進化するサイン・ディスプレイ
デジタルサイネージの最新事情と技術動向
デジタルサイネージの最新事情と技術動向
サイン・ディスプレイと言えば、金属の看板、布製ののぼり・旗・幕、ポスター、窓ステッカー、そしてネオン看板といったものなどがあり、用途に応じてスチール、ステンレス、アルミなどの金属から、木材、布、紙などさまざまな素材で製作しています。これらのサイン・ディスプレイは現在でも主流ですが、近年はデジタル技術で液晶ディスプレイやプロジェクターなどを使って、映像や情報を表示する「デジタルサイネージ」が増えてきました。昨今では、LED電球によるLEDビジョンがデジタルサイネージの主役になりつつあり、サイン・ディスプレイの技術が進化しています。デジタルサイネージは、印刷業界にとってもグラフィックデザインや映像制作で関連しており、ビジネスとして取り組める分野です。今回は、市場の拡大が見込まれるデジタルサイネージの最新動向を紹介します。
市場が拡大し多様化するデジタルサイネージ
GC業界でもサイン・ディスプレイ市場に参入している組合員が散見されますが、その多くが大判UVインクジェットプリンターを使っての印刷がほとんどと言えるでしょう。大判UVインクジェットプリンターは、多品種小ロット印刷に適したプリンターとして導入が進んでおり、紙以外の媒体にもダイレクトに印刷できるのが特長です。しかも昨今のインクジェットプリンターは高画質で印刷できるため、それが高品質を求める印刷会社に受け入れられている1つの要因になっています。
大判UVインクジェットプリンターは、イベントや展示会のブースの装飾用途から大型商業施設・オフィス・各種店舗の空間演出用まで幅広く利用されており、単なる看板広告の域を超えて多種多様な用途への印刷が可能です。
そんな大判UVインクジェットプリンターは、新規ビジネスを拡大する上で重要な設備になりますが、特に注目したいのがデジタルサイネージです。デジタルサイネージもサイン・ディスプレイに使われており、今では用途が多様化し、屋内、屋外のあらゆるシチュエーションで利用されるようになりました。
設置方法も床置き、壁掛け、天吊りなどバリエーションが豊富になっていて、広告媒体の範疇に収まらない使われ方をすることも珍しくありません。右の写真のように受付カウンター周辺自体をLEDビジョンで設営した製品も現れています。
デジタルサイネージの市場は、この10年ほどの間で3倍近く拡大しており、グラフィックデザインを業務にしているDTP・製版会社においては、印刷以外の事業で第2の柱となる可能性が出てきています。デジタルサイネージ広告市場は今後も拡大していくことが見込まれており、2027年には2022年の倍以上の市場規模になると推定されています。印刷業界のデジタル化、IT化が求められていく中で、デジタルサイネージは取り組み方次第で十分ビジネスとして成り立つと言えるでしょう。(グラフ参照)
今後期待されるLEDビジョンの特徴とメリット
改めてデジタルサイネージの活用できるビジネスシーンを見ますと、オフィス・工場内の掲示板、災害情報、金融情報などのインフォメーション分野、イベント・展示会などの情報案内、セミナー・研修会での表示ボードなどがあります。そして、街頭大型ビジョン、パブリックスペースでの広告媒体、店頭看板、POP、キャンペーン告知、商品訴求、メニューボードとして使用されています。また、プロジェクションマッピングなどのエンターテインメントの空間演出も挙げられます。
制作するコンテンツとその展示方法は、用途や設置場所によって違ってきます。屋内で使用するのであればTVをそのままディスプレイとして使うことが可能ですが、屋外では風雨に耐えられるサイネージ用ディスプレイを使用するのが望ましいです。通常のディスプレイは1,920×1,080px(207万3,600画素)の画面解像度で、TVCMなどもこの解像度で制作されています。
また最近は、赤・青・緑の3色のLED素子(発光ダイオード)をひと固まりにしたピクセルの集合体であるLEDビジョンが台頭してきています。LEDビジョンは3色のLED素子を均等に配列したLEDユニットを作って、それを複数連結させたものです。ビジョンを構成するLED素子の距離(ピッチ)の細かさとLEDビジョンのサイズによって解像度が決まってきます。見る距離が離れれば離れるほど解像度が上がっていくため、大きな画面を離れた場所から見ることに適しています。
一方、液晶ディスプレイは近距離で鮮明なコンテンツ表示ができるという強みがあります。数センチくらいの距離からコンテンツの質感をダイナミックに見せることができるのが特長です。そのため、液晶ディスプレイは店内などの近距離で見る場合に適していると言えるでしょう。
LEDビジョンのメリットとしては、以下が挙げられます。
- 外光に負けない視認性の高さがあり、高輝度で非常に明るく表示する。
- 耐久性は約5万時間あり、液晶ディスプレイと比較して寿命が長い。1日10時間点灯させるケースであれば、設計上10年以上利用することも不可能ではない。
- 枠(ベゼル)がないため、複数のビジョンを組み合わせて大きな画面にすることができる。
- 屋外用のLEDビジョンは防塵、防水設計になっているため、風雨や砂風、塩害に強い。
- 消費電力が少なく、耐久年数が長いため、ランニングコストが安い。
一方、デメリットとしては、初期導入費用が液晶ディスプレイなどと比べると高くなるということと、熱に弱く、表面温度が50度を超える環境下では故障が発生する可能性が出てくる点です。
透過型フィルムLEDビジョンの可能性とビジネス
最近は、透過型LEDビジョンが開発されており、期待が寄せられています。透過型LEDビジョンとは、その名の通り背景が透けて見えるLEDビジョンのことで、LEDが格子状にブラインドカーテンのように並んでおり、パネルは最大80%もの透過率があります。店舗の窓に透過型LEDビジョンを設置すれば外光を遮ることがなく、室内空間の明るさを維持することができます。
2023年3月に、東京駅八重洲口の東京ミッドタウン八重洲で、日本で初めて外壁に透過型フィルムのLEDビジョン(縦約18m×横19m、約350㎡)がお目見えしました。透過型フィルムLEDビジョンは、透明なフィルムに回路を形成し、LEDチップが実装されたLEDビジョンです。既存の窓ガラスをディスプレイ化することができる技術ということで、新たな需要が見込める手法として注目されています。
透過型フィルムLEDの中には、フィルムとLED回路の間にOCR(シリコン透明樹脂)が装着されているものもあり、LED回路が安定し曲率や耐久性が従来品と比較して向上しています。
透過型LEDビジョンの特長は、透明であるため視界を遮らず、室内から遠くの景色も見えることです。しかも、設置場所を選ばず、窓ガラスだけでなくどこにでも設置できて幅広い用途に使えます。また、従来のLEDビジョンに比べて軽量で、設置や移動がしやすいという点もメリットです。急な設置が必要になった場合もスピーディーに対応することができます。今後、市場拡大が見込めるデジタルサイネージとして期待されています。
顧客の販促施策の課題を解決する方法として、デジタルサイネージを活用するケースが増えています。商業施設のイベント紹介や小売店で回転の早い商品では、マーチャンダイジング施策が重要になってきますから、地域や店舗事情に即応できるデジタルサイネージの役割は大きいと言えるでしょう。
規模に関わらず、商業施設でのデジタルサイネージはそのメリットからますます活用が見込まれています。情報発信がリアルタイムかつ柔軟に行えるため、最新のプロモーションやイベント情報を、デジタルならではの洗練されたデザインや動画で素早く伝えることが可能です。
対話型のコンテンツやインタラクティブな要素を導入することで、来店者に参加を促し、コミュニケーションを図れます。QRコードを活用して特典やクーポンを提供することもできますし、顧客行動データを分析し、個別のニーズに合わせたターゲティング広告を展開することも可能です。
しかし、デジタルサイネージで配信するコンテンツは、静止画にしても動画にしても制作から配信までの運用を顧客に代わってすべて印刷会社で行うのは、これまでの印刷物のワークフローとは異なってくるため、ハードルが高いかもしれません。その場合は、案件によってはデジタルサイネージの運用に長けている企業とコラボレーションすることも考えたいものです。顧客を獲得するまでの営業と、受注した後の顧客管理とコンテンツ制作は印刷会社が自ら行い、デジタルサイネージの機器の設置、運用、ハードのアフターサービスについては、メーカーや専門業者に任せるという方法もあります。
AIと融合したデジタルサイネージで新たな需要が拡大
さて、最新のデジタルサイネージの技術動向を見ますと、AIを活用することで、コンテンツのパーソナライズやリアルタイムデータの分析を行い、ターゲットに合った広告の精度を高めるデジタルサイネージが出現しています。AIカメラを使用した視線認識機能では、人の瞳孔の動きを検知して視線を追跡するアイトラッキングという技術があります。小売店で活用する場合は、来店客が実際に広告のどの部分を見ているかを把握し、視聴する広告に合わせてコンテンツを調整することで、商品陳列の最適化を図ってマーケティングに役立てていくのが目的です。
アイトラッキングによるデジタルサイネージの視認状況を分析することで、来店客がどの広告を多く見たか、見た時間帯、回数などを分析し、コンテンツ制作にフィードバックする動きが出ています。
さらに、触れることで情報を取得できるディスプレイや、ジェスチャー認識技術を組み込んだサイネージが登場しており、顧客とのインタラクティブな体験を実現するデジタルサイネージがこれからのキーワードになってくるものと思われます。これにより、ユーザーとの間で双方向の対話が実現し、そのインタラクティブ性によって広告、情報提供、エンターテインメント、教育など、さまざまな分野で利用が広がっていくものと見られます。
今後、注目されるデジタルサイネージとしては、生成AIアバターを搭載した対話型のカスタマーサービスの提供です。その代表格は株式会社ティファナ・ドットコムが提供している「AIさくらさん」で、AIアバターが顧客の質問やニーズに対してリアルで流暢な対話で応答するデジタルサイネージを実現しています。
|