企業の新たな取り組み編
データは語る
この数年間中小企業は人材の採用・開発・教育の強化に取り組む
東京商工会議所中小企業委員会は、23区内の中小企業・小規模企業の会員企業を対象に、各社が抱える経営課題を聴取する「中小企業の経営課題に関するアンケート」調査を2024年9月~10月に行いました。回答数は1,447社(回答率14.5%)で、うち小規模企業(概ね従業員数20人以下)は665社(46.5%)です。
調査が都内の企業に限られているため、地方の企業と比べると結果に違いが生じる可能性があり、必ずしも全国の状況を表しているとは言えないかもしれません。アンケート調査の項目の中で、「2020年以降の新たな取り組み状況」について尋ねたところ、実施された取り組みは下のグラフの通りになりました。
最も多かった回答が「人材の採用・開発・教育の強化」で38.2%、次に「新製品・新サービス開発」(31.4%)、3位に「商品・サービスの提供方法の導入・改善」(24.8%)と続いています。10の取り組みに回答した合計は78.9%となり、約5社に1社がコロナ禍の時期に何らかの新たな取り組みを実施したことになります。
最も多かった、中小企業が人材の採用や教育に力を入れる理由は、大企業と比べて知名度や福祉厚生で劣ることから、少しでも優秀な人材を確保するために魅力的な企業風土や柔軟な働き方、成長機会などをアピールし、採用につなげたいと思っているからです。
また、安定志向が強い若者が大企業への就職を望む傾向があるため、人材の採用に注力しないと、企業として存続が危ぶまれる点もあるでしょう。生産性の向上や事業拡大というよりも、中小企業にとっての人材の確保は、生き残りを賭けた重要な施策になっているわけです。
次に多かった「新製品・新サービスの開発」は、従来の製品・サービスだけでは先細りしていくとして、新しい収益源の確保、デジタル化など市場変化への対応、企業イメージの向上、あるいは従業員のモチベーションの向上を図るために、新製品や新サービスの開発に着手するケースが多いのではないでしょうか。これは印刷会社にも言えることで、印刷物を制作するにしてもARの動画で紹介したり、Webサイトへ誘導しマーケティングの幅を広げたりして、デジタルと融合した付加価値の高い印刷物の制作を進めていく手法に近いと言えます。
ただし、いくら新しい取り組みに着手しても効果が出なければ意味がありません。続いてグラフは割愛しましたが、同じアンケート調査で「2020年以降に新たな取り組みを実施した効果」について尋ねたところ、「販売数量・取引先の拡大」と回答したのが41.4%と最も多く、次に「競合との差別化」が35. 9%、「顧客満足度向上」が30.9%と続いています。一方で、「販売単価の上昇」という回答が24.8%あり、新たな取り組みを実施した結果、思惑とは逆にマイナスに動いた面もあったようです。これはコロナ禍による買い控えや世界的なエネルギーの高騰、物流費の上昇などが考えられます。

アウトソーシングや他社との業務提携も考慮する
上記の調査結果は、そのまま印刷会社にも当てはまるのではないでしょうか。同じようなアンケートを取れば、同様の回答結果になる可能性が十分考えられますが、ただし、ここ数年間で「人材の採用・開発・教育の強化」や「新製品・新サービス開発」を実施した印刷会社が果たしてどのくらいあるのでしょうか。ましてや新分野進出、事業・業態・業種転換といったドラスティックな取り組みを行った印刷会社は、皆無ではないでしょうか。
印刷会社が、新たな取り組みを実施できない理由として考えられることは、紙への印刷という歴史と伝統への拘りが根強いこと、印刷機などの高額な設備投資を行っており、これを他の事業に転用するのが難しいこと、印刷の専門知識や技術を持つ人材が、他の事業に興味に持ったり、スキルを身につけたりするのに関心がないことが挙げられます。そして時間とコストが掛かる点も大きいでしょう。
印刷業における新たな取り組みとなれば、グラフに示された項目が考えられますが、自社に足りないものや弱い部分は何かを分析し、変えたり強化したりすることが大切です。そのためには人材の採用・開発・教育は不可欠だと言えますが、それが難しい場合は、アウトソーシングや他社と業務提携を行い、それらの課題を解決していくのも考慮したいものです。
いずれにしても、数年間にわたる期間を設けて年度ごとの計画に沿って、着実に取り組みを実施していくことが重要です。新たな取り組みは「思い立ったが吉日」と考えて、今日から始めましょう。
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