株式会社浅野製版所■「健康経営」を実現し持続性のある企業に蘇る
株式会社浅野製版所は、この10年間で「健康経営」を推進しワークライフバランス、働きやすい職場環境づくりをしてきた企業である。健康経営優良法人(中小企業部門 ブライト500)の認定をいち早く取得した他、さまざまな健康経営に関する施策を推進し、持続性のある企業に生まれ変わった。GCJの組合員にとっても事業を将来にわたって存続させるために大いに参考になると言えるだろう。

産業カウンセラーによる全従業員面談を実施
株式会社浅野製版所は、印刷業界でいち早く「健康経営」を推進してきた企業である。「健康経営優良法人2023」認定(初年度2017年より7回連続)を取得しているだけでなく、同制度における中小規模法人のうち、上位500 社に与えられる「健康経営優良法人 ブライト500」を取得している。さらに、東京都の健康優良企業認定の最高称号「金の認定」も取得しており、印刷業界で最も健康経営に注力し実践している先進的企業と言っても過言ではない。
そんな同社も、10 年ほど前までは売上重視・能力重視の経営で従業員に過重労働を強いて、従業員は神経をすり減らして働いている状態だった。
しかし、今では頻繁にさまざまな業界・団体から健康経営に関する講演依頼がくるほど、業界のお手本と言える企業に変貌を遂げたのである。そこで、業界として参考にすべき同社の健康経営についてレポートする。
同社は今年で創業87 年目を迎えた老舗の製版会社。高品質な制作とサービスをモットーに、新聞・雑誌広告、OOH、商業印刷等の企画、デザイン、レタッチ、各種制作の他、各種デジタル広告の企画、デザイン、データ制作を手掛けている。広告代理店をはじめ多くの企業から受注し、企画、デザイン、印刷まで一貫制作し顧客からの厚い信頼を得ている。
10 年程前までの同社は、従業員に多大な残業時間を強いていた。過酷な労働環境下での仕事に社員の不満は絶えなかった。離職率は高く、人材の自転車操業に陥っていたのだ。ステークホルダーも会社の将来に期待していなかったという。
このままでは将来性はなく衰退していくと感じた三代目の浅野光宏社長ら経営陣は、2012年に産業カウンセラーの資格を持った人事労務担当者を採用したことを機に、働き方改革を実施することを決断し、社内変革に乗り出したのである。
最初に行ったことは人事担当者と役員による全社員との面談であった。職場の雰囲気、問題点、困っていることなど、社員から話を聞いて現状を把握し、改善していく上での情報収集と整理に注力したのである。
その時に、精神的負担と身体的負担の健康課題が問題であることを重視し、まずは社員全員が健康課題に向き合える環境の土壌が必要だということになった。
企業を存続させるために改革は不可欠だった
面談の結果、事業を今後も継続していくためには、働き方の多様性を認め、社員がどんな状況でも健康で働き続けられる職場を構築していくしかないと考え、性別に関係なく活躍できる組織作りを目指すことになったのである。
初めに取り組んだのは、業務の棚卸しと荷卸し、仕事の流れを阻害する原因の洗い出し、作業や能力に合わせた業務配分によるスケジュール管理、長時間労働の是正、業務の効率化、評価制度の確立などであった。これらを実践するために仕事の流れやワークフローをデジタルで管理・把握する、独自のMISを開発し導入した。
健康経営を実施した結果、2011年と2023年を比較すると、月の平均残業時間37時間が8時間に大幅に減少。月45時間超えの長時間労働者数月平均15 名だったのが0になった。年次有給休暇取得率も40%から98%(平均16日)に改善し、年間休日は104日から120日となった。
また、育児・介護との両立では、産休・育休取得者(女性社員)が0から1名に、妻の出産時の特別休暇2日(男性社員)の男性社員の利用が100%に、子育てのための時短勤務者(女性社員)が0から2名になった。さらに、育児・介護を行う男性社員は0%から58%に激増したのである。
健康経営を推進した結果、えるぼし認定をはじめ各種認定制度を取得した他、経営企画部を中核に、問題が発生した場合の体制フローの確立、従業員のメンタル面での健康度や仕事に対する意欲などを示すワークエンゲージメントの向上を図ることができた。
同社では、事業を継続していくために社員の健康課題を把握し企業全体で健康経営に取り組む必要があると提言しているが、「これからの人手不足時代に備えるためには、国がホワイト企業として認定してくれる健康経営優良法人認定の取得は必須事項。さらに健康経営優良法人申請時の認定項目は、組織の課題を洗い出す最強のツールです」と明言する。
そして、「健康経営に関する数々の施策は、企業を存続させるためにどうしてもやらなければならなかった取り組みでした。受け身体質だったのが今では自走できる体制になりました」とのこと。この健康経営による働き方改革は、同じ組合員にとって参考にしたい取り組みだと言えるだろう。




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