企画力を活かし自社商品を開発、業態変革に成功
1925年に創業し、今年100周年を迎える株式会社イングカワモト。90年代になりデザインとプリプレスに比重を置き、企画からデザインに注力する製版・印刷会社へと発展した。2011年には新規にネイルシール事業を立ち上げて自社商品を開発し、業界のトップブランドとなった。川本嘉博社長に事業内容について話を伺った。
株式会社イングカワモト
〒460-0008
本社 : 愛知県名古屋市中区栄4-17-18川本ビル
https://ingk.jp/
レジンクラブURL https://resin-club.com/
ツメキラURL https://www.tsumesakirari.jp/

代表取締役社長
川本 嘉博(GC中部)

創業100周年を迎えさらなる発展を目指す
㈱イングカワモトを率いる川本嘉博社長は三代目である。「三代目が会社を潰す」という言葉があるが、同社に関してはその言葉は当てはまらない。むしろ逆で、川本社長がさらに発展させ同社を成長させてきたのが実情だ。
1994年に代表取締役社長に就いた際に、社名を「株式会社イングカワモト」に変更。いち早くMacを導入しデザイン制作と出力業務を手掛けた。本格的に主流になりつつあったDTPを推進すると同時に、企画・デザインに注力する企業として市場を拡大し確固たる地位を築いた。
また、オンデマンド印刷機の導入、印刷ショップの「印刷工房NANA」を立ち上げ、地域に密着したビジネス展開も行ってきた。
しかし、このまま従来の製版・印刷だけを続けていくのは先細りするということで、「企画からデザイン、印刷、WEB制作に至るまでのワンストップ受注に力を入れることにしたのです」と、提案型のセールスプロモーションを軸に多岐にわたった事業を展開してきた。さらに、IT 事業にも進出し、デジタルブック技術を応用した文書管理システムの構築も手掛けた。
そんな状況下、一大転機が訪れるのである。「ネイルが好きな社員がいて、ネイルシールを作ってみたいという提案があり、導入を検討していたプリンターと当社のデザイン力、画像処理技術や印刷技術があれば商品を作ることができると判断し、自社でネイルシールを開発し商品化することになったわけです」と、川本社長は述懐する。
ここで注目すべきは、一人の社員の発想に耳を傾け、商品の開発・販売を検討することにした点である。従来の印刷やデジタルコンテンツ制作とは違って、ネイルシールという経験のない新しい商品を自社開発するわけであるが、そこには川本社長の英断と社員の熱意があったことが窺える。
ネイル業界は当時からジェルネイルが主流で、プロのネイリストが手描きでアートを行うことがほとんどであった。シールを使うことはあってもプロが使うには品質、デザイン共に満足できるものではなかった。そこでターゲットをプロのネイリストに絞り、高価格帯でプロクオリティの材質、デザインのシールを開発し、市場に投入した。
「とにかく当社としては、従来の印刷の受注産業から脱却し、自社商品を開発できるメーカーに生まれ変わっていかなければと考えたのです。その上で、シールの商品化は、今まで培ったデザイン力や製版技術、マーケティングやプロモーションのノウハウが活かせますし、さらにWEB チームがECサイトを作ることができ運営もできます。そこで、素材の選別、技術力、デザイン力に注力し、市場にある他社よりも秀でたより良いものを開発し、売れる商品を提供していくことに心掛けました」と、川本社長は話す。
社員の発案で生まれた商品「ツメキラ」が成功
そして誕生したのが「ツメキラ」である。この「ツメキラ」は2011年6月に発売したが、ネイル業界の流通も知らず、かつ当時使用していた既成のシール素材はプロのネイリストが満足できるようなものではなく、まったく売上は伸びなかった。薄さだけではなく爪に馴染んで貼りやすいシール素材を開発する必要があった。数多くのネイリストの方々に検証してもらい、ようやくプロが満足できる「ツメキラ」が完成した。ネイル商材専門の展示会に出展し、業界や流通を知り、認知をしてもらうことで、この新しい素材の「ツメキラ」は好評を博し、大手代理店からも注文が入るようになった。
第一線で活躍しているプロのネイリストとアンバサダー契約を交わし、次々と商品開発を行うだけでなく、マーケティングの理論を基に人気ネイリストとコラボレーションして、新作を販売していった。
また、ジェルネイルと同じアクリル樹脂を使うレジンアクセサリー用シールの「レジンクラブ」も立ち上げて、新しいカルチャーの醸成も展開、今では「ツメキラ」と同程度の売上になっている。さらに「スポーツ応援観戦フェイス&ボディシール」や、布用シール「生地デコ」の開発・販売にも乗り出している。
「今ではネイルシールを含めたシール商品の売上が全体の75%ほどを占めています。総出荷枚数は250万枚を超えます。」とのことで、ネイルシール業界のトップブランドを築き上げたのである。
このようなシールの開発では、技術力だけでなく、デザインセンスとトレンドがとても重要になるため、デザイン制作に協力してくれるアーティストとのコラボレーションの推進、マーケティングや新たな市場への販売ルートの開拓には余念がない。「これからも『想像力をカタチにして楽しく心地よい毎日を提供する』という当社のミッションに基づき、お客様に喜ばれる商品の開発・販売に力を合わせて注力していきます」と川本社長は意気込みを示す。企画力とデザイン力で自社商品を開発し、業態変革に成功した好事例と言えるだろう。




|