有限会社シャチ工芸社■地域に根ざしてさまざまな印刷需要に応える
企画デザインからDTP制作、印刷まで一貫制作を築いている有限会社シャチ工芸社。地元名古屋市に根ざした営業で、顧客の満足度を高める印刷需要に応えている。後藤康之社長は自らの体験もあってBCP対策への意識が高い。地域社会との繋がりを重視した経営方針や印刷事業について話を伺った。

就職先で印刷業の基本や楽しさを知る
同社は昭和43年に後藤社長のご尊父様が設立し、今年で創業55年になる。会社は名古屋市の中心市街地に近く、周囲は企業とマンション群に囲まれた環境にあり、地域に根ざした経営を展開している。
最初に後藤社長の経歴について伺ったところ、「20歳の時に専門学校を卒業し、今後の仕事について考えている時に、父親が3年間という期限で話をつけてくれた大阪の印刷会社に、富士フイルムの部長さんの口利きもあって就職することになりました」と、印刷業に携わった経緯を話す。
大阪の印刷会社では「社会人として多くを学び、また印刷の仕事の楽しさややりがいを知ることができ、良い経験となりました。23歳の時に名古屋に戻って父親の下で会社の仕事に就いたわけです」。
その大阪時代に印刷の仕事を学んだことで、名古屋に戻った時に印刷業に興味を持つようになったという。「将来もずっと印刷業を続けていきたいという気持ちがふつふつと湧いてきました。それに伴い父親の後を継ぐ考えも芽生えてきました」と、述懐する。
社屋は3階建てで有限会社シャチ工芸社が企画デザインからDTP・製版事業を担っており、別会社として株式会社ダイオーが色校正業務を行う分業体制を採っているのが特徴だ。1階は色校正業務、2階は刷版、3階はデザインから製版までの制作部門になっている。
営業品目は、チラシ、パンフレット、カタログ、ポスター、パッケージBOX、ラベルなど多岐にわたっており、企画デザインから携わっている。
「昨今は色校正の仕事が減少してきました。それでMacによる企画デザインに注力し、印刷まで請け負うようにしています」とのこと。主力印刷機はリョービのA3判縦通し単色オフセット印刷機、その他に昨年、コニカミノルタのオンデマンド印刷機「Accuriopress c4080」を導入した。「実は当社は早くからオンデマンド印刷に取り組んでおり、オンデマンド印刷機は既に4台目になります」と、デジタル印刷需要に対応して積極的に進めている。
体験を通じてBCP対策を推進する
また、インクジェットプリンター「エプソンMAXART PX-H10000」を保有しているが、「昔は色校正用に使っていましたが、今はポスターなどの単品物が増えつつあります」とのことで、印刷需要はほとんど小ロット物になりつつある。
「弊社では企画デザインに注力しており、チラシやパンフレット、ラベル、シールなどのデザインも行っています。印刷機を保有していますから、生産工程を内製化できる点が強みです。営業では、作り過ぎてももったいないので必要な部数だけ刷って、それより多品目でバリアブルにしたほうが効果的です、という話をしています」と、顧客のメリットを考えたきめ細かい対応で臨んでいる。
ところで同社の売上構成は、「3分の1が一般企業や一般顧客の制作から印刷まで請け負う仕事で、3分の1が印刷会社の下請けの仕事、残りの3分の1がフォーム印刷のデータ制作と大きく3つに分けられます」。
昔は印刷会社に依存度が高い下請け会社であったが、仕事減少や将来のリスクが高いということで、一般企業の仕事を増やしていったという後藤社長。フォーム印刷に関しては、別の会社で事業展開していたものを15年程前にM&Aで事業を引き継いだとのことだ。
2011年に社長に就いた後藤社長。モットーにしていることは「『思いや情報を伝え残す』ことです」。そして「お客様がイメージしたものを、いかにより良く表現できるかを考え、お客様の実際の目的に応えられ、ご満足いただける制作を目指しています」と話す。さらに「地域と繋がることはビジネスで大事ですから、町内会やPTAなど地域活動でやれることは全部取り組んでいます。この地域で印刷業をさせてもらっているわけですから、少しでもお役に立てればという思いがあります」と、地域との繋がりを大切にしている。
また同社は、経済産業省の「令和3年度事業継続力強化計画認定」を受けている。同計画は中小企業が自然災害等による事業活動への影響を軽減することを目指し、事業活動の継続に向けた取り組みを計画するもの。
「大阪の印刷会社に就職した時、1995年に阪神・淡路大震災を、また、2000年の東海豪雨の被害も経験し、データのバックアップの重要性を肌で感じていましたから、BCP対策の観点から認定を取得しました」。
後藤社長は「必要とされる印刷物は減少しても無くならないと思っています。デジタル印刷を含め新しい技術に対応し、紙の印刷なら何でも引き受けて需要を喚起していきます」と、紙の印刷業を今後も貫いていく方針である。




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