めることができます。
その他、高品質なポスター、アクリルスタンド、キャンバスアート、ブロマイドなど付加価値の高い販促品を作成することができます。これまでデジタル印刷機ではホログラム印刷は難易度が高く、製品化するのが難しかったのですが、新素材の登場によってホログラムポスターを制作することが実現できました。原画を使用したオーロラポスター「セーラームーンミュージアム」は、ホログラムペーパーに特色印刷した、オーロラのように色が変わる美しいポスターです。
今後、デジタル印刷機でホログラム印刷を活用したコンテンツ制作は、付加価値を与える製品として伸展していくかもしれません。
また、企業のノベルティグッズやクリエイターのオリジナルアート作品を活用した商品の販売など、IPビジネスを活用してデジタル印刷機で生産できる商品は非常に多岐にわたります。
ただしIPを気にすることなく、猫カフェや犬カフェでは、来店した顧客が動物たちと一緒に撮影した写真を、デジタル印刷機を使ってその場でアクリルスタンドの写真立てとして販売することも可能ですし、観光地や観光案内所では、多様な観光グッズを小ロットで製作し、販売・配布することも考えられます。


AI画像認識技術が高精度に欠陥を検出
また、デジタル印刷とAI画像認識技術を組み合わせることで、印刷物の色味、ズレ、汚れなどを自動で検出し、不良品を排除する精度が向上しています。例えば、深層学習を利用した印刷欠陥分類法では、不適切なサンプルの扱いや、わずかな欠陥を高精度で分類する技術が開発されています。そのため、人間が気づかないような微細な特徴までも捉えることができるのです。AIを用いた画像認識では、生産ラインで製品の不良検知を行う際に、何万枚もの正常品と不良品の画像を収集して学習データセットを作成し、高精度な判別を実現しています。このように、AI技術は生産ラインの効率化、不良品の除去に役立っています。
仮想空間で親和性が高いデジタル印刷機
ヤマゼンコミュニケイションズ株式会社(本社:栃木県宇都宮市)では、新規需要開拓に向けて新たなコミュニケーションの場として「メタバース」に着目し、2023年4月に、自社ホームページ上で栃木県初のメタバースサービス「トトバース」を構築し、運用を開始しています。
トトバースは、一般の方や就職活動中の方が、同社の建物の中を自由に見学できるようになっているのが特徴です。
そんな同社が企画した「メタバース時代の新たなフォトブック市場開拓 −VRフォトグラファーとアバター達の撮影会−」は、世界最大のアニメファンコミュニティの企画運営会社であるMyAnimeList社が開催したVR ChatWorldの撮影会で、VRフォトグラファーがVR 空間でVRカメラを用いて撮影したアバターたちのフォトブックアルバムとポスターが、2023年度のIPA(Innovation print Awards)において「フォトブック部門」第1位を獲得しました。
フォトブックは、RGB色域表現が基本のVR空間の特性を再現したWeb3.0時代の新しい作品と言えるもので、ピンクトナーを活用し、VRフォトグラファーが撮影した画像をRGB色域によって忠実に再現しています。さらに、撮影会の集合写真を印刷したポスターには、「RevoriaPress PC1120」推奨のフィルム素材を採用し、付加価値を高める演出をしています。
このように、新たなコミュニケーション空間であるメタバースのVR空間での撮影はRGBの色域表現が基本であり、それを忠実に表現するためにはデジタル印刷機が適
しているということです。同社のVRフォトブックは、リアルとバーチャルが融合した新しいサービスとして、今後のビジネスのヒントになるのではないでしょうか。
デジタル印刷機とメタバースやVRとの親和性は、想像力と利便性の両面で高い親和性を持っていることが窺えます。実際、デジタル印刷機は、正確なデザイン表現に優れており、一方でメタバースやVRは、そのデザインを仮想空間に持ち込むことで製品のバーチャルな展示やシミュレーションを可能にします。現実の色味や質感を忠実に再現したフォトリアルなメタバース空間を構築し、デジタル印刷と連携した新しいビジネスモデルが、近い将来次々と展開されていくことが期待されます。

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