特化型経営で持続性のある印刷業を目指す!

Monthly Report

5年後も存続させるための6 つの特化型経営

5年後も存続させるための6 つの特化型経営

これまで印刷会社は顧客のニーズに応えようとし、できるだけ仕事を受注してきました。自社でできない仕事があれば外注先や協力会社に依頼して引き受けてきたわけです。しかし、あらゆるものを請け負う経営は個性・特色のない企業にみられがちです。また、他社と価格で比較されやすくなります。小規模企業が安定した経営を続けていくようにするには、他社にない強みを持った営業品目に注力していくことが望まれます。先細りする印刷市場の中で5年後も存続させていくためには、市場・地域性や印刷・サービス内容から強みを発揮する「特化型経営」を目指す必要があります。今回は企業を存続させるための6つの特化型経営について説明します。

付加価値の高い商品・サービスを提供できるようにする

 (一社)日本印刷産業連合会(北島義斉会長)は、2021年夏季に会員10団体に加盟している企業に、アフターコロナの市場ではどのような対応をすべきかについてアンケート調査を行いました。その中で、「アフターコロナにおける市場の変化に対して貴社が実施すべき事業経営対策について、主なものを3つまで選んでください」という質問を行ったところ、最も多くの回答があったのが、「自社の強みの向上と継承」でした。これには319社が選んでおり、2位の「新商品や新サービスの開発」(233社)、3位の「デジタル人材の育成・確保」(221社)に大きく水をあけ抜き出た結果となったわけです。(グラフ参照)
 これだけ多くの印刷関連会社が「強み」を向上させることを望んでいるということは、確固たる「強み」を持っていないか、「強み」を持っていても上手く使っていないかのどちらかだと考えられます。実際、印刷会社の多くは似通った営業品目を扱っており、「顧客から印刷の発注があれば、とにかく受注し顧客のニーズに応えたい」という経営方針になりがちです。そこに他社との差別化や独自の専門性を提示できない状態で経営を続けているというのが見て取れます。特に秀でた特色や専門性がない中で、果たしてこれからの厳しい市場環境で事業を続けていけるのでしょうか。
 とはいっても、現在まで経営を続けてこられたのは競合他社にはない何らかの「強み」を持っていて、その「強み」に顧客が着目し発注してきたからに他なりません。その「強み」を明確にして前面に打ち出した経営ができれば、さらに差別化が図られ優位性を発揮できるのではないでしょうか。将来にわたって安定した事業を継続していくためには、「付加価値の高い商品・サービスを提供できる企業」にならなければなりません。
 では、「強みを持つ」とはどういうことを指すのでしょうか。強みを「何かに特化した経営戦略で自社をブランド化し、同業他社に対して優位性を持つ」と定義したなら、同じ地域の同業者と同じ営業品目で勝負することは得策ではないということになります。顧客の需要を喚起しニーズに応えていくためには、「この印刷は〇〇会社に」「このデザイン制作は〇〇がいる印刷会社」と顧客に想起させることが重要になってきます。これは特定の印刷物に特化しているという意味を超えて、経営理念のパーパス(企業の存在価値)に関わってくる問題です。
 そこで特化型経営の6つのパターンを考えてみました。6つの特化型から1つを選択し、その分野に絞った経営で市場開拓を図っていくことでパーパスを築いて、持続性のある経営を目指していく手法を提示します。既に似たような特化型経営を実践されている印刷会社もいるでしょうが、そういう企業と自社を照らし合わせて、地域性やリソースから経営の方向性を考え直す参考にしていただければと思います。

1.地域社会を支援する特化型経営

 地方の印刷会社では、それぞれ地域に根差した経営を意識して仕事に取り組んでいると思います。近年はCSRやSDGsの目標を掲げた経営が求められていて、それに呼応するようになりましたから、なおさら地域に貢献する企業を目指していることでしょう。そこで地元への貢献を主体にした経営戦略を立てます。地元の活性化を多様な印刷・サービスでサポートすることに特化するわけです。
 つまり、地元企業や店舗、団体に営業を集中させ、地元経済を活性化することで経済的価値を創出する経営を目指します。例えば、「地元商店街でイベントを企画しプロモーションする」「地域住民のためのコミュニケーションツールを開発する」「小学校児童の動画自主制作の支援を行う」といった、地元密着型の経営で確固たる地位を築き、さまざまな印刷物やモノづくりを受注していく経営戦略です。ですから、営業品目は比較的多種多様となり、デジタルコンテンツも扱う必要が出てきますが、リソースからある程度営業品目を絞っていくのもよいでしょう。
 地元の自治会や集会には確実に参加し、自社を認識してもらって、「印刷は〇〇に頼もう」と言われるような地域に密着した経営を心掛けることがポイントになります。

2.特定の業界・業種を支援する特化型経営

 特定の業界に絞って支援する特化型とは、例えば、食品業界、建築業界、医薬品業界、あるいは飲食店、学校といった特定の業界・業種に向けての営業を指します。そのためには既にその業界の企業や組織と取引していないと難しいでしょう。顧客の棚卸しをして、どの業界と太いパイプを結んでいけるか分析する必要があります。そして、その業界・業種から多種多様な要求に応えられる経営に特化しなければなりません。
 そのため、その業界・業種を熟知した知識・制作ノウハウを持ち合わせ、そのビジネス自体や特有の業務の経済的価値を提供できる印刷物や販促品、デジタルコンテンツ、プロモーションなど、さまざまな制作・サービスの提供を総合的に行えることが必要になります。
 例えば、大学のシラバス制作を数校受け持っていて、学校との関係をさらに強化していくのであれば、大学や専門学校のプラットフォームを開発し、大学側と学生のコミュニケーションツールを運営したり、あるいは企業と学校(学生)の仲介を担うプラットフォームを開発し就職支援を行うなど、ITシステムを取り入れた特化型経営が考えられます。

3.個人のコミュニケーションを支援する特化型経営

 これは個人消費者を顧客にするため、BtoCの世界になりますから、印刷会社としてはかなり特殊な特化型経営と言えるでしょう。例えば、個人の自費出版を企画しサポートするサービス、一家の写真をスキャンしてデジタルデータに収納していくサービス、子供の誕生日の記念撮影から写真集を作成するサービス、デザイン性に優れたオリジナルTシャツの製作といった、まさに個人需要に特化したサービスになります。そのため、多品種小ロット化を突き詰めていくことになりますから、できるだけ他社がやりたがらない小まめで柔軟な営業が求められますし、付加価値の高い商品を扱うことがポイントになります。収益性を考えて取り組むことが重要になります。
 個人のコミュニケーションを支援する特化型は、どちらかと言えば、経営者が営業と制作を牽引する数名程度の小規模会社になってくるでしょう。ソリューションプロバイダーやクリエイティブディレクターとして自ら企画を考えて、取材・編集したり、現場で製作したりする経営スタイルになります。WebサイトやSNSを通じて全国からライティングやデザインといった仕事を受注し、テレワークで進めていける体制が望ましいと言えるでしょう。

4.組織に必要な業務を支援する特化型経営

 これは限られた業務を専門的に請け負うアウトソーシング的な役割を担う特化型で、いわゆるBPOになります。この経営手法は2つに分けられます。1つは特定の大手企業の専門業者になるか、あるいは職種や業務を遂行するための高い専門能力で製品やサービスを提供し多くの顧客を持つかの2種類です。
 例えば、Webによる勤怠管理システムの開発、帳票類の電子化サービス、商品の梱包・発送業務、Webサイトの制作なども含まれますから、かなり多種多様だと言えるでしょう。もちろん印刷業務も含まれますが、業務をアウトソーシングするとなれば少し意味合いが違ってきます。印刷で言えば、各種レジメ、企画・提案書、各種資料、社内報などの社内印刷物をデジタル印刷で制作するという業務になるでしょう。

5.顧客が欲しくなる商品を提供する特化型経営

 これは魅力的な印刷物や販促品、あるいは製品を開発し、多くの顧客に販売していく経営戦略です。売れる(買いたくなる)商品を自社で生産するために、開発に投資します。他社より優れた印刷技術や加工技術を持ち、独自の製品づくりをしていくことになります。ブランド力を身につけて国内市場だけでなく世界市場にも目を向け販路を拡大していくことが望ましいでしょう。
 商品として例えば、漫画・アニメのストーリーを考えて最適な作家と共に創り出したり、著名なデザイナーと共にオリジナルTシャツの製作、日本人形の作家とのコラボレーションによる企画・製造などが考えられますが、いずれにしても企画力・商品開発力が求められます。
 欲しくなる商品という表現には、単にモノの販売を意味するだけでなく、サービスの提供も含まれます。例えば、空いた工場空間を使って顧客の商品を保管するサービスなど、自社の敷地のスペースを活かしたビジネスも考えられます。

6.プロの高度な要求に応える特化型経営

 高品質印刷を求める同業者や大手メーカーに焦点を合わせて、丁寧で確実な色校正、高品質な印刷データまたは最終印刷物を提供していく特化型経営です。これは現在の多くの製版会社や印刷会社で実施している経営方針になりますが、単なる外注先や下請け企業という立場ではなく、自社がいないと顧客が困るという対等に近い関係を築いて、高い品質を維持していく品質に特化した経営になります。
 高度な設備や効率化を追求したシステムで、関連会社のニーズに応えて印刷物を提供します。他の特化型と比べて同業者を顧客に持つ経営になりますから、地球環境保全に関するさまざまな認定の取得は基より、カーボンオフセットやカーボンニュートラルの実施が問われてきます。
 また、設備投資も必要に応じて実施していく必要がありますから、資金面などの体力が重要になってくるでしょう。

特化したモノと何でも受注するモノのバランス経営が重要

 特化型経営はある日始めようと思ってすぐに実践に移せるものから、何年も下地づくりをして軌道に乗せていくものまでさまざまです。これまでの経営理念や長年お付き合いのある顧客との関係性から生まれるものですが、それをさらに先鋭化し特化していくことでブランド化することも可能です。
 現在、自社が作っているモノ(印刷物)は、「どんな顧客の何をするモノを作っているのか」、また「どんな顧客がエンドユーザーの何を手伝っているのか」を把握して、そこから自社が「誰」の「何を支援していく」のかを選んでいく必要があるでしょう。
 既に現在作っているモノを180度変えるのは大変ですから、現在の事業を発展させたり、付随するモノを制作したりすることを目指すのがベストと言えます。そうなると、紙媒体だけでなくデジタルコンテンツにも目を向けざるを得ません。6つの特化型経営を目指すにしても、顧客のビジネスをサポートするのであれば、もはや紙の印刷物だけでは顧客に成果をもたらすことは困難です。複数のデジタルコンテンツを組み合わせ、同時に統合したサービスとして提供していく必要があります。
 将来を見据えた場合、「印刷物を作ることだけに固執していていいのか」という視点を経営者は熟考して、方向性を選んでいくことが重要でしょう。そして、印刷物を製作するにしても「顧客の何かを支援するビジネス」に重点を置いた、ビジネス設計と実行力が必須になります。そのためにも外部環境の変化に機敏に対応し、自社の事業に取り入れていく経営手腕が経営者には求められます。
 また、特化型経営を目指すにしても1つのビジネスに絞る必要はありませんし、実際に一種類の商品・サービスに絞ることは現実的ではありません。あくまでも特化型と多角型のバランス経営が重要であり、その売上比率は、例えば、特化した分野が7割で、それ以外の印刷需要が3割程度というように、両者が共存する形での持続性のある経営にしたいものです。

特化型経営 Monthly Report