小ロットカラーの新手法 DTFプリントに注目!

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Tシャツなどのウェアプリント分野に参入し市場を開拓する

Tシャツなどのウェアプリント分野に参入し市場を開拓する

今、ウェアプリント市場で「DTFプリント」という新しい印刷手法が注目されているのをご存じでしょうか。DTFとは、Direct To Film の略称で熱転写方式の一種ですが、専用フィルム(DTF 用のペットフィルム) にデザインデータをプリントして、熱プレスでフィルム上のデザインをTシャツなどの衣服に転写する印刷方式です。このDTFプリントが衣服に直接プリントするガーメントプリント(DTG:Direct To Garment)よりメリットが多いということで、今後、小ロットのウェアプリント市場で成長していくことが予想されています。また、衣類だけでなく各種生地に印刷できるため、のぼり、タペストリー、販促品などにも使用でき用途が多彩なのもメリットです。今回はDTFプリントの紹介とウェアプリント市場の今後について見ていくことにします。

成長するウエアプリント市場

 DTFプリントは、2020年春頃からヨーロッパなどで普及し始め、一気に世界に広がっていきました。日本でも2022年になって注目されるようになり、将来はウェアプリント分野でガーメントプリントに取って代わるオンデマンド印刷の手法と見られています。
 水性顔料インクを専用フィルムにプリントし、熱プレス機をかけて転写させる方式で、従来の熱転写方式よりも鮮やかで滑らかなフルカラーが表現できる上に、低コストでスピーディに仕上げることができるため需要が高まっています。
 多くの印刷会社はウェアプリントを受注していませんが、その要因の1つとして市場が紙の印刷と比べて小さい上に、既に多くの専門業者がウェアプリント市場を形成し新参者が入っていく余地がなく、ビジネスとして成り立たないと認識しているからではないでしょうか。
 しかし、ウェアプリントはアパレルメーカーや既存の大手業者だけで成り立っている市場ではなく、小ロットカラー製品に関しては今後伸びていく分野だと見られており、企画力やデザイン力次第で新規参入でも事業化できる可能性がある分野なのです。
 では、実際の日本のウェアプリント市場規模がそもそもどのくらいあるのかを調べてみたのですが、残念ながらウェアプリント市場のデータ・統計を見つけることができませんでした。そこで唯一、米国カリフォルニア州にある市場調査会社グランドビューリサーチ社が、カスタムTシャツ印刷の世界市場規模を調査していたので、そこから推測することにします。
 同調査によると、2022 年から2030 年にかけてカスタムT シャツのCAGR( 年平均成長率)は9.9% になり、2030年には91億8,000万米ドルに達すると予測しています。カスタムTシャツとは日本ではオリジナルTシャツと呼ばれ、アパレルメーカーが作るTシャツではなく、主に団体や企業が作るオリジナルデザインをプリントしたTシャツを指します。米国では組織・チームの所属名やメッセージをプリントしたりするTシャツが一般化しており、大きな市場を形成し一大産業になっています。

日本でもウエアプリント市場は伸びる

 今後、日本でオリジナルTシャツの市場がどれだけ伸びていくのかは不明ですが、世界で年平均10%程度伸びていくのであれば、日本市場もある程度の伸展を見せることになるでしょう。団体や企業の需要がある以上一定の市場が見込めることは確かですし、Tシャツ自体は個人にも需要がありますから、デザイン次第ではビジネスとして成り立つ可能性があると言えます。
 国内のTシャツの需要が伸びる要因を探りますと、まずは地球温暖化の影響を受けて亜熱帯化し、Tシャツを着る期間が長くなることが考えられます。もはや7月、8月の暑い時期だけでなく、年の半分程度は需要が見込めますし、インナーとして着用できるのもTシャツの特徴です。
 また、デザイン次第で一気に需要が伸びることがあるのもTシャツの特性ですので、ユニークなデザインで仕掛けてみる価値は大いにあります。また他の衣類と比べて安価で購入できるため、購入のハードルが低い点も挙げられます。
 さらに、世代に関係なくスポーツを楽しんだり、ジムに通ったりして健康志向が広がっていますから、スポーツ関連ウェアでのニーズがあります。これらの要因から、Tシャツの市場は毎年一定の需要があるだけでなく、デザイン次第で伸びていく可能性が考えられるわけです。
 しかもウェアプリント市場はTシャツだけではありません。プリントの対象が綿、ポリエステル、ナイロン、デニム、エナメル素材、皮革、不織布(一部除く)など、さまざまな素材にプリントできるため、各種アパレル製品や耐久性が求められるウェアに適しています。また、トートバッグ、ポーチ、のぼり、旗などの販促品にも使用できる多様性がある点も利点です。そのため、BtoB、BtoC共に需要を喚起しやすい面があります。

DTFプリントの仕組み

 DTFプリントを行うために必要な機材設備は、CMYKインクと白インクを搭載した水性顔料のインクジェットプリンター(DTFプリンター)と、バインダー定着機(シェーカーまたはオーブン)、吸煙機の3機材になります。次に材料・消耗費として専用フィルム(転写シート)、インク(水性顔料インク、CMYKと白インク)、パウダー(ホットメルトバインダー)が必要です。
 DTFプリンターは、専用フィルムにインクジェットプリントしてホットメルトパウダーを塗布し、熱乾燥させて転写フィルムを作成する機械です。DTFの転写フィルムはTシャツなどのボディに載せて熱プレスすると、デザインだけが転写されて、転写に不要な箇所を手作業で取り除くカス取りやリタック作業が不要になるので、ウェアプリントの生産効率を向上させる印刷手法として現在注目されており、DTFプリントへの移行が急速に伸びるとウェアプリント業界ではみています。

DTFプリントの製作工程

 Tシャツで説明しますと、まずデザインを制作しなければなりません。通常はDTPで制作し、RIPソフトの操作に必要な画像形式でデータを保存します。次に画像データを印刷データに変換します。DTFはプリンターで専用フィルムにデザインを印刷するのですが、最初にCMYKインクで画像を印刷し、その後、CMYKインクが印刷された画像部分のみを全て網羅するよう、上から白インクで印刷します。白インクの印刷部分は次のパウダー(ホットメルトバインダー)の塗布部分になります。印刷されたフィルムにパウダーを均一に振りかけ、画像部分のみにパウダーが付着するよう余分なパウダーは振り落とします。振り落としたパウダーは再利用できますから、保存しておきましょう。
 次にバインダー定着機(シェーカー)でパウダーを熱処理で溶かして硬化・乾燥させ、転写フィルムを完成させます。このパウダーを熱処理で溶かし、硬化・乾燥さて固める作業をベイキングと呼びます。バインダー定着機を使用すれば、インク部分だけにパウダーが自動的に塗布されるため、余分な部分を剥がす「カス取り作業」が不要になります。
 最後に完成した転写フィルムをTシャツに転写するのですが、DTFプリントはボディカラーに依存しないためさまざまな色のTシャツにプリントすることができます。
 転写フィルムをTシャツの上に乗せて調整し、熱プレス機で熱圧着してTシャツに転写します。冷却しフィルムを剥がしてプレスすれば完成です。

DTFと他ウェアプリント印刷の比較

 ウェアプリントでは主に4つの印刷手法があります。最も広く採用されているのがシルクスクリーン印刷で、一度版を作れば何度でも利用可能で大量生産に向いていますが、デメリットはフルカラーでの印刷では色数分の版を作成しなければならず、それに伴う手間とコストが掛かります。そのため小ロット多品種生産には不向きと言えるでしょう。
 一方、ラバーシートを利用した熱転写方式も利用されていますが、デザインが印刷された転写シートを生地に定着させる際にカス取り作業があり、人手を割く手間と時間が掛かります。
 また、版を用意する必要がなく、衣類や生地に直接デザインを印刷できて、フルカラープリントにも対応するガーメントプリントも普及していますが、こちらは濃色生地やポリエステル生地の場合は、インクの「滲み」の問題を解消するため生地の前処理が必要になりますし、前処理剤の跡や匂いが残るためそれを取り除くケアが必要になる場合があり、手間が掛かるのが難点です。
 これら3つの印刷手法と比較してDTFは、他のインクジェットと異なり多彩な生地にフルカラーで1枚から印刷でき、繊細で細かいデザインからベタ塗りのデザインまで綺麗に表現できるのがメリットと言えるでしょう。小ロットでデザインに拘ったものが可能で、多彩な生地に印刷できる点も利点です。また、材料費も他の印刷手法よりも低コスト化でき、全体のランニングコストを抑えることができます。

DTFプリントのメリットとデメリット

 DTFプリンターのメリットをまとめますと、以下のようなことが言えます。
❶材料・消耗品のランニングコストが安い。
❷版を必要としないため小ロットから量産まで対応可能。
❸カス取り作業やリタックの必要がない。
❹全自動化が可能なため大量の転写フィルムを高品質・低コストで製作が可能。
❺デザインの制約がない。
❻プリントの対象が幅広く、作業性が高い。
❼生地への前処理が不要で、処理跡や匂いが残らない。
❽素材の材質や色によってフィルムの種類を変える必要がなく、全て同じ種類のフィルムで使用可能。
❾高度な技術や印刷知識が不要。

そんなメリットが多いDTFプリントにもデメリットはあります。「平らな面のみしかプリントできない」「境界線がぼやけたデザインは不向き」「プリント部分は貼り付けた感じが残り、通気性に欠ける」などがデメリットと言えます。

各メーカーから各種DTFプリンターが次々と開発販売されている

粗利を上げられる製品作りを

 ビジネスとして考えた場合、どれだけの粗利があるかを算出する必要があります。無地のTシャツ1枚当たりの仕入れ価格は数百円ですから(一般的には400円~700円)、それにデザイン制作料、材料費、印刷コスト、人件費、送料など必要なコストを合算して、採算性を考えなければなりません。
 粗利を上げるためには、オリジナルデザインで単価が高い製品を作りたいですが、当面は既存客の企業や団体に対して、イベントや業界の展示会、大会の開催時に着用するスタッフ用Tシャツやトレーナー、ジャンパーなどのプリントを企画し提案するのもよいでしょう。もちろん、ウェアプリントの新規開拓を展開するのであれば、Webサイトで受注・販売をアピールすることも大切です。
 いずれにしてもデザイン案を顧客に事前に提示する営業を行い、可能であれば実物を製作し持参してみることをお勧めします。顧客は自分ごととしてより興味を示すはずですから効果的です。1枚当たりの製作コストは大して掛かりませんから、営業経費と考えて臨みたいものです。
 また印刷会社が自社のオリジナル製品として販売していくのであれば、漫画家やミュージシャン、著名なクリエイターとコラボレーションし、独自のデザインを考案し販売するのもよいでしょう。売上からデザイン料を支払うことになるでしょうが、付加価値が出てファンが購入してくれる可能性がありますから、収益性のある製品になる可能性が高いです。一考する価値はあるでしょう。
 ウェアプリント分野では生産性を向上させる機械が各メーカーから次々と開発されています。今後、DTFプリントに関するセミナー、展示会などを通じて事業化を検討してみてはいかがでしょうか。今では新規事業に対する補助金や助成金の各種制度がありますから、それらを活用してリスクを軽減した導入も可能です。

生産性を向上させる機械装置の開発が進む

したフィルムをTシャツに転写する作業をサポートするロボットの販売を開始しました。
 回転プレス機の必要工数のフィルム剥がしとTシャツのボディ脱がしを自動化する協働ロボットで、これにより、作業負担の軽減、業務効率化、人件費の削減を図ることができ、生産性を大幅に向上させることができるというわけです。同社では、これまで1人の作業者で1時間当たり50枚のTシャツを製作していたのが、この協働ロボットを使えば、1人1時間当たり200枚を製作できるとのことです。

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