細かいニーズに応えて顧客の信頼を勝ち取る

福島市で地域に根差した印刷業を営んでいる株式会社岸波プロセス。昨年までは印刷後工程まで内製化していたが、今年からDTPのプリプレスを主体にした業態に変えて事業展開している。30代の若さで社長に就いて約20年になる岸波雄一社長。事業の現状について話を伺った。


株式会社岸波プロセス

〒960-8252
福島県福島市御山字中屋敷103-3
TEL 024-533-6213

代表取締役
岸波 雄一(GC東北)

事業をDTP主体のプリプレスに移行

 1972年に創業し今年で53年目を迎えた株式会社岸波プロセスは、岸波雄一社長のお父様が製版会社でスタートした会社である。
 現在は岸波社長が二代目として跡を継いでいるが、「事業承継で社長になったのは、私がまだ30代後半のことでしたから、20年近く前になります」と、早くから事業を承継した形になった。
 大学を卒業した後、東京の製版会社に就職して3年半ほど勤務し、岸波プロセスに入った。「営業職を中心に修行のような形で勤めていました。この3年半の期間で印刷の知識を学び、経験を積むことができたと思います」と、述懐する。
 一時は従業員を十数名抱えていた時もあったという。製版事業から商業印刷物も扱うようになり、オフセット印刷機を導入して印刷業として事業を拡大した時代もあった。
 同社は福島市の中心市街地から3kmほど北上した東北新幹線のすぐ脇に社屋を構えている。「昔のドラム式スキャナや初期の頃のフラットベッドスキャナはかなりデリケートな構造でしたから、新幹線が走行すると振動が発生し、制作に影響が出たこともあったと聞かされました。それでメーカー担当者が来てスキャナの調整をすることがあったそうです」と、岸波社長は東北新幹線に関するエピソードを話した。
 刷版がフィルム出力からCTP出力へシフトし、スキャニングの仕事も次第に減少していったという。
 同社は昨年、印刷機などの設備を大幅に処分したという。「印刷機をすべて撤去し、仕事をデジタル製版工程までに絞りました。それで印刷は外注に出すことにしました」と、プリプレス工程に特化したのである。ただし、印刷機は処分したものの、簡易的な折り機やアジロ綴じの製本機は依然として保有しているため、定期刊行物や出版物の製作も引き続き行うことができる。
 商圏は福島市、郡山市を中心に福島県内とのことで、ほとんどが一般企業や店舗からの直受けで、印刷関連会社との取引はほとんどないとのこと。「企画やデザインからなるべく受注していくよう心掛けています。今のご時世、価格競争では勝ち目がありませんから、デザインや色に拘りを持っているお客様をターゲットにできるよう営業しています」と、企画・デザインを重視している。

細かい注文や面倒な仕事に応えていく

 営業は岸波社長が中心ではあるが、「営業はもちろんですが、カラー物のデザイン・DTPに関しては、私がすべて制作を担当しています」ということで、岸波社長自らレタッチ作業もこなしている。これまで培ってきた製版技術を駆使して品質の高いデータの提供に注力している。
 「他の印刷業者さんがやりたがらないような細かい注文や面倒な仕事をこなしていくことで、顧客の信頼を勝ち取って今後に繋げている感じですね」と、岸波社長は営業方針を話す。
 同社は地域密着型で県内を車で行き来できる範囲で営業を行っているが、事例として郡山市に本店がある菓子店の仕事について話してくれた。「得意先の一つに福島県内や東京など全国に20店舗ほど出店している菓子店があり、そこの商品チラシやパンフレットなどの印刷物や販促物を請け負っています。また、催事を行う際にはブースに貼るポスターの制作や、店舗に置いている商品の解説用小冊子なども制作しています。さらに、季節ごとに販売されるお菓子に合わせた販促品の制作も行っています」と、同店のさまざまな販促物の制作を手掛けている。
 「この菓子店の仕事は、間に代理店が入っているため、代理店から弊社に対して個々の店舗に応じて印刷物・販促品の部数が発注されます。制作したものは、弊社が直接各店舗に納品する形になります」という。
 印刷データは代理店から受け取るが、「お客様は色に拘りを持っていますから、データを渡されてテキストの修正がなくても、画像の修正を含めて色修正を施す必要があります。弊社でレタッチ作業を行い、インクジェットプリンターで色校正紙を出して、お客様とやり取りを重ねながら完全なデータに仕上げています」とのことで、画像の色調整が重要な仕事になると話す。
 「実物の商品とは違いますから、商品を実際に買われるお客様が美味しそう、食べてみたいと思われるような見栄えやシズル感を出した商品画像にして完成させなければなりません。その辺のニュアンスにいかに応えていくかが仕事のポイントになります」と、代理店の細かいニーズに確実に応えていくことが鍵になるという。
 そのため、同社の強みは、顧客の細かいニーズにしっかりと応えて、顧客が満足する印刷データを作って
いくことだと説く。今後の仕事については「引き続きデザインが重視されるカラー物の仕事に注力し、お客様の信頼を勝ち取って、経営を維持し続けられるようにしたい」と、岸波社長は締めくくった。


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