生成AIを活用し業務を効率化する
さまざまな印刷ビジネスで使える頼もしいツール
「生成AI」(ジェネレーティブAI)
「生成AI」(ジェネレーティブAI)という言葉をご存じでしょうか。生成AIとは、自ら答えを探して学習する深層学習を用いて、クリエイティブな成果物を生み出すことができるAIを指します。生成AIの代表格と言えば、文章を生成する「ChatGPT」があり認知されつつありますから、おそらく業務で活用している人がいることでしょう。生成AIは他にも、画像コンテンツを生成する「画像生成AI」や、動画を生成する「Gen-2」などがあります。生成AIはクリエイティブな成果物を生み出せるものとして注目されており、今後あらゆる業務をサポートするツールとして活用が期待されています。今回は、印刷関連会社が業務で生成AIを活用する場合に、どのような使い方があるのか紹介します。
用途は多彩でさまざまな文章制作を支援する
生成AIには、文章生成、画像生成、動画生成、音声生成などいくつか種類があり、使い分けることで目的の成果物(コンテンツ)を生み出すことができます。中でも特に注目され使用されているのが、文章生成と画像生成の生成AIです。ユーザーがテキストを入力して数秒から数十秒で自動的に成果物を生み出しますから、業務を効率化するだけでなく、コストを削減することもできます。そのため生成AIを導入する企業が増え、生成AIの市場が拡大しているところです。印刷業界においても、いずれほとんどの企業が利用していくことになるでしょう。
今や誰もが知っていると思われる生成AIに「ChatGPT」があります。対話型AIの代表格として取り上げられていますが、インターネット上にある大量のテキストデータから学習し、質問に答えたり、自然な文章を生成したりするのを得意としている生成AIです。
日経クロステックでは、今年7 月「製造業におけるChatGPTなど生成AIに関するアンケート調査」(回答数219)を実施しました。それによると、生成AIの使用が急速に増加していることが窺えます(グラフ参照)。「生成AIをどのように活用しているか」という設問に対して、「テキストの作成・確認」と回答したのが59.8%と最も多く、社内外の資料や各種マニュアル類の雛形の生成で活用していることが分かります。
テキスト生成の用途としては、メールや報告書、営業日報などの作成、プロジェクトの戦略立案時におけるアイデアの発想・提案出し、外国語の翻訳、プレゼンテーション資料やスライドの作成のサポート、ホームページ上で顧客の質問に回答するカスタマーサポート、会議やイベントのスケジュール管理など、実に多彩な文章の生成に使われています。
外国語の翻訳ではそのまま翻訳事業に活用することができます。外国語で作られたさまざまな媒体や本を日本語に翻訳したり、あるいは逆に日本語の媒体や書籍を他の言語に翻訳して販売したりすることで、インバウンド関連のビジネスを始めることができます。もちろん、翻訳した内容が正確であるかどうかを確認するネイティブの校正者のチェックが不可欠ですが、プロの翻訳業者に外注して翻訳事業を開始する必要がなくなり、翻訳業の敷居が低くなったと言えるでしょう。
ビジネスに利用でき事業化が可能に
また、生成AIで最も活用が進んでいる分野がカスタマーサポートで、ホームページにアクセスした顧客や見込み客の質問に答えることができる点に注目が集まっています。例えば、ChatGPTに自社データを組み合わせて、FAQ(Frequently Asked Questions=よくある質問)を自動生成する機能をホームページに設けると、顧客が自社製品やサービスに対して質問すれば、自社で保有しているデータの中から必要なデータを抽出して回答を生成します。これまでは問い合わせや質問には社員が答えていたわけですが、生成AIが即座に回答することで大幅な時短化と人件費などのコストダウンを図れます。このFAQの自動生成は、今後ますます市場が拡大していくものと思われます。
アンケートで次に多かったのが「プログラムの作成・確認(制御用プログラムなど)」(35.6%)です。プログラムの作成は専門スキルを要するものですから、基礎から学ばないと書けないわけですが、プログラムを学習した人によると、ChatGPTの実力に驚かされるそうです。
初心者ということを前提に記して、「簡単なゲームのプログラムを書いてください」と入力すると、初心者向けのゲームエンジンから始めることを教えてくれるのですが、その後で、「Scratch(※)でゲームを作っています。プログラムをスーパーマリオ風に書いてください」と指示すると、2~3分でScratchを使用したスーパーマリオ風ゲームのプログラムのたたき台を生成し、アドバイスまで提示してくれるというのです。もちろん、問題なく稼働するプログラムを作成するには、ChatGPTに適切な質問を繰り返し行って修正していく必要がありますが、プログラムの作成時間を大幅に短縮できるということで、プログラマーの間では利用価値が高いという評判を得ているようです。( ※ScratchとはC言語をベースに開発された教育用プログラム言語のこと)
アンケートの3位に「試作や実験の計画」(18.3%)が入り、次に「マーケティング施策(顧客ニーズ分析や製品企画)」と「画像や動画の作成・確認(実験結果や促進用コンテンツなど)」が同値の17.8%で4 位となり、5位に「CADや技術計算ソフトのコマンドスクリプト(マクロ)の作成」(16.4%)と続いています。
マーケティング施策は、印刷業では顧客に媒体制作を提案する際に、顧客のニーズを裏付けるための統計を作成し分析内容を提示する必要がありますから、そのようなデータづくりやグラフの作成に役立ちます。
このように、ChatGPTなどの文章系生成AIは、社内業務の文章作成を支援するだけでなく、マーケティング施策の企画書づくりからプログラムの作成まで支援できるため、さまざまなビジネスに活用できるということで普及しつつあります。

キャッチコピーのアイデア出しも
現在、ChatGPTでは高機能版のChatGPT4が月額20ドル(約2,800円)で使用できますが、これと同等の機能を持つ無料の生成AIツールとしては、Microsoft社が提供する「Bing AI」やGoogle社が言語生成AI「LaMDA(ラムダ)」を利用して開発・提供している「Bard」などがありますから、文章の生成ではこれらを使用するのも得策です。
ここで、その無料の「Bing AI」を使った具体的な事例を示してみます。「Bing AI」はMicrosoftの検索エンジン「Bing」に、ChatGPT4と同じGPT-4を搭載した生成AIです。Bing AIに「芋ようかんのチラシを作るのでキャッチコピーを5つ考えて」と入力したところ、以下の5点のキャッチコピーとサブコピーが生成されました。
- 1. 秋の味覚、ほっくり芋ようかん
秋の味覚を楽しむなら、ほっくりとした食感の芋ようかんがおすすめです。 - 2. 芋の甘さがたまらない、芋ようかん
芋の甘さがたまらない、秋にぴったりの和菓子、芋ようかんをぜひご賞味ください。 - 3. 秋の風情を感じる、芋ようかん
秋の風情を感じることができる芋ようかんは、秋の味覚を存分に楽しめます。 - 4. 秋の味覚を楽しむ、芋ようかん
秋にぴったりの和菓子、芋ようかんで、秋の味覚を楽しんでみませんか? - 5. 秋にぴったり、芋ようかん
秋にぴったりの和菓子、芋ようかんは、秋らしい味わいが楽しめます。
以上が私からの提案です。どれも魅力的なキャッチコピーだと思います。
最後は、AI自らが生成したキャッチコピーを魅力的と自画自賛しているのですが、確かにアイデアの提案出しという点では大いに活用でき、そのまま使用できるレベルと言えるでしょう。これらのキャッチコピーを基に、さらに修正してより良いキャッチコピーを考えることもできます。
このように数秒でアイデアを提示し、しかもかなり的確なキャッチコピーを生成できるとなれば、チラシやパンフレット制作で大いに活用できるのではないでしょうか。
画像生成は説明の仕方と質問力が問われる
また、画像生成AIに関しては、デザイン業務で大いに関わってくるツールになりますから、今後イラスト制作は案件によって外部のイラストレーターに依頼する場合と内製化する場合とにすみ分けられてくるかもしれません。これまでは広告制作会社や印刷会社でプロのイラストレーターにイラスト制作を発注していたものを、画像生成AIを使って内製化することも可能になるからです。簡単なイラストや図であれば、生成AIを使って思い通りのコンテンツを制作することが実現できますから、イラスト分野の時短化とコストダウンが可能になるでしょう。
ただし、素人がいきなり画像生成AIを使っても思い通りのイラストを生成するのは困難です。テキストを入力する時に、分かりやすい指示やかみ砕いた質問力が問われるからです。目的に応じた最適な画像を生成するためにはそれなりのスキルが必要になるわけです。
例えば、Microsoft社が開発した画像生成ツール「BingImage Creator」を使うと、入力したテキストを基に数秒で画像を生成することができます。Bing Image Creatorは、ChatGPTのOpenAIが開発した画像生成モデル「DALL-E」の先進バージョンを搭載した、高性能の画像生成ツールです。
同ツールは、Bing.comやMicrosoft Edgeブラウザで無料で利用でき、日本語にも対応しています。また、同社の対話型AI「Bing AI」でもテキストを入力するだけで、「Image Creator」が機能し数秒から数十秒後に画像を生成できるようになっていますから、使いやすさではお勧めのツールと言えるでしょう。4点のニュアンスの異なる画像を生成し、生成した画像はダウンロードして使うことができます。
例えば、「月を見ながら月見団子を食べている家族の絵を描いて」と入力すると、数秒後に4点のイラストを生成します(イラスト参照)。この中から選んでそのまま使えるわけですが、ただし、Image Creatorで生成した画像は商用利用できないのがデメリットです。つまり、営利目的の成果物制作では使えないため、企業が生成したイラストを商用利用したい場合は、それが可能な生成AIを使用する必要があります。
画像生成は商用利用が可能なものを
商用利用が可能な画像生成AIでは、Adobe社が提供している「Adobe Firefly」があります。企業向けの「AdobeFireflyエンタープライズ版」では生成した画像を商用利用することが可能です。Adobeのアカウントがあれば無料で利用できますし、印刷業界にとってAdobeと言えば、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などのソフトを日常で使用していますから親しみがあるでしょう。AdobeFireflyは既にPhotoshopに統合されていますから、生成した画像が著作権を侵害せず商用利用できて、他の画像生成AIよりも安心して使用できます。
また、先ごろAdobe 社は、Adobe Firefly を搭載したAdobe Expressの最新バージョンの一般提供をデスクトップ版で開始しました。詳細は省きますが、写真、デザイン、動画、ドキュメントなど多様なコンテンツの作成に活用できますから、印刷業者としてはチェックしてみる価値が大いにあると言えます。
このように画像生成AIは、誰もが画像を生成できて大幅に制作を時短化しますから、今後、DTPの現場や営業部門で利用価値の高いツールとして広がっていくものと思われます。
しかし生成AIは、現時点では専門用語を調べる時に検索エンジンの代わりとして使用したり、文例の提示やヒントになるものを探したりする場合など、「新しいコンテンツの生成を支援する」域までは及ばない「検索」の範囲での使用に限られているケースが多いのが実態です。
印刷業としては、生成AIは文章や画像のコンテンツの生成を内製化できるツールとして利用価値がありますから、社内業務はもとより、生成AIが生成した文章を顧客のニーズに合わせてオリジナリティを持たせたり、アイデアをプラスしたりして、顧客に有益な提案を可能にするツールとして導入したいものです。
ただし、顧客も生成AIを使用するようになりますから、コンテンツづくりの在り方が変わってくる可能性があります。「生成AIではこう言っている」と、顧客から返ってきた時に適切に答えられるよう生成AIと共存していくことが問われてきます。
生成AIはあくまでもサポートツールであり、インターネット上のデータからそれらしい回答を生成しているに過ぎません。生成した文章やコンテンツは使用する前に、誤データ、偽データが含まれていないか、既存の文章やコンテンツに類似したものがないかを確認することを怠ってはいけません。また、生成AIが学習元のデータのどの部分をどのように利用しているのかがブラックボックスになっていて分かりませんから、生成した文章に権利侵害が発生する可能性がゼロとは言えません。リスクをしっかりと理解した上で使用していくことが大切です。


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