有限会社北九州写眞製版社■金属版製作の受け皿としてニーズに応える
有限会社北九州写眞製版社は、箔押し用金属版、シール印刷用金属版の製作を事業にしている製版会社である。同社は数少なくなった金属凸版製作の受け皿を担っており、その特化した事業で独自の需要を開拓している。中村賢社長に現在の事業状況、これからのビジョンについて話を伺った。
アルバム製作会社など確固たる顧客から依頼が
同社は、中村社長のご尊父様が1970年に設立した会社で、中村社長は二代目になる。「今から20年程前になりますが、当時、岡山で印刷とは全く関係のない会社でエンジニアとして働いていましたが、父が体を壊したのをきっかけに帰ってきました。ゼロから仕事を覚えることになるため大変な状況ではあったのですが、幸いと言いましょうか、アナログ製版の金属版製作ということで、確固たるお客様がいたからこそ、当時の印刷業界がCTPのデジタル化に移行していく中で、独自の事業に特化することができました」と振り返る。
得意先は仕事内容から製本会社や紙器製作会社が多く、厚い表紙の上製本などの題字やロゴを箔押し加工するための金属版の製作を請け負っている。またフィルム製版も行っており、全国各地から依頼があるという。「特に金属版については品質とスピードに自信があります」とのことだ。
「得意先の1社に、北九州市でアルバム製作を全国展開されていらっしゃる印刷会社さんがいて、そのお客様から学校のアルバム作りで箔押し用金属版の製作を受注しています。また、紙器関連のお客様からも箔押し金属版を求められることが多いのです。例えば、焼酎の箱をはじめ高級なお酒の箱にはほぼ箔押し加工がされていると思いますが、そういった箱を製作されているお客様から仕事を受けることが多いですね」と、中村社長は話す。
主な営業品目は、箔押用金属版、シール印刷用製版、フィルム出力、版下撮影(ネガ撮り)、浮出用版、型押し版製作の他、活版印刷、版下制作、オンデマンド印刷も受けている。「弊社では、エンボス加工、デボス加工などの浮出し加工の特殊製版も製作しており、立体感のあるデザインと独特な手触りは魅力的です。今までの印刷物をデザインで差別化することができます」。
同社はマグネシウム版の製作が主体ではあるが、これは銅版よりも細かい絵柄を表現できる上に製作コストが安価というメリットがある。
箔押し加工について「使用する箔色や質感によって、印刷では表現できない高級感やインパクトを演出し、見る人を惹きつける力があります」と、中村社長は箔押し加工の魅力を話す。
ホームページから新規の受注も増えつつある
箔押し加工の用途は広く、名刺、パッケージ、カード類、ポストカード、各種シールなど多彩だ。また、同社では一生の記念として「世界に1つだけの案内状を」を謳い文句に、活版印刷でオリジナル婚礼用案内状を制作している。活字製版から活版印刷、箔押し加工まで社内一貫体制で、ひときわ目立つ案内状を製作し好評を博している。
ホームページ上では取り扱っている製品画像を1点ずつ表示し、分かりやすくするだけでなく、お問い合わせフォームを設け顧客の声も集めて製作に活かしている。
新規営業については「弊社は小規模のため受注した版の製作に時間を取られることが多く、営業になかなか時間を割けないのが正直なところです。しかし、ホームページを開設してから、口コミだけでなくホームページを見られたお客様から仕事をいただくケースが増えています。九州だけでなく、中四国地方でも箔押し用金属版を製作しているところは弊社くらいしかありませんから、それで問い合わせや相談をいただくことがあります。中には東京から原稿を送ってこられるお客様がいて、フィルム製作から取り掛かるケースもあります。金属版を求められているお客様にとっては最後の砦ではないですけど、弊社が受け皿になってサポートできればと思っています」と、ホームページを見て発注する顧客も出てきているという。
売上については「同業者がいなくなったことで弊社にその仕事が回ってくることがあり、その点では複雑な気持ちですが、お陰様で受注自体は減っておらず今のところ売上は安定しています」とのことだ。
活版印刷はデジタル化する印刷業界で減少の一途を辿っているが、その風合いや手触りの感触から活版印刷を求める顧客が一定数いることは確かである。「活版にしても金属版にしても取り扱うケースが限られてきていますが、商品によっては高級感やデザイン性のある付加価値の高い商品を提供できます。弊社では急な製作でもお受けできすのでお問い合わせください。『古いものは新しい』という温故知新の発想に基づいて今後も昔の技術を継承しつつ、それを新しい仕事に繋げてゆきます」と、金属製版という独自の技術やノウハウを強みに変えて事業を継承している。
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