ブランディングはホームページから始める
そこが知りたい!gcj MANAGEMENT(147)
独自性のある「ブランド・パーソナリティ」が必要
「ブランド」と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。誰もが知っている商品名、もしくはそれを作っているメーカーではないでしょうか。では、ブランドとは何でしょうか? “マーケティングの神様”と称されるアメリカの経営学者、フィリップ・コトラー教授は、「ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」と定義しています。
私たちが知っている企業を見た場合、確かにブランドネームやロゴマーク、あるいは商品からブランドを認識しているのがわかります。しかし、ブランドは企業のマーケティング力やイメージ、価値観など、さまざまな要素から形成されており、有形・無形が絡み合った価値全体を人々の心理に訴えかけて、ブランドが構築されています。
では、これは大企業だけの話でしょうか。中小企業のブランドは認知されないのでしょうか。そんなことはありません。中小企業にもマーケティングを行う上でブランドは必要ですし、それは中小印刷会社にも言えることです。
そもそも中小印刷会社はどこも同じような印刷をしているので、ブランドを形成するのは難しく、不可能に近いと思われるかもしれませんが、否、そんなことはありません。中小印刷会社にもブランドは必要ですし、むしろ中小企業だからこそ差別化するためにブランドが必要だという見方があります。そして、実際に印刷会社であっても、この厳しい経済環境下で経営を持続させているのであれば、それは何かしらのブランディングが行われていて、効果を上げている可能性が考えられます。
では、ブランドはどのように作られていくのでしょうか。ブランドを作っていくためには、ブランドの個性・独自性を際立たせるブランド・パーソナリティが必要だと言われています。モダンブランディングの父として知られている経営学者のデービッド・アーカー氏は、「ブランド・パーソナリティとは、そのブランドから連想させる人間的な特徴の組み合わせである」と定義しています。
例えば、アーカー氏は著書の中で、「マイクロソフトは尊大で強いパーソナリティだ」と述べ、このことから同社と顧客の本質について理解を得られると指摘しています。そこには同社から伝わる安心感や信頼感が窺えるわけです。一方で、あるクレジットカード会社がマイクロソフトと同様に「威厳があり、洗練され、自信に満ち溢れている」というブランディングで擬人化したところ、一部の顧客層からは「ハイクラスではあるが、お高くとまっていて、冷淡で、人を見下している」という印象を持たれたとのことです。このように、同じようなブランディングをしても、顧客によってブランドに対する受け止め方が大きく異なってくるということがわかります。
印刷会社を見た場合、一般的には、企業のポジショニング、製品属性(印刷物中心なのか、デジタルコンテンツに注力しているのか)、商品カテゴリー、顧客の意見、経営者の理念や人柄、営業担当者の行動、制作への対応などの情報から、ブランドが構築されていきます。しかし、これらの属性からの連想だけでブランドの特徴を示そうとすると、ほとんどブランドとして意味をなさないことがわかります。
インターネット上で強みや得意分野を強調し訴求する
例えば、「弊社はお客様のニーズに応えてあらゆるコンテンツを制作します」と、ホームページに記載している印刷会社がいますが、これだけではブランドの方向性を示しているとは言えないということです。この漠然とした説明では独自性や個性が感じられず、他社との差別化が図られていません。
自社のブランドを考えた場合、売上が多い得意先を見れば、どういった業種・顧客が発注してくれているのかがわかります。それらの企業から安定して受注できているのは、自社が同業他社よりも「メリットを感じてくれている」「好まれる要素がある」ということです。
「なぜ、弊社に発注していただいているのですか」と、顧客に直接尋ねてみるのも良いでしょう。すると、「社長とは公私ともども付き合いがあるので」「御社の営業担当者が熱心で細かいところまで面倒をみてくれるから」「最初に発注した時に丁寧に対応され、さまざまな商品を提案してくれた」「比較的安価で、内容も満足できたから続けて発注している」など、さまざまな理由を言ってくれるかもしれません。
では、BtoBにおけるブランディングはどのような手段で取り組んでいけば良いのでしょうか。目指したいことは「顧客が印刷物(あるいはデジタルコンテンツ)を作ろうとした時に、真っ先に問い合わせや相談をするような企業」になることです。つまり、「真っ先に選ばれる企業になる」ためにブランディングを行うわけです。ただし、印刷会社というのはインターネット上にも地域の中にもたくさん存在しているため、顧客の大半はインターネットで調べてから問い合わせを行うのが一般的です。そのため、まずはホームページを開設することが必須になります。そこで顧客がアクセスしてきた時に、少なくとも内容を聞いて見積もりを提示できるようにしたいものです。それを顧客が検討し承諾すれば、発注してもらうという流れを作ります。
ホームページを作らずネット上で詳しい事業内容がわからない印刷会社は、顧客に認知されないことになり、選ばれる可能性が限りなく低くなります。得意先がほぼ固定していて新たに営業開拓する必要がないという特別な印刷会社もいるでしょうが、万が一得意先が廃業した場合、取引がなくなり大きな痛手を被るのは印刷会社です。次の得意先を獲得するための営業が必要になってきます。少なくともホームページで自社の強みや得意分野を強調し、インターネット上で注目を集めアクセスしてもらえる状況を作っておくことは、インターネット時代のブランディングでは不可欠なのです。ブランディングを行う際には、まずはホームページで自社の強みを訴求できるようにしていくことが絶対条件と言えるでしょう。
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