自社商品を開発・販売し新事業へ進出!

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アイデアを具現化し企画力・デザインで売っていく

アイデアを具現化し企画力・デザインで売っていく

印刷業は、顧客のデータを預かってその通りに印刷し、顧客に納品するという事業ですが、印刷物の需要が減少し印刷産業が縮小していく中で、新規市場の開拓として商品を自ら考案・開発し、モノを販売するビジネスも考えたいものです。印刷技術の発達で紙だけでなくさまざまな素材に印刷できるようになった上、商品はeコマースで簡単に販売ルートを持つことができます。ただし、売れる商品を作るためには、消費者を惹きつけるアイデアを出して企画し、魅力的なデザインを考える力が求められます。今回は印刷関連会社が自社開発した商品の紹介と共に、商品を企画し売っていくために何をすれば良いのかを探ってみました。

マーケティングを含めて総合的に考える

 印刷会社が商品を開発する場合、どのような課題があるでしょうか。今日では多くの印刷会社が印刷技術や素材を工夫して商品を作っており、モノを作ることのハードルが低くなっています。ただし、売上が出てビジネスとして成り立つかどうかは別問題で、さまざまな課題があるといえるでしょう。

 商品開発のアプローチの仕方としては、培った印刷技術を活かして、新たな工夫やアイデアを出して、他社商品との差別化を図っていくことが重要になるでしょう。またどのように売っていくのか、マーケティングの方法も非常に重要になってきます。マーケティングの仕方次第で売れ行きが大きく異なってくることは往々にしてあることです。その点も考慮して商品開発に臨む必要があります。

 印刷会社が自社商品を開発する場合、その多くは自社の印刷技術や紙もしくは素材を使って考えるケースがほとんどだと思われます。印刷事業と並行して商品を作るとなると、全く印刷と関係ない商品を開発するのはリソース不足が問題となり、非常にリスクが高くなります。そのため、商品をゼロから開発するのではなく、「いまあるリソースから商品を企画する」という考えで臨むのが良いでしょう。

 つまり、「従来の製品の素材を紙に変えて簡単に作れる、利便性の高い低コスト化した商品」、あるいは「新しいアイデアを出して企画を考えたオリジナリティのある商品」の2つのアプローチが考えられます。例えば、前者は段ボールで作った机などが挙げられますし、後者は県民色を出した地元カルタなどが当てはまるでしょう。

 そんな商品は既に市場に出回っているので売れないと思われるかもしれません。もちろん、単に従来の素材を紙に変えただけの商品であれば競合と価格で比較され売れないかもしれません。そのため顧客に受け入れられるようにアイデアを工夫したり、魅力あるデザインを施したりして差別化を図る必要があります。買ってくれるためにどのような工夫をすればよいのか、マーケティングを含めて総合的に考えなければなりません。販売ルートに関しては、前述したeコマースを活用することは不可欠ですし、その際はターゲット層に合わせたマーケティングを展開したり、SNSを使って口コミを利用し拡散したりすることも重要です。

プロトタイプを作り市場調査を行う

 では、売れる商品とはどういうものなのでしょうか。紙製品であれば真っ先に文具製品が浮かびますが、市場には実に多種多様の商品が出回っています。少し見方や発想を変えて差別化を図ることに注力しなければならないでしょう。また、企業の販促品にするか、消費者に直接売る商品にするのかを決めなければなりません。

 商品を企画する上で必要になるのがプロジェクトに携わるスタッフです。小規模印刷会社の場合はトップダウンで物事を決めていきますから、前提として社長自らが自社商品を作るという熱い思いが不可欠です。まずは社員に自社商品を作って売っていくという経営方針を明確に打ち出して、商品企画チームを形成していくことが求められます。

 商品企画チームにはそれぞれの部署から少なくとも1名は参加し、定期的に会議を開き考えや意見を交わしながらコミュニケーションを図って進めていく必要があります。
 チームが主体になって商品を企画していくわけですが、自社の人員体制と印刷関連機材からどんな商品が企画できるのか、それは社内一貫体制で生産できるのか、それとも他社とコラボレーションして作っていく必要があるのかを見定めなければなりません。その際に明確なビジョンと目標設定が不可欠になります。

 企画を考える際に、アイデアを出し合うのは言うまでもありませんが、完成までの期限や目標を決めないまま進めてはいけません。最初にチームリーダーの下で、ある程度具体的な目標とスケジュール、またチームスタッフのそれぞれの役割・仕事内容を決めて取り組んでいくことが大切です。

 商品は消耗品ですから、一度購入してもらえたらそれで終了というのではなく、リピートしてもらうことを念頭に考えましょう。同じような商品が既に他社から販売されているのであれば、競合商品の売れ行きやターゲット層を調査し、自社商品のポジショニングを決めていきます。同じターゲット層を避けて別のターゲット層を狙うのか、あるいはあえて同じターゲット層にしてオリジナリティや価格で勝負するのかを決める必要があります。

 次に商品企画についてですが、企画ではアイデアを出して具現化していくわけですが、チームで考えられるアイデアをなるべく多く出し、そのアイデアをスケッチで示して皆に分かりやすく提示します。その中から話し合って決定したら、商品に適した製造手法や素材、デザインを考えていきます。その際に売りたいターゲットを想定し、「どのような顧客層に買ってほしいのか」「どのようなシーンで使ってほしいのか」「どのような利便性・メリットが与えられるのか」を考えます。

 そして、プロトタイプを製作して、それを街頭でターゲット層と思われる消費者に提供し、「売っていれば欲しいかどうか」「好きなデザインかどうか」「改良するとしたらどこか」などをインタビューし市場調査します。

 その結果、当初決めたターゲット層にマッチし、また商品が好印象であったのであれば、いよいよ商品の製作に取り掛かることになりますが、ターゲット層に不人気であったならば、企画やデザインを変更する必要があります。このように、市場のニーズを把握するための情報収集は非常に重要になってきますから、チーム全員で臨むことが求められます。

エシカル商品を視野に入れて企画する

 売れる商品には、「売りたい目的やターゲットが明確になっている」「購入することでベネフィットを得られる」「消費者の不便さや不満を解消できる」といった要素が挙げられますが、印刷会社が企画する場合は紙製品か、従来の素材を紙に変えた商品になることが多いため、上記の3つの要素と共に消費者の心に刺さるアイデアとデザインが重要になってきます。

 そこで、商品コンセプトを作る上でのキーワードの1つとして「エシカル商品」があります。エシカル商品とは人や社会、環境を意識して作られた商品で、リサイクルや省エネ、オーガニックなどの素材や製法で作られ、エコマークや資源保護などの認証が示されているものです。今日の消費者はエシカルに敏感ですから、エシカル商品に該当する商品企画を念頭に置いて作っていくのも良いでしょう。

 また、「見て楽しくなる」「かわいい」といった商品は、魅力的で購入のポイントになります。ターゲットに合わせた色彩、形状、絵柄などのデザインは言うまでもなく重要ですから、商品そのものからパッケージに至るまでブランディングを意識したデザインを考えていくことが大切です。

 さらに、今日では商品開発や会社の取り組み方について注目されるようになり、顧客に商品が生まれた物語を伝える傾向が出てきました。顧客が商品に対して「共感」できるようストーリーを作っていくことも考慮しましょう。

自社開発商品の事例紹介

環境配慮型 : エコペーパーによる環境に配慮したサステナブルの「やさしい封筒

 平和紙業株式会社  (東京都中央区)が開発した「やさしい封筒」は、製造工程上でゼロ・ウェイスト(ごみゼロに向けて廃棄物をできるだけ減らそうとする活動)を実践した封筒です。常備在庫販売を終了した商品をはじめとした環境に配慮した紙を使用して製造しています。一般的な封筒や紙袋を作る際には、その工程で多くの端材が出てしまい、その端材はごみになります。「やさしい封筒」は、誰にでも簡単に組み立てられるシンプルなデザインで、使用している紙は既定のエコロジーペーパー3種類と、オーダー時期によって変わる常備在庫販売を終了した商品1種類の合計4種類の環境に配慮した紙の中から選んでいます。

 開発のきっかけは、販売を終了した紙を再利用したいという社員の想いから生まれました。商品名や社名・企業ロゴはデボス加工(インキを使わない型押しで紙を凹ませる加工方法)によって、立体的に表現することが可能なのが特徴です。組み立て式のためテープや糊が不要で、繰り返し使用することができる点もメリットです。配布物を布やプラスチックバッグからサステナブルに代替素材に置き換える企業などへの販売が考えられます。

SDGs対応 : 障がいのある方のアート作品をお菓子のパッケージデザインにして販売

 株式会社MDホールディングス  (大阪府東大阪市)は、株式会社ノーサイド  (大阪府東大阪市) が運営する障がい児者総合福祉施設ノーサイド(以下、ノーサイド)の「ひとつなぎプロジェクト  」に賛同し、障がいのある方が描いたアート作品をお菓子のパッケージにデザインした「アートボックスシリーズ」5品を、同社のオンラインショップで、限定で発売しています。

 ノーサイドが運営する「ノーサイド横沼  」で活動するアーティストたちの作品は、かわいらしいものや繊細なもの、大胆なものなど個性溢れる作品に満ちています。これらのアートとお菓子を組み合わせることで新しい価値を生み出し、アートボックスの販売を持続可能な事業に育てることで、アーティストたちのやりがいに繋げています。お菓子を通して、ノーサイドのアート活動だけでなくその想いやさまざまな活動を周知させ、「ひとつなぎプロジェクト」をより一層盛り上げ、「つながる社会」の実現に向けて取り組んでいます。

 「アートボックスシリーズ」は、5種類の味が楽しめるラインナップを用意し、贈答品用のギフトボックス、来客時のお茶請け用、普段のおやつとしてなど、さまざまなシーンでの利用を促しています。また、「アート個包装」は、7名のアーティストが生み出したさまざまな作品の中から20作品を厳選し、1製品に20作品がランダムに20袋入っていて、一つひとつのデザインや作品のタイトルを見ながら楽しめるようになっています。

受け狙い型 : いけず文化を活かした「裏がある京都人のいけずステッカー」

 「つまらない」「みっともない」など、あらゆる「ない」からコンテンツの企画・制作を行う「ない株式会社  」(大阪市淀川区)と京都のデザイン事務所「CHAHANG  」(京都市中京区)は、このほど、京都の「いけず文化」をお土産にした「裏がある京都人のいけずステッカー」を京都府の各店舗にて販売開始しました。同商品は「いけず」が持つ「言いづらいことを遠回しに伝える」という特性を活かし、京都府外の人が言えずじまいな本音を京都人に代弁させることをコンセプトに開発したものです。

 表面は丁寧な言い回しになっていますが、どこか意地悪で「いけず」な建前が描かれ、裏面を覗くと隠れていた京都人の本音を知ることができるデザインで、表裏の両面ステッカーになっています。製造は京都で60年以上印刷業を営んでいる有限会社修美社に委託し、試行錯誤を重ねて「裏面を剥がしてテープにする」という構造が実現し、京都人の二面性を1枚で表現することに成功しました。

 「トイレ」「玄関」「食卓」「ポスト」という4つの場面のデザインが制作されており、さすがに大阪の企業が企画・デザインしただけあって、ユーモア溢れるステッカーになっています。因みにステッカーのモデルは、京都にある扇子の製造卸・販売の大西常商店4代目女将の大西里枝さんとのことです。

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