生産工程の自動化·ロボット化 最新事情
生産工程の自動化·ロボット化 最新事情
~印刷業の生産性向上・省力化に欠かせない自動化システム~
生産工程を自動化することは、業務効率化、生産性の向上、コスト削減が図られ、最終的に利益増に繋がります。印刷業界では、各工程において自動化・ロボット化が進められていますが、各オペレーターの作業をいかに自動化・省力化していくかがポイントになります。自動化は手作業を減らしてミスを防止し、作業を時短化するメリットがありますから、自社の業務内容を見直し自動化できる作業があれば自動化を図って、利益増に繋げていきたいものです。今回は、現在の印刷業で開発・提供されているDTP から印刷・製本工程までの自動化・ロボット化の最新事情について紹介します。
自動化はスマートファクトリーを促す
印刷産業に限らず工場における生産工程は、インターネットの発展に伴ってIoTによる機器間の連携がスムーズに行われるようになり、それが自動化に繋がっています。また、AIが機器やシステムに搭載されるようになり、生産性の向上をはじめ、精度の高いデータ分析や予測、安全性の向上、作業の省力化などを支援しており、今後はAI技術が生産工程の自動化を担っていくでしょう。
自動化は、労働力不足への対処や人件費の削減などの経営課題を解決するだけでなく、印刷物の多品種化、小ロット化、短納期化にも繋がるため、業務内容を見直し自動化できる部分はなるべく自動化を目指したいものです。
自動化は内製化を進めることができ、外注コストの削減やリスク回避が行えますし、人材の採用コストや教育コストを抑えることもできます。誰が機器を操作しても品質を保つことができるようになり、ベテラン従業員のスキルに頼る必要もなくなるわけです。そう考えますと、自動化はスマートファクトリーの根幹をなしていると言えるかもしれません。
DTPにおける自動組版の現状と可能性
DTPで最も自動組版が進んでいるのはカタログ制作です。現在、カタログ制作の最先端では、商品データのインポートからデータ編集・管理までを一元管理し、Webブラウザから商品情報を編集・登録し、紙媒体とWebを連携させて、紙とWebのカタログ制作を自動化しています。つまり、いかに業務を効率化させ作業の短縮化を図っていくかがポイントになっています。
しかし、カタログのような繰り返し定型レイアウトを使って組版するDTP以外では、その都度レイアウトを制作する必要があるため、自動化が難しいのが現状です。DTPではIllustratorやInDesignなどのDTPソフトを使った作業が主流になりますが、それらのソフトを使って自動化するには、品目ごとにDTPソフトを自動化するプログラミングを行う必要があります。
通常はDTPソフト用のプラグインを使って自動化するのが一般的ですが、ユーザーがプラグインの仕様に合わせる必要があるため、プラグインにない機能が必要な場合は手作業が求められます。DTPソフトに新たな機能を施すにはスクリプト※で命令することになりますが、スクリプトを作ることができれば、DTP制作でのオペレーターの操作を自動化することができるようになります。今後、DTPではスクリプトによる自動化をいかに進めていくかがポイントになってくるでしょう。
自動組版のワークフローでは、作業を効率的にするために自動処理に適したテンプレートを作ることが重要です。データがきちんと整って一括して入稿されるのであればスムーズに組版できますが、フォーマットが入稿ごとにバラバラで、しかも原稿も部分的にしか入稿してこないとなると非効率です。データ待ちの状態が頻繁にあるようでは自動化する意味がなく、自動組版のメリットは望むべくもありません。
そこでカタログ制作などで自動組版システムを導入する際は、まずは組版業務を効率化するために、データや演算に重きを置き、効率の良いデータづくりを行うことが先決です。要は印刷用データに置き換えるためにデータを整備することが重要になります。
自動組版システムや自動組版ソフトとして販売されている製品は、富士フイルム㈱の「Form Magic5 」、NECネクサソリューションズ㈱の「SUPER DIGITORIAL/EW 」、㈱Tooの「Ge-DALe (ジェダール)」、㈱ニューキャストの「DOT3 」、㈱プロフィールドの「カタログXCMS ®」、㈱ロココの「METAWORKS 」などがあります。これらのベンターの中には、ユーザーの注文に応じてオリジナルの自動組版システムを開発するところもあります。また、DTP制作会社の中には自社でプログラムを組んだり、スクリプトを作ったりして、専用の自動組版システムを構築している会社もあります。自社の印刷物に適したDTPの自動化はどういうものであるのか。カタログに限らず、チラシ、パンフレット、社内報、名簿、各種マニュアルなどの自動組版システムを模索してみてはどうでしょうか。
※スクリプト= DTPで繰り返し行う作業、複雑な手順で行う作業などを自動化するためのプログラム。
下版からCTP出力は自動化が進む
さて、生産工程の自動化といっても現場ごとに意味合いが異なり、完全自動化が可能な作業と、ある程度人手によるアナログ支援が要る半自動化の作業があります。
そんな状況下、製版工程では下版から面付け、CTP出力までを自動化するワークフローが進みつつあります。製版・印刷会社にとってはこの工程の自動化を進めることは、生産性を向上させる上で重要なテーマと言えるでしょう。
富士フイルム㈱の「tilia phoenix 」は、機材・資材コストをベースとしたプランニング作業や面付け作業を、AI技術を用いて自動化するソリューションです。MISなどからの受注情報や製版処理済みのデザインデータ、CADデータなどを読み込むと、利用可能な資材や印刷機の中から最適な組み合わせを選択し、同時に面付け・付け合わせパターンなどを自動生成した上で、印刷時間や製造コストの試算も併せて行います。
tilia phoenixは単なる「ギャンギングソフト」ではなく、受注情報に基づいて最適な製造の組み合わせとレイアウトパターンを、AI技術によって自動生成するのが特長です。導入している印刷会社では、生産時間や製造コストの計算も行えることから、営業部門が受注情報や登録した資材・機械情報からtilia phoenixが算出したプランニングをベースに、見積もりを作成することで精度の向上を図っているところもあります。
tilia phoenixはオープンシステムのため、CSVやXML、Excelをはじめ、DXF(CADデータファイル)やCFF2(コンパクトフォントファイル形式、CFFファイルのバージョン2.0)などのカットデータやJDFやJSON(JavaScript ObjectNotation)など、多岐にわたる入出力データフォーマットに対応しています。さらに、㈱Tooが提供するエンフォーカス社のワークフロー自動化ソフト「Enfocus Switch」と連携すれば、tilia phoenixを1つのモジュールとしてコントロールできるようになり、印刷会社の所有する既存システムとシームレスな接続が可能になります。
また、㈱SCREENグラフィックソリューションズでも、CTP工程を徹底的に自動化するプレート搬送自動化システム「CTP Transporter 」を提供しています。「CTPTransporter」とEQUIOS・PlateRiteシリーズを連携させて、CTP工程の自動化、省力化で生産効率の向上を実現しています。このように製版工程の自動化を突き詰めて省力化を図っていくことが、今後製版会社が目指す1つの方向性と言えるでしょう。
印刷・製本工程はロボットを活用
㈱小森コーポレーションでは、個々のシステムで連携が分断されている経営情報システム(MIS)、プリプレス、プレス、ポストプレスなどを中核ソフトである「KP-コネクト プロ 」で統合管理し、各工程をシームレスに繋ぎ最適化・自動化する「Connected Automation」を提供しています。
小森の印刷機と繋ぐプレスオートメーションでは、各印刷機の生産スケジュールの最適化や印刷オペレーターのタッチポイントを最小化することで、生産性を劇的に向上させることができます。RIPジョブの自動化、印刷スケジュールに同期した刷版の自動化、小森製オフセット印刷機のメイクレディ作業の自動化などを実現しています。
リョービMHIグラフィックテクノロジー㈱は、生産機器の全体最適化が肝で、そのための自動化・ロボット化を実現しています。簡潔に言えば、MISから統合ワークフローソフトを経由して印刷機がジョブ情報を受け取った後、紙積み装置で紙積みした用紙を、自動搬送ロボットにより印刷機給紙部へ搬送します。出力した刷版は、刷版自動仕分け装置によってジョブ単位で仕分けし、こちらも自動搬送ロボット「Nipper 」で印刷機へ搬送します。印刷機側では搬送されてきた刷版を「刷版供給システム」により、7色目、8色目ユニットに自動装填する流れになっています。これが同社の印刷工程における最新の自動化システムです。
さらに印刷した刷本は、紙揃え機に搬送、紙揃え後、断裁機で断裁加工する方法を提案しています。これからの印刷工場は工場の規模にもよりますが、生産機器がすべてネットワークで繋がり、自動搬送ロボットが紙や版を届けて設置するスタイルが、スマートファクトリーの姿なのかもしれません。
一方、デジタル印刷機は、オフセット印刷以上に生産工程の自動化が進んでいるのは言うまでもありません。版が不要ですからデータから紙に直接印刷で短納期化でき、材料のコスト削減でもオフセット印刷より格段に優位です。コニカミノルタ㈱では、自動品質最適化ユニット「インテリジェントクオリティオプティマイザー(IQ-501) 」で、他社に先駆けた出力調整や紙面検査の自動化技術をデジタル印刷システム「AccurioPressシリーズ」に導入して以来、次々とオペレーションを自動化し、省力化とスキルレスを提供しています。
各種製本システムを提供しているホリゾンでは、新ワークフローシステム「iCE LiNK 」で、クラウドを利用して複数の後加工機の一元管理を実現し、自動化を推進しています。稼働状況をリアルタイムで確認し、ログの取得や分析が可能になっています。同社は、ロボットを導入して製本作業を完全に自動化するスマートファクトリーを構想しています。本身投入ロボットの導入により、オペレーターの段取りや受注管理、製本計画など生産管理業務を効率化し、本身投入ロボットによる自動化で、無線綴じ製本システムを1人のオペレーターで稼働させることを可能にしています。
自動化構想の「印刷革新会」が誕生
2023年2月、印刷業務の自動化に向けて、印刷会社3社とベンダー3社による「印刷革新会」が発足しました。印刷会社3社が新たな設備投資を行い、ベンダー3社が提供する製品・サービスと自社の技術やノウハウを融合させて、印刷業務の自動化を推し進めていくものです。
印刷会社は、㈱クイックス(本社:愛知県刈谷市、岡本泰社長)、佐川印刷㈱(本社:愛媛県松山市、佐川正純社長)、㈱正文舎(本社:北海道札幌市、岸昌洋社長)の3社と、ベンダーは㈱J SPIRITS(本社:東京都千代田区、地代所伸治社長)、㈱ホリゾン(本社:滋賀県高島市、堀英二郎社長)、リコージャパン㈱(本社:東京都港区、木村和広社長)の3社で、この6社が協業していくことになります。
自動化構想では、リコーのデジタル印刷機「RICOHProシリーズ」をJDFで繋ぐことで、受注から印刷、後加工、最終仕上げ、箱詰め、在庫管理、発送までの全工程の完全自動化フローを構築していくとのことですが、3社の印刷会社がワークフロー像を描き、システム開発に要する投資についても費用負担をしていくとのことです。さらにこれを通して開発・完成したシステムについては、各ベンダーが自由に販売展開をし、印刷業界の発展に役立ててほしいとのことです。
この自動化構想で開発されたシステムと自動化ワークフローが、今後の印刷業のビジネスモデルとなり得るのかは分かりませんが、画期的な試みであることには違いなく、成り行きが注目されるところです。
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