Z世代を確保するための採用戦略とは!

デジタルツールの活用、職場環境のデジタル化、キャリアパス制度の導入を

デジタルツールの活用、職場環境のデジタル化、キャリアパス制度の導入を

中小企業にとっては、いかに若い人材(以後、Z世代)を雇用し確保していくかが、最重要テーマになっていると言って過言ではないでしょう。印刷業界では工場や生産現場で仕事をするZ世代を採用することの難しさは周知されています。まして次代を担う有能な新卒を雇用することは、非常に困難になっています。今回は、新卒などのZ世代を採用するためには、どのような経営方針や施策を打ち立てて臨めばよいのかについて、「キャリアパス」に触れつつ探っていくことにします。

魅力をデジタルツールで発信する

 Z世代とは、概ね1996年から2015年に生まれた世代の人たちのことを指します。Z世代はデジタルネイティブとして、スマートフォンやPCなどのデジタルツールが身近な存在にあり、それらのツールを使って常に最新の情報を入手し、コミュニケーションをとって育ってきました。ですから、仕事の進め方がデジタル化されていないと、「遅れている企業」「将来性がない業界」とみて、就職先として考えない傾向があります。
 印刷産業が斜陽化していることは、Z世代にも周知されており、印刷会社の行く末に明るい未来を描くことは難しいかもしれませんが、それでも企業を存続させていくためにZ世代を採用していかなければなりません。Z世代の認識を覆すほどの魅力ある企業であることを示せるよう、採用戦略を立てる必要があるでしょう。
 Z世代の採用を成功させる方法として不可欠なのが、採用方法もデジタルツールを活用するということです。Z世代にとってSNSは主たるコミュニケーションツールであり、情報収集ツールでもありますから、企業はZ世代の人材を採用するにあたって、公式アカウントから企業情報や業務内容、イベントや組織風土など、さまざまな魅力を発信し、求職者に自社で働くイメージを持ってもらうことが重要です。
 例えば、実際に企画・デザインに注力していることを訴えて、クリエイティブな仕事をしている現場の写真を掲載したり、紙に拘らずWebにも事業領域を広げていることをアピールしたりすることも大切です。
 あるいは、企業が求職者に直接採用のアプローチをかける「ダイレクトリクルーティング」は、能動的にZ世代に直接アピールできて、より有望な人材を確保するために有効な行動です。
 とにかく経営者自らが採用戦略を立てて社員に提案・指示し行動を起こさないと、社員自らが行動を起こすことはまずありません。Z世代が「この会社で仕事をしてみたい」と思わせる魅力を追求していかなければ、結局、社員が欠員した際に必要に迫られて中途採用を行うだけの企業になってしまいます。それでは、新しい事業に取り組む風土も生まれず、事業が先細りしてしまうでしょう。それを打開していくためにもZ世代を確保する施策を実施していく必要があるわけです。

プライベートの時間を重視するZ世代

 株式会社SHIBUYA109エンタテイメントがZ 世代を対象に実施した「Z世代の仕事に関する意識調査」の中で、
「あなたの理想の働き方としてあてはまるものを教えてください」(複数回答)という質問をしたところ、上位3位は「好きなことでお金を稼ぐ」「場所にとらわれずに働ける」「週休3日制」という回答になりました。(グラフ参照)
 とんでもない理想だと呆れるかもしれません。Z世代も、この理想が叶う職場などそうそうないことは知っていますが、少なくともこのように回答する以上、この理想に近い企業を就職先に求めようとしているのは確かで、明らかにプライベートの時間を大切にしていることが窺えます。
 また4位以下の回答にしても、かなり自由な働き方を望んでいることが分かります。経営者としてはZ世代の理想を叶えるために就業規則を大幅に改定する必要はありませんが、少なくとも働き方改革を行い、既存の社員が伸び伸びと働ける環境を整備することは意義があることですから、Z世代の多くがこのような考えを持っていることを頭の片隅に置いて、採用戦略を立てる必要があるでしょう。もちろん、Z世代でも仕事に対する意識は多様で個々によって価値観は異なりますから、十把一絡げにするのは良くありませんが、「職場環境がデジタル化していない旧態依然の職場では働きたくない」というのが、大方の考えだということを知っておかなければなりません。
 また、Z世代は年功序列が強固に維持されている企業を嫌います。仕事の貢献度に対して不平等な状況に敏感ですから、仕事量や報酬面で不平等とみなせば、抵抗を示すことが少なくありません。このことを経営者や上司はしっかりと認識しておくことが大切です。
 Z世代はある種の専門性を磨ける仕事に就くことや、スキルを向上させたいという気持ちが上の世代より比較的強いため、スキルアップのための研修やセミナーに積極的です。企業としてはそれを理解し学べる場を提供していかなければなりません。それがいずれは企業の業績向上に繋がりますから、スキルアップを目指せる職場づくりは不可欠と言えるでしょう。
 印刷会社の多くは、ジョブ型雇用を明確に打ち出してはいませんが、職種の特徴からジョブ型雇用を続けてきた経緯があります。ただし、印刷会社におけるジョブ型雇用は、その仕事の専門家と言えば聞こえは良いかもしれませんが、結局「印刷機のオペレータは終始印刷機のオペレータとして留まる」という、要は当該の機械を稼働させることができる専門職の確保に過ぎず、そこにはIT化やDX化を進めて、新しい技術を身に付けるための人材育成の姿勢は見えません。結果として、現状の仕事の人材確保に追われているのが実情です。求める職務が将来性のある職務やスキルでなければ、結局はいつまで経っても、退職した社員の代わりを探すという雇用の在り方に終始せざるを得ないでしょう。しかし、これを繰り返すだけでは企業に明るい未来は訪れません。
 一方で昇進・昇格、賃金制度、あるいは経営への参画といった視点から見ますと、メンバーシップ型雇用も重視せざるを得ないのは確かです。Z世代を雇用し確保していくには、自社に合ったジョブ型雇用制度を確立し、専門性を追求しつつキャリアアップが図れる企業に生まれ変わっていく必要があります。そのためにはどんな施策を考え実践していくべきかを模索しなければなりません。

知識習得やスキルアップの関心高まる

 調査・研究、組織・人事コンサルティング等を事業展開しているパーソル総合研究所は、毎年「働く10,000人の就業・成長定点調査」を行っていますが、2019年から2023年の過去5年間の20代の若者就業者(民間企業の正社員)が仕事を選ぶ上で重視していることについて調査したところ、微妙に変化していることが分かりました。(図表参照)
 同表は、優先度の高いものから上位5位までを選ぶというもので、各質問に対する回答の合計値になります。上位11位を提示したところ、2019年に第1位であった「希望する収入が得られること」(43.2%)が、22 年には36.7%まで減少し3位に下がりましたが、23年に39.8%に上昇し再度トップになっています。これは一昨年からの物価上昇によって収入増を求める動きが顕著になったことが考えられます。安定した生活を営むためには、少しでも収入を増やしたいと考えるのは当然ですから、20代も給与面を重視していることが窺えます。
 以下の「休みが取れる/取りやすい」「職場の人間関係がよいこと」「仕事とプライベートのバランスがとれること」「雇用が安定していること」「やりがいを感じられること」の5つの質問は、比率に若干違いは見られますが、毎年上位に選ばれており、5年間の若者の意識に大きな変化はなく、仕事を選ぶ上で重視していることが見て取れます。
 ただし、「いろいろな知識やスキルが得られること」に関しては、2019 年は14.5%でしたが、23年には22.1%に上昇し、20代は自分の知識習得やスキルの向上への意識が高まっていることが分かります。これは現状のスキルのままでは成長しないため、転職することになった際に「選ばれるためには秀でたスキルが必要だ」という認識があるからです。将来に対する不安から知識やスキルの向上を求めていることが窺えます。
 また11位の「通勤の便がよいこと」を示したのは、19年から毎年下がっているからです。通勤に多少時間が掛かっても他の項目のほうが重要だということですが、通勤時のストレスを考えた場合、果たしてどうなのか、まだ若く体力的に問題がないために、重視する必要性を感じていないのかもしれません。

Z世代を採用するために行うべき施策

  1. 求める人物像を具体化する
     ミスマッチを起こさないためにも自社に必要な人物像を明確にする必要があります。具体的なスキルや特性を共有することで、適切な採用戦略を展開できます。しかし、あまり条件を絞りますと、新卒者から応募がなくなる可能性がありますから、人物像の内容について検討し、ハードルを高くしすぎないようにしましょう。 
  2. 採用広報を行う
     自社の知名度向上と広報に努めましょう。人材を求めているのであれば、ホームページを開設して採用コーナーを設けることは必至です。また、SNSやオウンドメディアを活用して、自社の魅力を発信し、求職者に自社の仕事内容を理解してもらうようにしましょう。
  3. 職種別の給与体系を確立する
     自社にとって要となる重要な職種に就いている社員、代わりが効かない仕事を担当している社員、企画・クリエイティブ部門や営業職で売上に貢献している社員などは、他の一般職と給与で差別化を図る必要があると言えるでしょう。企業の売上への貢献度を測るために給与に差を設けることは当然と言えますし、Z世代は納得すればそれを望む傾向があります。ジョブ型雇用の職種を明確にし、ある程度の成果主義を目指すのであれば、職種別の給与体系を確立する必要があります。
  4. 自社の魅力を具体的に伝える
     他社にはない特徴を言語化し、採用サイトや求人広告、説明会などで伝えましょう。魅力は具体性がないと伝わりにくいものです。面接時に、入社して1年目、3年目、昇格した場合など、売上の上昇と共にそれぞれの給与がどのくらい上がるのかを提示したり、クリエイティブな仕事をしているところを動画にしたりして、具体的に独自の魅力をしっかりと伝えましょう。
  5. デザイン経営に注力する
     デザインを重視し、さまざまな企画を考え、デザイン力をつけることは人材の獲得や社員の定着化に良い影響をもたらします。Z世代もデザイン経営を推し進めている会社には関心を示すものです。是非ともデザイン経営を推進していきたいものです。

キャリアパスを示す取り組みを

 最後に、「キャリアパス」について言及します。キャリアパスとは、端的に言えば、「目標とする職務や職位にたどり着くまでの道筋」になります。企業が小規模になればなるほどキャリアパスを提示することが難しいのが実情ですから、多くの印刷会社でキャリアパス制度を確立しているところは少ないでしょう。
 組織の中で目指すキャリアに向けて、どのようなステップを踏んでいくのか。組織内での出世や昇進を具体的に示すことは、先の表にある「やりがいを感じられること」「いろいろな知識やスキルが得られること」「会社の将来性があること」に通じます。Z世代はキャリアパスが示されていることを望んでいるわけですから、企業側もそれに応えていく必要があります。
 具体的には、「実際に活躍しキャリアパスを実現している社員からモデルを設定する」「社員が保有するスキルを把握・分析する」「目標達成に必要なスキルを身に付けられる研修制度を導入する」「スキルを等級ごとに明確にし、評価シートを策定し評価制度を設ける」といった、キャリアパス制度を整備することが求められます。キャリアパス制度は既存の社員に対しても有効ですから、定着率を高めるうえでも是非とも取り組みたいものです。

Z世代 Monthly Report