印刷物は「情報伝達物」としてMUDに則して作る!
今回は、3月26日に大阪市浪速区に本社を構える株式会社モリサワの4階会議室をお借りして開催した、GCJ並びにGC近畿が主催するオンラインによるGCJ2023年度の存在価値事業のセミナーを紹介する。テーマは「メディア・ユニバーサル・デザイン」(MUD)で、講師は株式会社一心社 代表取締役社長の浦久保康裕氏。浦久保氏は大阪府印刷工業組合の理事長並びにメディア・ユニバーサル・デザイン協会の理事長に就いており、メディア・ユニバーサル・デザインを推進しているパーソンである。印刷物をはじめ制作物をデザインする時に、すべての人に情報を的確に伝えるのに必要なのが「メディア・ユニバーサルデザイン」という考え方で、そのMUDの必要性をわかりやすく解説した。
レクチャーズ・ルーム 59
株式会社一心社 代表取締役社長
浦久保 康裕 氏(講師)
浦久保氏は最初に「お客様に提供している印刷物は、情報伝達物であることを再度認識してほしいです。情報を伝える対象は誰なのかをしっかりと意識して、印刷物を作っていただきたい」と、メディア・ユニバーサル・デザイン(以後、MUD)に則った印刷物の作成を訴える。
フォントの選び方や組版の仕方、色の使い方を工夫することで、見やすいデザインを作っていくのがMUD の基本だとし、その見やすい情報デザインに加えて読み上げ機能などの支援機能を付加して、さらに理解しやすく伝わりやすい情報デザインに変えていくことが求められているという。これらに配慮することで、一般の人だけでなく、高齢者(白内障・老眼の方)、肢体不自由の方、色覚障がいの方、弱視の方、さらには子供や外国人の人々が、印刷物や看板、Webサイトなどの表示物を見た時に、見やすくて分かりやすいものになっていることがMUD の目的であると、指摘する。
「MUDは多様性を認めてインクルーシブな社会を実現していく上でなくてはならないものです。そのことをしっかりと認識してMUDに取り組んでいただきたい」という浦久保氏。2024 年4月1日から「障害者差別解消法」が改正されたことに触れ、「その中で私たち印刷業に関係してくるのは、情報アクセシビリティの向上を図ることが求められている点です。Webであれば、障がい者や高齢者を含めて誰でもが情報を手に入れられるWebサイトにしていかなければならないという、『合理的配慮の提供』が義務化されました」と情報アクセシビリティの向上を求めた。
SDGsの『誰一人取り残さないために、あなたの企業は何をしていますか?』という問いに対して、MUDはSDGsと非常に親和性が高く、「全ての人に健康と福祉を」をはじめ、6つのSDGsの項目に当てはまっていると指摘する。「考えるべきことは、お客様は印刷物の発注という調達行為の中でMUDが実装されれば、SDGsの6つの項目に対応することになり、お客様のSDGsに私たちはお役に立てるということです」と、顧客へのアプローチの仕方を示唆する。
また浦久保氏は、白内障患者、弱視者、色覚障がい者にとって、色がどのように見えるのかを伝授し、色の使い方や配色方法を工夫する必要があると述べた。
さらに、MUDを実践するための5原則を提示した。
- 「アクセシビリティ(接近容易性)」では、見えない・読めないなど、情報の入手を妨げる要因を取り除く工夫が必要であるということ。
- 「ユーザビリティ(使いやすさ)」は、より快適・便利に使える使いやすさの工夫が必要であるということ。
- 「リテラシー(読めて理解できる)」では、内容がより理解しやすい表現や構成による工夫が必要だということ。
- 「デザイン(情緒に訴える)」は、情緒に訴え、行動を誘発するデザインによる工夫が必要であるということ。
- 「サステナビリティ(持続可能性を満たす品質であること)」では、実現するのに過大なコスト負担がなく、環境にやさしいものである必要がある。を示した。
浦久保氏は、MUD 5原則に則って全国で作成された事例を紹介した上で、「印刷物は単なる工業製品ではなく、情報伝達物です。その情報を受け取る相手がどのような不便さを持っているのかを理解してほしいわけです。そのためにはどのように配慮しなければならないのかを考えてほしいわけです。誰がどんな環境で読むのかを考慮し、障がい者の方が読みやすいということは、健常者の方も読みやすいわけですから、忘れてはいけないことは、興味を引き、ストレスを与えない読みやすいものを提供していくことが大切です」と、印刷のプロの視点でMUDに則ってメディアを作っていくことを提唱した。
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